3章 やめられない、とまらない違反 〜違反とリスク行動の心理学(抜粋)

 建設業界では毎年八百人もの人が労働災害で亡くなっていますが、そのうち半数近くは高所からの墜落です。墜落事故の防止対策として、国や建設会社は「安全帯の着用」を義務づけ、厳しく指導しています。安全帯とは命綱のことで、高所作業員が腰につけ、先端のフックを親綱(高所の作業現場に横に張り渡したロープ)または手すりなどに引っかけます。労働安全衛生法では、二メータ以上の高所で作業する場合には、セーフティ・ネットを張るか、さもなければ安全帯を着用しなければならないことになっています。しかし、これが十分には守られていないことは、右の労災事故死者数から明らかです。安全帯をつけていれば、まんいち高所から転落しても、死亡することはめったにないはずですから。
 高所作業をすれば必ず転落するというわけではありません。めったに転落しないし、自分は転落しないと思っているから安全帯をせずに作業するのでしょう。転落したとき、安全帯をしていれば助かったかもしれないのに、法令や会社の規則に違反して安全帯をつけていなかったから死んでしまうのです。
 違反だけでは事故は起きないけど、違反しているときにエラーをおかすと事故に直結したり、小さな事故ですむものが大事故になったりするのです。
 違反して命を落としたのなら、本人が悪い。対策を立てたり、労災保険を払ったりする必要はない、と考える読者もあるかもしれません。しかし、そういうあなたも違反を決してしないと言い切る自信がありますか? ちょっと近所のスーパーまでだからと、シートベルトをせずに運転したことはありませんか? 広くてまっすぐですいている道路でも、制限速度を厳守しますか? はたちになるまで、一滴も酒を飲まず、タバコも吸いませんでしたか?
 違反には、法令違反、ルール違反、校則違反、作業標準違反、マナー違反、約束違反などがありますが、違反する心理というか、違反の心理的要因には共通するものがあります。エラーが本人の意図に反して起きるものであるのに対し、違反は本人が意図して行うという大きな違いがあります。ですから、その心理的要因も異なります。
 まずは、違反の要因を調べてみましょう。


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