放射線検出器(続き)

半導体検出器
気体を利用する検出器の問題点は密度が低いことである。そのため、エネルギーの 高い放射線ではエネルギー損失が小さく、検出効率が小さくなってしまう。 固体を利用すれば密度は上げられるが、電場をかけて電子を収集しようとすることが 難しくなる。これを解決したのが半導体検出器である。 半導体でPN接合をつくり逆バイアスをかけると、接合面ではキャリアの電子と正孔が 電極側に集められ、キャリアの存在しない空乏層ができる。これはコンデンサと 電気的には同じで、高い電場をつくることができる。放射線がここに入ると 電子と正孔の対をつくるが、これらのキャリアはバンド構造のために伝導帯を運動 するのであまり原子に散乱されることなく電極に収集することができる。 このような特徴を生かして、Si検出器が荷電粒子やX線の検出に、Ge検出器が大きいZを 生かしてγ線の検出に利用される。これらの半導体検出器は大型のものをつくるのが 難しいのが難点である。又、Ge検出器は液体窒素温度で動作させなければならない。

電荷感応型プリアンプ
半導体検出器は電気的にはコンデンサーのようにみなせるが、放射線が入って信号 パルスが生じたときに電流が流れ、一時的に電気容量が変化したようになる。 そのため、出力パルスの電圧が放射線が失なったエネルギーに比例しなくなって しまう。 これを解決するには、電荷有感型のプリアンプを使用する。 これは、コンデンサーのフィードバックを用いたオペアンプであり、検出器の電荷量に 比例した電圧の出力パルスを出すことができる。

光を検出する
シンチレーション検出器
放射線が光に変換される場合も半導体と同様密度を上げられるというメリットがある。 シンチレーション検出器には有機のもの(芳香族炭化水素など)と無機のもの(アルカリ ハライド結晶など)があり、その発光機構は複雑である。 放射線によってできた光は 光電子増倍管などによって電子に再度変換される。 その途中で別の分子などによって吸収されると検出できなくなる。 そこで、放射線によって励起されるエネルギーと、放出される光のエネルギーが 少し異なるようなメカニズムが必要である。 例えば、NaIの場合にはTlのようなactivatorを不純物として入れることにより、 不純物レベルをつくることによって解決している。

光電子増倍管 シンチレーションの光を再び電気信号とするために光電子増倍管が使われる。 光電子増倍管では全面にフォトカソード(アルカリ金属などを組み合わせたもの)が あり、光電効果によって光を電子に変換する。この変換効率は量子効率と呼ばれ、 通常25%以下である。 光電子増倍管の内部は真空であり、放出された電子は電場によって加速される。 電子は100V程度加速されてからダイノードと呼ばれる電極に衝突し、二次電子を 放出する。その二次電子のうち数個(5個程度)が更に加速されて次のダイノードに 達する。これを10〜14回程度繰り返すと、電子の数は107まで増倍され アノード(陽極)から取り出される。 光電子増倍管はこのような各段の電位を与えるために、ベースに接続される。 ベースは高圧電源の高圧を抵抗分割し、ソケットを通じてダイノードに電圧を 供給している。 光電子増倍管の構造は電子をうまく加速・増幅するように、また、時間特性を よくするために複雑な構造をしている。そのため、磁場の影響を強く受けることが 多い。ミューメタルなどを利用して磁場をシールドすることがよく行なわれる。
光電子増倍管の他にフォトダイオードも用いられる。 これはSiの半導体検出器と同じであるが、光が入射したときに電子・正孔対をつくる。 1対をつくるのに約3.6 eV必要である。光電子増倍管が400〜500nm(紫〜青)の光に 感度をもっているものが多いのに対し、フォトダイオードは600nm以上の波長の光 (緑〜赤)に感度をもつものが多い。

粒子加速器

1930年代から様々な加速器が発明されイオンを加速して人工的に放射線をつくる ことができるようになった。自然界の4つの相互作用のうち、粒子の加速に利用できる のは電磁相互作用だけである。(原子炉では強い相互作用が働いているが、そこから 出てくる中性子やニュートリノについてはエネルギーを選別することはできても 加速すことはできていない。宇宙線の加速機構はもっとスケールが大きい。) 「静磁場は仕事をしない」ので、実際に加速に使われるのは電場である。 磁場は加速される(た)粒子の軌道を制御するのに利用される。 加速器には静電型、くりかえし型、衝突型など様々なタイプがある。
イオン源
電場を利用して加速するには電荷をもった粒子でなければならない。 これは通常、原子のもつ電子をはぎとることによってイオン化をする。 この部分をイオン源といい、PIG型、デュオプラズマトロン型、ECR型など いろいろなタイプがある。基本的には電子を電場で加速し、原子と衝突させて イオンと電子のプラズマ状態をつくり、イオンを引き出すのであるが、電子と 原子の衝突の効率を上げるため磁場でサイクロトロン共鳴をさせたりするような 様々な工夫がなされている。
静電型加速器
静電型加速器はイオンを静電場中に通過させることによって加速を行なう。 したがって、静電場の電位差とイオンの価数によって加速エネルギーが決まる。 静電型加速器にはCockcroft-Walton型とVan de Graaff型の二つがある。 (どちらも人名からきている。)
コッククロフトワルトン型はコンデンサーと整流器によって高電圧をつくる 装置であり、コンデンサなどの絶縁耐圧によって上限電圧が決まっている。 コッククロフトとワルトンは800kVのものを作り、世界で初めて核反応を起こす ことに成功した。
バンデグラフ型加速器は高電圧をつくるのに絶縁ベルト(あるいはペレットチェーン)に 電荷を乗せ、高圧ターミナルに運ぶという方法で数MV程度の高電圧を発生させる。 最高電圧は高圧ターミナルを入れているタンクを満たしている絶縁ガス (SF6)で決まる。 更に、イオン源で負イオン(つまり電子を1個原子に付ける)を発生させ、途中で電荷を 剥ぎとることによって電位差を二度利用して加速するタンデムバンデグラフ型が 開発された。これは、イオン源を接地電位に設置できるのも利点である。 バンデグラフ加速器は加速されたイオンを磁場で曲げることによって分析し、その 情報をフィードバックすることによって加速電圧を一定に保つことができる。 又、加速電圧を変更することが容易であるため、1960年代には商品化されて 米国などの多くの大学などで精密核分光の研究に利用された。
現在では、これらの静電加速器を単独で使用しているところは少ないが、大型の 加速器の初段の加速などに利用されていることは多い。
サイクロトロン
線型加速器ではエネルギーが高くなると数kmの長さが必要となる。 磁場を用いるとこの問題が解決できる。 一様な磁場中では荷電粒子は円運動するが、その周期は磁場の強さと粒子の質量/電荷比 だけで決まる。これを等時性の原理という。 したがって、粒子のエネルギーが増大しても軌道半径が変わるだけである。 これを利用した加速器がサイクロトロンである。
等時性の原理は相対論の効果によってエネルギーの増大に伴なって質量が増加する ことにより成り立たなくなる。 これを解決する方法として、軌道半径とともに磁場を変化させる方法(AVFサイクロ トロン、リングサイクロトロン)と高周波を変化させる方法(シンクロサイクロトロン、 シンクロトロン)がある。 後者は磁場の勾配を交互に変えることによる 強収束の原理と位相安定性の原理を使っている。
サイクロトロンで加速できる粒子のエネルギーの上限は、磁場によって軌道を制御でき ることと、加速周波数が得られることである。前者による上限は E/A = K (Z/A)2と書ける。ここで、Eはエネルギー、A,Zは粒子の質量数、 電荷である。エネルギーをMeVとしたときのKの値をK numberと言う。 例えば、理研のリングサイクロトロンではK=540である。
線型加速器
静電型の加速器では電位差によって加速できるエネルギーの上限が決まって しまう。より高いエネルギーを得るためには何回も加速を行なえばよい。 これは静電的に行なうことはできないが、粒子の軌道に沿って高周波電場をかける ことによって可能となった。 これを直線状の軌道で行なうものを 線型加速器という。 線型加速器では粒子はいくつかの加速チューブを通過する。 Wideroe型の線型加速器では、それぞれのチューブに高周波電場がかかっており、 粒子にはチューブ内では力が働かないが、 チューブ間のギャップを通過するときにいつも加速されるようになっている。 したがって、チューブの長さは加速されるにつれて長くなっていく。 粒子が加速のタイミングを逃してしまうとうまく加速できないが、粒子が高周波の ある位相に合っていると、少しのずれは元に戻るような機構が働く。これを 位相安定性という。 Alvarez型の線型加速器ではチューブは円筒形の導体面と結合して 空洞共振器として働く。
電子は質量が軽いため、比較的低いエネルギーで相対論的となり、速度がほぼ 一定になる。そのため、チューブの長さもほぼ一定にできるので、線型加速器には 適している。(逆に円形加速器では加速度を受ける際の軌道放射の効果が大きいので 適さない。)
衝突型加速器
加速器を用いた衝突実験では、次回にやるように、実験室系の現象は重心系に 変換される。標的が静止している場合には加速器によって得られたエネルギーの一部は 重心の運動に使われてしまう。したがって、粒子同士をそれぞれ加速してぶつけた ほうが 高いエネルギーが利用できる。このような目的でつくられのが衝突型加速器で あり、p+p, e+pなどいくつかのタイプがある。
衝突型の加速器では衝突の起こりやすさを示す量としてルミノシティが用いられる。