核反応の運動学

加速器を用いると、原子核同士の衝突を起こすことができる。 反応の結果放出される粒子などを測定することによって反応の過程や 核の構造についての情報を得ることができる。 核aを核Aに衝突させて核bが放出され核Bが残った場合、 すなわちA+a→b+Bの反応はA(a,b)Bと書く。bは測定するほうの粒子である。 このような二体反応ではエネルギー・運動量の保存のために測定量の間に一定の 関係がある。
反応の自由度
反応前には核aは一定のエネルギーをもってある方向 (ビーム方向。これをz方向とする)に 運動している。反応後の核B,bの運動量を変数と考える。 そうすると、自由度は6である。 これらのエネルギーはエネルギーと運動量の関係で決まる。 反応の前後で運動量が保存することから3つの式が成り立つ。 エネルギーの保存からも1つの式があるので、3つの変数が消去できる。 反応はビームの方向については軸対称であり、運動は軸のまわりの角度には依存しない。 したがって、2つの量の間の関係(例えば、核bの放出角度とエネルギーの関係)などが 決まる。
エネルギーの保存
反応が起こると前後での質量が変化する。この差(MA+Ma- MB-Mb)c2が運動エネルギーに変換される。
実験室系と重心系
二体問題は重心運動と相対運動とに分離され、一体問題に帰着する。 実験では標的核Aが静止しているので、これを重心が静止している重心系に変換すれば よい。この変換は非相対論ではガリレイ変換、相対論ではローレンツ変換となる。 ここでは主に非相対論の場合を扱う。

実験室系で核aのエネルギーをELとすると速度vL= √2EL/Maであるので 、重心の速度はv0=Ma/(Ma+MA)vLとなる。 重心系でのエネルギーはECM=MA/(Ma+MA)EL である。 ここで、γ=√(MaMbECM)/MAMB(ECM+Q)と定義すると、重心系での粒子bの速度はvb= γv0となる。
この関係から、粒子bの速度と散乱角の関係 を容易に求めることができる。

φを実験室系での角度、θを重心系での角度、VLを実験室系での速度と すると、 vL/vb=cosφ+√γ2-sin2φ
tan φ=γsinφ/(1+γcos θ)
θ=φ+sin-1(sinφ/γ)
などの関係が得られる。
弾性散乱の場合にはγ=MA/Maとなる。 Ma>MAの場合をinverse kinematicsと呼ぶ。 この場合には1つのφに対してθが二価関数となる。また、反応生成物は前方に 集中して放出される。

相対論の場合
基本的な考え方は非相対論のときと同じ。反応の前後でローレンツ不変量が あることに注意して計算する。
粒子の二体崩壊
不変質量法などによって、崩壊前の励起エネルギーを求めることができる。 詳しくは ここを見よ。