- 原子核の大きさと形
- 原子核の大きさはどのようにして調べればよいだろうか。
- 普通の物体の場合 ⇒ 物体で散乱された光を「見て」いる。
- 可視光の波長は原子核の大きさに比べて大きいので核は「見えない」。
⇒ もっと波長の短かい光(例えばγ線)を!!
物質(電子や原子核)の波動性も利用できる!
電子や原子核を別の原子核に当てて、それがどのように散乱されるかを調べればよい。
- 電子を当てる場合
- 点粒子として扱かってよい。
- 相互作用が電磁相互作用である。
- 電子散乱でわかるのは主に核の電気的(磁気的)な広がりであり、
中性子の分布についてはよくわからない。
一方、原子核を原子核に衝突させた場合には中性子の分布にも依存する。
この場合には相互作用は核力も考慮しなければならない点が複雑である。
- 核の大きさについての情報を得るにはアイソトープシフトを利用する方法なども
ある。これは、原子内の電子(特にK電子)の波動関数が核の位置でも0でないので、
核の拡がりによってエネルギー準位がずれることを利用している。
- 形状因子
-
ドブロイ波長の短かい粒子(運動量の大きい粒子)を当ててみると、角度分布が
ある角度以上でRutherford分布より急に小さくなる。
これは核の大きさを反映している。もっと詳しく調べるには、
点電荷同士の散乱に比べて散乱断面積が何倍になったか、という量を求めるとよい。
これを
形状因子という。
この量は核電荷の密度分布に関係している。
つまり、原子核による電子の散乱の角度分布(あるいは運動量移行)を調べて
ラザフォード散乱と比較することにより密度分布の情報が得られる。
形状因子は密度分布のフーリエ変換となっている。
- 核の大きさの系統性

(永江・永宮「原子核物理学」p.20より)
様々な原子核についてその大きさを系統的に調べると、
- 原子核はほぼ一様な密度の球とみなしてよく、その半径は核子数Aと
r= 1.21 A 1/3 (fm)
の関係にある。
- 密度は核の表面でなめらかに0に減少している。
これを式で表わすと、ウッズ・サクソン型と呼ばれる分布になる。
ρ(r) = ρ(0)/(1+exp((r-c)/a))
この分布には表面のぼやけを表わす
パラメタaが含まれている。
ことなどがわかる。
尚、核子に対して電子の散乱の実験を行なうと同様に核子の内部構造についての情報が
得られ、核子内でのクォークやグルオンなどについて調べられている。
- 原子核の質量と原子の質量
- 原子核の質量はどのようにして求められるだろうか。
(原子核の質量) = (原子の質量) - (電子の質量) ?
(問題点)
-
核と電子の結合エネルギー (結合とは何だろうか?)
-
同位体の存在。(化学的には区別できない)
イオン(核)の質量を直接求めるには...
-
電磁場中を通過させる。
⇒ 軌道はどうなるか?
電荷/質量比を決めることが可能。
磁場B[T]内で電荷q、運動量Pの粒子の(磁場に垂直な面内での)
軌道半径ρ[m]はBρ=P/qの関係にある。
運動量を[MeV/c]で、電荷を素電荷を単位として表わすと、300 [MeV/c] ≡ 1 [Tm]
と換算できる。
-
核反応を用いる方法。
反応の前後に4つの核が関与し、その内3つの質量が分っていれば、
放出される安定な核の測定によって未知の不安定核の質量(や励起状態)を
求めることができる。
- 原子核の質量の表わし方
-
- 原子質量単位(
amu
またはu)を用いる。
- エネルギーで表わす。
の方法が用いられる。
前者は12Cの原子を基準にこれを12としている。
通常、質量は原子の単位として表わす。
つまり、電子の分の質量も含まれていることに注意。
後者はE=mc2によってエネルギーに変換したものである。
MeVなどで表わす。
1 amu = 931.494 MeV/c2 と定義されている。
- 質量欠損
- 実際には核の質量は原子質量単位では核子(陽子と中性子)の数に近いが、
(陽子の質量)x陽子数 + (中性子の質量)x中性子数よりも少しだけ小さい。
これは結合しているためであり、上の和から実際の質量を引いたものを
質量欠損という。
質量欠損はエネルギーの単位に変換するとMeVのオーダーになり、扱いやすいので
これを結合エネルギー(あるいは束縛エネルギー)と呼ぶ。
- 結合エネルギーの系統性
- このようにして求められた質量は
表の形で利用することができる。
いろいろな原子核について結合エネルギーを求めると、核子1つあたりの結合エネルギー
B/Aは核子数のゆるやかな関数となっている。
B/AはAが小さいところを除いてほぼ8MeVである。
Aが60あたりで最大となり(62Ni)、それ以上ではゆるやかに減少している。
つまり、62Ni付近が最も結合が強い核であって中性子星などでは鉄の
コアができている。
Aがこれより小さい核ではくっついた方がより安定になり核融合反応でエネル
ギーがとりだせる。(典型的な例はd+tである。)
Aがより重い核では分裂した方が安定となり核分裂反応が起きる。
(これが現在の原子炉の原理である。)
では、なぜすべての元素が鉄になってしまわないのか?
詳しくは次回以降に述べる。
