レビュー Amazon.co.jp 一般読者向けに日常生活のヒューマン・エラーについて解説し、ミスを しないための方策を述べた本である。著者の専門である心理学に加えて、 人間工学やインタフェース論、行動科学など、広範囲な専門知識を駆使して、 議論を展開している。取り上げている事例も、マスコミ等で広く報道された なじみ深いものが多い。  まず前半では、スリップとミステイクの差異から始め、錯覚や勘違い、違反 とリスク行動について述べている。たとえば、あるサークルに入会する際の バリアが高いほどそのサークルへの忠誠心が高まることを、あるカルト教団 の例で説明している。また、会社などの意思決定は、トップダウンで上から押 しつけるよりも、メンバーが話し合いに参加してその総意として決定したほう が、結論は同じでもずっと従ってもらいやすいという指摘もなかなか興味深 い。 本書の後半では、水道のつまみや電灯のスイッチなど身の回りの生活用 品に関するインタフェースの話題や、著者の以前の勤務先と関連がある鉄 道安全システムについて述べ、最後に本書のまとめを述べている。その中で は間違い日本語リストが特におもしろい。「初孫」は「ういまご」と読むものだ が、テレビなどでは「はつまご」と読んでいる(本来は前者が正しい)。また「他 人事」を「ひとごと」と読まずに「たにんごと」と誤って読む学生も増えている。 さらに「award」は英語の音訳なら「アウォード」だが、「アワード」と書いてある ことが多い。こうした、本来は誤りであるはずのものが、慣用化に伴って市民 権を得てしまうという説明もわかりやすい。各章末に2〜3ページの要約をつ けてあることも読者に親切である。 200ページ余りの本で、あっという間に楽しく読み終えることができた。でき れば、参考文献のリストと索引がついていれば申し分ないだろう。ぜひ多くの 人たちに読んでほしい1冊である。(有澤 誠)