2023年度租税法2(EX412)




期末試験解説 2024年1月25日(木)1時限実施

 配点は時間配分の目安にすぎず、問題に関し租税法学上意味のある記述には配点以上の加点の可能性がある。抜粋されてない条文も関係しうるが抜粋されてない条文を掲げないことは減点事由としない。計算結果が違っても計算過程の加点の可能性がある。原則として日本の現行法令に基づくが、震災復興増税・地方税法は無いものとし、地方消費税は無く、国税としての付加価値税の税率が10%であるとし、法人住民税や事業税は無く、国税としての法人税率は30%であるとし、年単位の計算とする(月日の考慮は不要とする)。本問の全ての法人は居住地国の消費税法上の課税事業者である。日本とX国との間でOECDモデル租税条約と同内容の租税条約(23条は23B条:外国税額控除方式)が締結されている。X国の租税法令及び通貨は日本と同じである。
 御代田(みよた)酒造(以下「M社」。日本法人。代表取締役は駒田琉生)はウィスキー(以下「W」)の製造・卸売りをしている。M社はW製造のため東海林努(以下「S氏」。X国居住者)がX国で製造した樽(以下「T」)を税抜価格800万円(税込価格は自分で計算せよ。以下同様)で仕入れていた。S氏はT製造に際し原材料を他のX国法人から税抜価格100万円で仕入れていた。M社は幻の銘酒・独楽(こま)(以下「K」)の復活を期し、非関連者たる日本法人から蒸留機器・ZEMON(以下「Z」)を税抜価格5000万円で年度初めに購入した。M社は購入資金を調達するため、桜(おう)盛(もり)社(以下「O社」。X国法人。M社の親会社)から金銭を借り入れた。K製造のブレンディング・メモがM社になかったためK復活は難航した。琉生の先代・駒田滉と親しかった安元広志(以下「Y氏」。日本居住者)はK製造の秘訣を聞いていた。Y氏はM社にK製造の秘訣を伝授する役務を無償で提供した。数年後、M社はK復活に成功した。その時、Y氏はニュースバリュージャパン社(以下「N社」。日本法人)の雑誌編集長であった。N社の雑誌でKが紹介されることを期待しつつY氏へのお礼の意味も込めてM社はKを百本N社に贈与した。
 (1)(15点)S氏が消費税法上の課税事業者である場合とない場合とで場合分けをした上で、原材料の仕入れ及びTの輸出に関する消費税法上の扱いを説明せよ。
 (2)(15点)M社のZ購入に関し、法人税法上の損金の額の計算と消費税法上の仕入税額控除の額の計算との違いを説明せよ。なお、計算に必要な情報が問題文にないので自分で情報を補うことが望ましい。
 (3)(30点)M社が借入金利子をO社に対し支払うに際し、日本の課税庁がM社の支払利子の損金算入を一部否認する可能性が複数ある。日本の課税庁の立場で、その可能性の法律構成を複数(配点の大きさに留意)説明せよ。
 (4)(15点)(3)の否認が無い前提で、M社がO社に支払うべき利子(額は自作せよ)に係る源泉徴収税の納付について説明し、次に、当該利子受領に関するO社の法人税法上の扱いを説明せよ。
 (5)(10点)Y氏のM社に対する役務提供が無償である場合の、M社の法人税法22条2項の適用関係を説明し、次に、その適用関係の合理性を説明せよ。
 (6)(15点)M社のN社へのK贈与に関する法人税法上の扱いを説明せよ。
[条文抜粋は省略]

【解説】
 (1)教科書242-244頁参照。S氏が課税事業者である場合、S氏は税込価格110万円で原材料を仕入れ、消費税法7条に従い税抜価格800万円(税込価格も800万円のまま)でTをM社に輸出する。S氏の売上税額は0円、仕入税額は10万円であり、合計すると、10万円の還付を受ける。S氏が課税事業者でない場合、仕入税額控除を主張する権利が無いので、S氏は原材料に係る10万円の税負担を還付してもらうことはできない。
 (2)教科書182-183頁、187-192頁、247頁参照。M社はZを税抜価格5000万円、税込価格5500万円で購入した。しかし、法人税法上の損金算入額は、購入年度の減価償却費部分に限定される。問題文では耐用年数等の設定が書かれてないので、減価償却の計算を定額法によることとし、耐用年数が5年、残存価額が0円であるとすると、税抜経理を前提とした場合5000万円の1/5の1000万円のみが購入年度の損金に算入される。消費税法は減価償却の計算をせず購入年度に仕入税額全額を控除するので、仕入税額500万円について仕入税額控除権が発生する。
 (3)複数の可能性がある。法人税法37条1項の寄附金の損金算入限度額を超える部分の損金算入制限、租税特別措置法66条の4の移転価格税制、租税特別措置法66条の5の過少資本税制、租税特別措置法66条の5の2の過大支払利子税制の適用の可否を検討してほしい。
 (4)M社がO社に支払うべき利子の額が400万円の場合、租税条約11条2項により日本の課税権は10%に限定されるので、M社が400×10%=40(万円)の源泉徴収税を日本に納付する。M社が源泉徴収税天引き後にO社に支払う額は360万円である。O社は400万円の利子を受け取り、これについて控除すべき費用がないとすると、課税所得は400万円であり、X国の法人税率は30%であるので、400×30%=120(万円)の法人税納税義務が生じるところ、日本の源泉税額40万円について、租税条約23条及び法人税法69条1項により外国税額控除の権利があるので、O社のX国に対する外国税額控除後の納税額は120−40=80(万円)である。
 (5)法人税法22条2項は「無償による資産の譲受け」を益金に算入すると定めている一方で、無償で役務提供を受けることは定めていない。そのため、無償で役務提供を受けることによる便益をM社は益金に算入しない。この適用関係の合理性については、M社がY氏に無償でなかったら支払ったであろう役務の対価について実際には支払っていないので法人税法22条3項の損金として控除できない、という形で自動的に課税所得が大きくなる、と説明される。
 (6)教科書169頁、198-199頁参照。M社のN社に対するKの贈与は、M社にとって法人税法22条2項の「無償による資産の譲渡」に該当するため、益金計上事由である。益金計上額は法人税法22条の2第4項の「通常得べき対価の額に相当する金額」である。つまり贈与したKの時価を益金に算入しなければならない。次に、Kの贈与は法人税法37条1項の寄附金に該当するので、同項及びその指示する政令で定まるところの寄附金損金算入限度額を超える部分の額の損金算入が否認される。K贈与が広告宣伝費であれば法人税法37条1項は適用されない(37条7項参照)が、本問で広告宣伝費に当たるという主張は認められ難いであろう。
 N社にとっては法人税法22条2項の「無償による資産の譲受け」であるから受贈資産の時価相当額を益金に算入しなければならない。

【講評】
 (1)平均8.08点。程々にできていました。
 (2)平均3.85点。法人税法上の損金算入額が減価償却費部分に限定されることを指摘できた人は自慢してください。
 (3)平均8.46点。租税特別措置法66条の4や66条の5の規定が読めればボーナス的に得点がもらえる所です。
 (4)平均2.38点。外国税額控除まで指摘できた人は自慢してください。
 (5)平均0.38点。殆どが法人税法22条2項の「無償による……役務の提供」の話であると勘違いしていました。
 (6)平均3.33点。寄附金損金算入限度額を超える部分の寄附金の損金算入が制限されることを指摘できた人は多いですが、M社、N社それぞれ法人税法22条2項の益金計上事由であることはあまり説明できていませんでした。
 
 全体平均26.23点、標準偏差14.96点。今回は上下にあまりばらけませんでした。大っぴらには言えませんが成績評価には手心を加えています。

 

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