原子核の模型

原子核の質量を系統的に調べると一定の傾向をもっていることがわかった。 これはどのように理解できるだろうか。 ここではこの傾向からわかる原子核の模型と核力の性質について述べる。
核の質量の系統性
原子核の質量は質量数Aと原子番号Zの関数として
M(A,Z)=Z*Mp+(A-Z)*Mn -aV*A+aS*A2/3 +aC*Z(Z-1)/A1/3+aasym(A-2Z)2/A +Δ で近似的によく合う。 aV=15.85 MeV, aS=18.34 MeV, aC=0.71 MeV, aasym=23.21 MeV, Δ=12/A1/2である。 (半実験的質量公式)
結合エネルギーBは B=Z*Mp+(A-Z)*Mn-M(A,Z)
つまり、M(A,Z)の式の右辺第3項以下の符号を変えたもので書ける。
質量数Aを固定して考えると、BはZの2次関数となっており最大値が存在する。 近似的にはZ=(A/2)/(1+0.0077 A(2/3))の関係にあり、これを 満たす(A,Z)の近傍に安定核が存在する。 (このことはβ崩壊のときにもう一度ふれる。)

上の公式は原子核の質量を大局的に説明するが、近傍の核同士の質量については Kelson-Garveyの質量公式がある。これは
B(Z+1,N+1)+B(Z,N)-B(Z,N+1)-B(Z+1,N)=0 あるいは
B(Z+1,N-1)+B(Z-1,N+1)+B(Z,N+1)-B(Z,N-1)-B(Z+1,N)-B(Z-1,N+1)=0
のような近似関係を利用すると、この中で1つの核の結合エネルギーがわかって いないときに他の核の結合エネルギーから評価することができる、というものである。

核力の性質
原子核の大きさや質量から核子の間に働いでいる核力の性質のいくつかがわかる。
液滴模型
質量の系統性から、原子核を非圧縮性流体とみなす模型が可能である。 すなわち、核内では密度が一定である。短距離核力による結合は質量数に比例し 体積項という(質量公式の第3項)。
実際の核では核子の数は有限であるから表面が存在する。 表面では相互作用する核子の数は内部より少ないから結合を弱くする方向に働く。 これは表面張力に相当し表面積(A2/3)に比例する。 これを表面項という(質量公式の第4項)。 この項によって、Aが小さいところの結合が弱くなっている。
又、陽子が電荷をもっていることから電場のエネルギーも存在する。 一様密度の電荷球のエネルギーから求められZ2/A1/3に 比例する。近似的にはA〜2Zであるので、ほぼA5/3のようになるので Aの大きいところで結合を弱くしている(質量公式の第5項)。
フェルミガス模型
第6項と第7項は量子力学的な効果を表わしている。 核子はスピンが1/2[h-bar]の フェルミ粒子である。フェルミ粒子を箱の中に閉じ込めると、パウリ原理の ために許される状態に2つずつ入っていく。 (2は核子のスピンに由来している。) 量子統計力学によると絶対零度の系では核子は一番低いエネルギー準位から 順番に詰まっていき、 最後の核子の占める準位をフェルミ準位(フェルミ面)という。 陽子と中性子の数が同じであればフェルミ準位もほぼ同じだが、 陽子数と中性子数が異なると、より高いエネルギー準位が使われるため 同じ場合に比べ結合が弱くなる。この効果を表わしたものが第6項の対称項である。
平均場の考え方
フェルミガスでは核子同士は箱の中で自由に運動しているとみているが、実際には 核子の間には相互作用が働いている。 これは核全体で平均化した「平均場」として考えることができる。 平均場では核子の重心を中心とするようなポテンシャルの中をそれぞれの核子が独立に 運動していると考える。(独立粒子模型)
液滴模型と独立粒子模型は物理的に矛盾する考え方のようにみえる。 これが両立しているのには理由がある。核子がフェルミ粒子であるため、 短距離の相互作用によって核子同士が衝突して状態を変えようとしてもパウリ原理の ために多くの場合に状態の変化が禁止される。そのため、核子の平均自由行程が大きく なり、「自由粒子」のように扱えるのである。
また、相互作用のなかには「平均場」に取り込めないようなものもあり、 その一つとして陽子同士や中性子同士が対になるとより結合するという性質がある。 これが対エネルギー項(第7項)であり、 陽子数、中性子数が(偶数、偶数)、(偶数、奇数)、(奇数、奇数)によって変わる。