オデコ大陸棚事件(東京地判昭和年3月14日行集35巻3号231頁、訟月30巻8号1472頁、税資135号287頁、原審東京地判昭和57年4月22日行集33巻4号838頁)をあるところで担当しましたが、字数制限がありますので、色々削ることとなりました。別原稿におこし補遺の論文としてどこか紀要とかに載せるほどでもなく、しかし捨てるのも勿体ないので、そのときのメモをアップすることにしました。 <事実の概要:非短縮版>  X(原告・控訴人)(オデコ・ニホン・SA)は、日本法人・A(国土総合開発株式会社)の100%出資に係るパナマ共和国法人・B(ジルド・インターナショナル)と、アメリカ法人・C(オデコ本社)の100%出資に係る英領バハマ法人[行集の「パナマ法人」は誤記]・D(カナム・オフショア・リミテッド)とがそれぞれ50%ずつ出資して昭和45年3月10日に設立したパナマ共和国法人である。  昭和45年3月13日、日本法人であるE(西日本石油開発)は、C(オデコ本社)と契約し、Eが鉱業権を有する日本沖合の鉱区でCが油井の掘削作業等を行うことを請け負うこととなった。同日、Xは、Cから前期請負契約に係る一切の権利義務を譲り受けた。Eは、鉱業法に基づき、島根県、山口県及び長崎県沖の大陸棚の鉱区に石油、可燃性天然ガス等の掘削を目的とする試掘県の設定を受けた。Xは、石油、可燃性天然ガス等の探索を目的として、昭和46年2月27日から昭和48年7月18日までの間に、前期鉱区(いずれも日本の領海外にある)内において、リグを使用し試掘井(水深131〜192m)の掘削作業を行い、Eから掘削作業に係る対価の支払を受けた。  日本法人・F(帝国石油株式会社)は、福島県沖の大陸棚の複数の鉱区に石油及び可燃性天然ガスの掘採を目的とする試掘権の設定を受け、昭和48年5月22日及び同年6月21日に登録をし、更に茨城県沖の大陸棚の鉱区の登録を同年8月28日にした。一方、Fはアメリカ法人・G(エツソ・アブクマ)との間で前記鉱区における油井の掘削請負契約を締結し、Gは同年6月1日にEからEのXに対して有する前記沖合掘削請負契約に係る権利義務一切を譲り受け、GはXに前記鉱区での掘削作業を依頼した。そこで、Xは同年7月25日から昭和49年7月8日までの間に、前記鉱区(いずれも日本の領海外にある)内において、リグを使用し試掘井(水深119.5〜154m)の掘削作業を行い、Gから掘削作業に係る対価の支払を受けた。  昭和46年1月25日、Xはパナマ共和国法人・H(オーシヤン・コントラクト)(BとCとがそれぞれ50%ずつ出資)との間で契約を締結し、Xの請負掘削業務に関する事務その他の関連サービス及びデータをHがXに提供することとなり、とりわけ作業用機材等の手配・保守管理及び作業員の雇用援助を行い、そのために必要な事務所及び要員を準備することとなった。更に、Xは、Hの日本支社に対し、日本においてXに代わり日本政府に対して必要な諸手続を行うなど所定の事務を処理する代理権を付与した。即ち、Xは、Hに対し本件掘削作業に係る事務(オフィス業務)を代行させ、Hの日本支社(東京都港区芝西久保明舟町)をもってXの本件掘削作業に係る実質的な本拠としていた。従って右所在地はXの納税地に該当する。  Xのような外国法人は、法人税法138条に規定する国内源泉所得を有する場合のみ法人税を納める義務がある(同法4条2項)。  昭和48年に、Xは東京国税局から、Xには法人税の納付義務があるから確定申告書を提出するようにとの指導を受けた。そこで、Xは昭和49年3月8日付で東京国税局に対し法人税納付義務がないことを主張した。Y税務署長(被告・被控訴人)(芝税務署長)は、同年8月24日付で昭和46〜48年度(本件係争年度)の法人税の決定及び無申告加算税賦課決定の処分(本件処分)をなした。同年10月23日付でXは異議申立をし、昭和51年6月15日に異議決定があり、同年7月12日付でXは審査請求をなし、昭和53年5月24日に審査裁決があった(行政不服審査手続におけるかような遅延ぶりについて及び理由付記不備についてもXは違法性を訴えているが、本稿では扱わない)。そこでXは本件処分の取消を求めて提訴した。  Yは、Xの本件掘削作業による所得は同法138条1号が国内源泉所得の一として定める「国内において行なう事業から……生ずる所得」に該当する、と主張した。その理由として、大陸棚条約2条1項が「沿岸国は、大陸棚に対し、大陸棚を探索し及びその天然資源を開発するための主権的な権利を行使する」としているところ、大陸棚条約を批准していない日本も慣習国際法に基づき大陸棚について主権的権利を有していたのであり、主権的権利の行使には対外的な意思表示は必要でなく(国際司法裁判所昭和44年2月20日北海大陸棚事件判決の判示を根拠とする)、そして、この「主権的権利」の中には課税権も含まれる、と述べた。  これに対し、Xは、日本が大陸棚について主権的権利を有していないと主張した。その理由として、日本は生物資源に対する主権的権利を否定しているところ、大陸棚条約は大陸棚の「天然資源」には鉱物資源と生物資源が含まれるとしていて、かつ、このことについて同条約12条が留保を許していないので、日本は鉱物資源に対する主権的権利を国際法上主張できない、と述べた。また、仮に日本が主権的権利を行使できるとしても、主権的権利に課税権は含まれず、また、仮に主権的権利に課税権が含まれるとしても、大陸棚における鉱物資源の探索・開発から生じる所得について租税を課することを規定した法律が存在しない中で法人税を課すことは憲法84条の租税法律主義に違反する、と主張した。  一審(東京地判昭和57年4月22日行集33巻4号838頁)は、Xの主張を斥けた(控訴審判決も一審判決を引用するので、その紹介は下記<判旨>に譲る)。  X控訴。法人税法2条1号が「国内」を「この法律の施行地をいう。」と定義しているところ、「この法律の施行地」とは日本国の主権が及ぶ領土・領空に限られ、大陸棚は含まれない、仮に大陸棚に日本の主権的権利が及ぶとしても、一定の行為について「法施行地」となりそのほかの行為については「法施行地」外となるというのは背馳である、また、漠然とした慣習国際法を根拠として「法施行地」概念を拡張解釈することは租税法律主義に照らし許されない、等の主張を付加した。 <参考文献・非短縮版> 有本恒夫・税理27巻3号211頁1984年3月 石黒一憲・金融取引と国際訴訟(有斐閣、1983)282頁――帰属所得主義・実質的関連所得主義によった課税方法も検討。ただしアトリビュータブル・インカム方式と実質的関連所得主義とを同視しているという誤りに注意。 上本修・自治研究62巻1号118頁 碓井光明=柳原正治・判例評論288号9頁(判時1061号163頁)――国際慣習法の受容に伴い、立法措置を講ずることなく法律の施行地が変更されるという「国内慣習法」があるか(沖縄返還の例との対比) 遠藤きみ「外国法人が大陸棚で行った事業による所得と我が国の課税権」税務弘報31巻11号157頁(1983) 金子宏他『ケースブック・租税法』§151.01〔金子担当〕(弘文堂、2004)――租税法律主義との関係に焦点を当てる 河西直也・昭和57年度重要判例解説(ジュリ792号)264頁 品川芳宣・国税速報2巻10号44頁1982年10月 品川芳宣・税経通信37巻11号188-197頁1982年8月 木村弘之亮・自治研究60巻2号149頁 谷口勢津夫「外国企業課税に関する帰属所得主義と全所得主義(1〜2・完)」税法学389号1頁、390号1頁(1983) 中里実「外国法人・非居住者に対する所得課税」日税研論集33巻139頁以下、165頁(1995) 中村洸・昭和60年度重要判例解説(ジュリスト臨時増刊862)251-253頁1986年6月 西村弓・国際法判例百選(別冊ジュリスト156号)46頁 畠山武道「沿岸国の行使しうる課税権の範囲」日本海洋協会編・新海洋法条約の締結に伴う国内法制の研究2号204頁 広部和也・渉外判例百選<第二版>252頁 水野忠恒「国際租税法の基礎的考察」小島和司博士東北大学退職記念・憲法と行政法(良書普及会、1987) 731頁 村井正・租税判例百選<第三版>20頁 村重慶一「判例評釈」税務事例14巻8号2頁 山本草二「国家管轄権の域外適用」ジュリ781号196頁 山本草二「国家管轄権の機能とその限界」法学教室35号19頁、26頁大陸棚について「ただし、刑法など、属地主義の原則に基づいて本来、その適用範囲が場所的に限定されている法令については、新たに立法が必要と解せられる」とある。法人税法はどうか? 山本草二「大陸棚の開発活動と国内法令の適用関係」外務省編・日本の海洋政策2号5頁 横田洋三・ジュリ781号264頁 補遺 ▲本件の論点 @行政不服審査手続等の著しい遅延の違法性の有無 A大陸棚は「国内」=「施行地」か? B租税法律主義に照らした立法措置の必要性 C減価償却方法 D無申告加算税の適用の可否について「正当な理由」(国税通則法66条1項但書)の有無 E納税地は芝か麹町か(当事者が争わず裁判所も論じてない。後に学者によって議論されている問題) ▲上本修・自治研究62巻1号118頁がいう138条7号適用可能性について  ――それは無理があるのではないか。 ▲大陸棚が「国内」=「施行地」に含まれないとしてもなお、日本法の下で帰属所得主義の考え方に則り国内PE(オーシヤン・コントラクトの国内支店がXの国内PEであるとする)に帰属する所得として課税することが許されたのか?  ――法人税法141条2号が【国内か否か】と【帰すか否か】とを分けており、このことから、法人税法は国内源泉所得と帰属との問題とを区別していると読める。しかも、PEに帰属しうる所得は国内源泉所得に限定されている、という前提であるように見える。すると、帰属という概念を通じて国外での活動に係る所得を国内源泉所得とすることは、法人税法138条1号に関しては予定されていない、と読める。  また、138条1号の文言(「国内において行う事業から生じ…る所得」)自体からも、帰属を基準とする解釈が苦しいと思われる。  本件当時、課税当局が帰属所得主義の考え方に則った課税を検討したのか否か定かでないが、仮に課税当局がドイツやアメリカの例を引っ張って帰属所得主義的な課税を本件で主張していたとしても、裁判所に採用されなかったのではないか、と推測される。  なお、オーシヤン・コントラクトの国内支店がXの国内PEであるとすることについては、可能な解釈であると私も考える。従って、沖合いのリグではなくHの支店をPEと認定して課税処分を打つならば、納税地が芝でも構わない、と思われる。