立教大学田中研究室
総合学習のテーマを探している先生へ
卒論のテーマが見つからない学生へ
2002年2月22日
田中治彦
はじめに
過去3年間、総合学習のカリキュラムづくりセミナーにかれこれ10回近く参加しました。そこで感じるのは「テーマさがし」「テーマ設定」がとても大切であり、テーマが設定できればあとは案外スムーズに行くということです。全体の時間の半分はテーマ設定にかけてもよいくらいです。ここをおろそかにして学習プログラム(カリキュラム)を作ろうとすると、結局どこかで立ち往生してしまい、もう一回テーマの議論に戻らねばならなくなります。結果的に余計に時間がかかることになります。
大学の卒論というのは自分でテーマを探して自分で調べて書くという究極の総合学習です。毎年10名程度の学生の卒論指導をしていますが、テーマを自分で見つけられるのは3割くらいの学生です。4月から始めて、提出1月前の11月になってもテーマを決められなかったり、直前で変更する学生がいます。
総合学習の成否は「テーマの設定」に係っているといってもいいくらいであす。そこで、生徒や学生が(あるいは教員や指導者自身が)テーマを探しやすくなるような手法はないものか、とあれこれ模索してみました。以下、テーマ探しの方法と調査の進め方です。
もくじ 1.「自分マップ」−自分の中からテーマを探す
2.「アクション・リサーチ」−地域を歩いてテーマを見つける
3.「ウェビング」−社会・世界から見つける
4.インターネット・文献で調べる
5.インタビューに行く
6.アンケートをとる
7.テーマを絞る
8.テーマを自分のものに
1.自分マップ−「自分」の中からテーマを探す
まずは「自分」からテーマを探す方法です。テーマというのは自分から進んで調べ追及するものですから、「自分」が関心をもてるテーマであるかどうかはもっとも大切なことです。その意味でここでご紹介する手法は以後のあらゆる方法の基礎といってもよいのです。
自分は何に関心があるか、何に関心をもてそうか、ということは簡単なようでいてそうでもありません。そこでまず「自分」とそれを囲む環境を確認してみます。図1は「自分マップ」といって、自分を真ん中において、周囲に「人間関係」「もの・空間」「興味関心・夢」の3つの軸にそって、自分に関する事柄を書き込んでいくものです。
図1 「自分マップ」
興味関心・夢
*
*
*
*
*
−−−−
| 自分 |
−−−−
* *
* *
* *
* *
* *
もの・空間 人間関係
例えば、こんな風になります。
図2 自分マップの例
興味関心・夢
車 *
* ファッション
インターネット*
*
音楽 * アニメ
−−−− ブラスバンド
| 自分 | バイト
コンポ −−−−
自分の部屋 * * 部活の友人
居間 *携帯 * 母 父
教室 * メル友 * 姉
* コンビニ * クラスメイト
* *
もの・空間 人間関係
授業で大学生に「居場所マップ」として書いてもらったのですが、自分の位置どりがよくわかったと好評でした。この図から自分の興味関心や大切にしているものを見出し、テーマを探すヒントにします。外に目が向いている小学生よりは、自分の内面に関心が向く中学生、高校生のテーマ探しに適しているかもしれません。
2.アクション・リサーチ−地域を歩いてテーマを見つける
次に「地域」からテーマを探す手法をご紹介します。ロジャー・ハートが『子どもの参画』で解説している方法です。ハートは主に小学生レベルの子どもを対象としています。この年齢層は、自分の世界はほとんど生活している地域です。年齢によっても違いますが、自宅を中心にして半径1キロくらいでしょうか。自分が子どもの頃、どの範囲で遊んでいたかを思い浮かべればわかります。
ハートによれば、子どもの生活圏とはすなわち環境である。子どもの環境教育は、自分の生活圏で課題を探し、それを深めて、少しでも改善することが大切である、と述べています。そのための手法としてアクション・リサーチを提唱しています。
まず、自分の地域を歩き回ります。そのなかで「問題だと思うこと」「普段困っていること」「好きな場所」などを探します。子どもたちが上げてきたさまざまな問題の中から、自分たちでより調べたい問題を特定します。後は、その問題について文献で調べたり、地域の人にインタビューして問題の分析をします。
そしてどうしたらその問題を解決できるか、についてプラン作りをします。そのプランに沿って実際に行動します。行動してみて問題が解決すれば学習は終了します。解決しなければ、プランを練り直すか、新たな問題を設定してリサーチを続けます。
ハートは実際に問題解決の取組むことに意義を見出しています。どんなに小さくても地域の問題を自分たちで解決できれば、それは子どもの「効力感」を高めるからです。効力感とは、自分が言ったことやったことが、相手に聞き入れてもらえて、問題を解決できるのだ、という感覚です。この反対語は「無力感」です。こうやって環境に働きかける子ども、社会に参加できる子どもを育てることが、アクション・リサーチのねらいです。
立教大学の学生たちと実際にアクション・リサーチをやってみました。立教大学は東京の繁華街である池袋の西口にあり、駅から約10分の距離にあります。私は学生たちに「世界のあらゆる問題は、皆さんが毎日通学している池袋駅と立教大学の間で発見できるはずだ。さあ、見つけてきなさい。」と言って、いつも通学しているあたりを1時間ほど歩いてもらいました。
学生たちが見つけてきた問題です。
子どもがいない公園、3軒のタイ料理店、悪臭、騒音、あぶない道、公園のハト、ホームレス、多くの居酒屋、多くの風俗店、バリアフリーに対応していない道、放置自転車、等々。
これらのテーマをウェビングで広げながら、次第に4つのテーマに絞り込みました。タイ料理、バリアフリー、風俗店、ホームレス、です。この4テーマについて、グループごとに文献やインターネットで調べました。また、区役所、池袋警察、タイ料理店などに実際に行ってインタビューしてきました。バリアフリーのグループは、車椅子通学している1年生と一緒に通学路をあるいてその様子をビデオに収めてどこが問題かを発表しました。ホームレスのグループは最後は実際に池袋のホームレスのおじさんを連れてきて話しを聞きました。これはかなりインパクトが高かったです。このゼミの成果はホームページでご報告しています。
3.ウェビング−社会・世界から見つける
社会や世界からテーマを見つける方法にウェビング(クモの巣アプローチ)があります。ウェビングは総合学習が話題になるようになってから急速に普及していますが、ひととおり説明しましょう。
図3のようにノートなり模造紙なりの中央に自分が関心のあるテーマを書きます。例えば「公園」にしましょうか。次に公園から連想する用語を次々書き込んでいきます。公園から「噴水」「ハト」「子ども」「ホームレス」などいろいろ出てくるでしょう。さらに枝分れした先から伸ばしていきます。「ハト」から「エサ」「平和」等。「子ども」から「ブランコ」「遊び」等々。できるだけ多くの項目を書き出します。
図3 「公園」のウェビング
涼しい 平和 餌−−−おじいさん
* * * *
噴水 ハト ホームレス
* * *
−−−−
お弁当−昼休み−| 公園 |−子ども−親子連れ
* −−−− * *
OL * * * * 公園デビュー
国立公園−都市公園 ブランコ
* * *
自然 都会 滑り台
出てきた項目で関連のあるもの同士をさらに線でつないでいきます。そうすると関連のあるものがいくつかの島のようになります。公園の場合、図3から「公園の利用者とその目的」「公園の種類」「公園の施設・設備」「公園にくる動物」などのサブ・テーマが浮かび上がります。こうやってテーマの広がりと関連性を探っていくのがウェビングです。ウェビングとは「クモの巣」の意味です。
テーマは具体的であるほどクモの巣がよく広がります。抽象的なテーマ(例えば、環境とか人権とか)の場合、あまり広がらずに行き詰まるか、広がりすぎて収拾がつかなくなることがあります。より具体的なテーマにして再度ウェビングをしてみましょう。
ポストイット(付箋)を使用する方法もあります。グループで行うような場合、一人に5枚程度のポストイットを渡しておいて、テーマから連想する項目を書いてもらいます。それを模造紙にくっつけていくやり方です。