γ崩壊

γ崩壊は同じ核の励起状態から別の状態への遷移の際に放出される。 γ線は電磁波の一種であり、放出は電磁相互作用によって起こる。 古典電磁気学では加速度運動する電荷や時間変化する電流は電磁波を生じる。 量子論ではこれに対応して光子の放出を考えることができる。 崩壊定数とはλ=(2π/ [h-bar]) |∫ψf*ΩψidV|2n(Eγ) の関係にある。ここで、Ωは電磁相互作用のオペレーターであるが、電気的あるいは 磁気的に多重極展開したものを用いる。ψf*、ψi は核の終状態、始状態であり、固有のスピン・パリティをもっている。 n(Eγ)は終状態の密度であり、n(Eγ)の2乗に比例している。 行列要素 (積分)はスカラーであるので、ここで「角運動量の合成則」が働き、Ωのなかでも 特定の多重極のものが主に寄与する。
選択則
上の角運動量保存則のために遷移の多重極度は制限を受ける。 γ線は角運動量をL [h-bar] だけ持ち出す(L>0)ので、Ji,Jf,Lの3つの角運動量が 3角形をつくれるという条件が満たされる場合にだけ放出が起きる。 又、パリティについては電気的な遷移(EL)ではパリティ変化が(-1)Lが 許され、磁気的な遷移では(-1)L+1が許される。
γ線はβ崩壊のときと同様に平面波と考えてよいが、 これを多重極展開すると、 Lの高いγ線の係数は小さく、Lが1増える毎に崩壊定数にして1/1600づつ小さくなる ことがわかる。したがって、角運動量の保存則から許される多重極のうち、 通常はLが一番小さいものが実現する。 電気的遷移と磁気的遷移では電気的遷移のほうがやや大きい。したがって、Lの1違う 遷移(例えばM1とE2とが競合して両方の寄与がある場合がある。)

選択則をまとめると次のようになる。Jiπi →Jfπfに対して

  1. Ji≠JfのときはLmin=|Ji-Jf|
    • πiπf=(-1)|Ji-Jf| であれば|Ji-Jf|次の電気的遷移である。 これはparity-favouredと呼ばれる。
    • πiπf=(-1)|Ji-Jf|+1 であれば|Ji-Jf|+1次の電気的遷移と |Ji-Jf|次の磁気的遷移が競合する。
  2. Ji=Jf≠0のときはLmin=0。 しかし、γ線放出ではL=0の遷移が禁止されているので、 πiπf=-1であればE1遷移が起こる。 πiπf=1であれば、M1遷移が主であるが、E2が競合する こともある。
  3. Ji=Jf=0のときはγ線放出による遷移は禁止されるので 内部転換電子の放出が起こる。 γ線を2本放出することも可能である。 エネルギー差が1.02 MeV以上あれば電子ー陽電子対の放出も起こる。 これらは高次の効果である。
Weisskopf unit(estimate)
γ線の放出について崩壊定数を理論的に求めるには放出前後の核の波動関数が 必要である。 簡単な評価のために波動関数の動径部分を半径Rの一様な球状の分布と考えて計算した ものをWeisskopf unit(estimate)という。 遷移はJi=L+1/2の軌道の粒子がJf=1/2(軌道角運動量は0)の 軌道に移ったとする。このとき崩壊定数は λ=2(L+1)/L((2L+1)!!)2 (3/(L+3))2α(EγR/ [h-bar]c)2L Eγ/[h-bar] と書ける。 幅はΓ=[h-bar]λであり、 R=1.2 A1/3として評価するとγ線の多重極度により次のようになる。
多重極度ELE1E2E3E4E5
Γ (MeV) 6.8 x 10-8 4.8 x 10-14 2.2 x 10-20 7.0 x 10-27 1.6 x 10-33 x A2L/3Eγ2L+1
多重極度MLM1M2M3M4M5
Γ (MeV) 2.1 x 10-8 1.5 x 10-14 6.9 x 10-21 2.2 x 10-27 4.8 x 10-34 x A(2L-2)/3Eγ2L+1
Eγの単位は(MeV)である。

この計算は遷移の前後の状態をある軌道を運動している核子と考えている。 γ線の崩壊定数がこの評価にほぼ等しいということはこのような単一粒子状態の描像が 適当であることを意味している。崩壊定数がこの評価よりかなり(100倍程度)大きく なることもある。この場合は多数の核子が遷移に寄与しており、集団運動(回転など) の描像が適当であることを意味している。

γ線の角度分布
γ線を放出する核のスピンの方向により、放出されるγ線の分布は角度による 分布をもつ。これは、かなりややこしい計算となるので、必要なときは Blatt-Weisskopfや八木などのテキストを参照すること。
アイソマー
γ線放出の寿命は通常短かく10-9秒以内であるが、 数時間から数日に及ぶ場合がある。(普通のγ線源はβ崩壊の寿命のために長い。) このようなものをアイソマーと呼ぶ。
内部転換電子
γ線を放出する代わりに原子内の電子を放出することもある。 これも電磁相互作用で可能である。これを内部転換と呼ぶ。 内部転換がγ線の放出に対してどのくらいの割合で起こるかは電子(角運動量に 依存する)の波動関数から計算できるので、表やグラフなどの形で利用できる。
メスバウアー効果
原子や分子の放出する光(可視光など)では別の原子や分子(同じ種類の)が その光を吸収したり再放出したりすることがある。 γ線の場合にそのようなことは起こらないのだろうか。
通常のγ線放出ではこれは起こらない。何故なら、γ線を放出する核が静止していたと すると、運動量保存のために、放出後の核は反跳を受ける。したがって、γ線の エネルギーは質量差から計算したQ値より少しだけ小さくなる。一方、γ線を吸収する核 は状態間のエネルギー差より少し大きなエネルギーのγ線でないと吸収できない。 γ線を放出する状態にはエネルギー幅があるが、この幅は反跳エネルギーによる エネルギーのずれに比べてかなり小さい。 原子や分子の場合も同じ事情なのであるが、エネルギーの幅とずれは同程度である ために吸収が可能なのである。 しかし、反跳を受ける核を結晶格子のなかに閉じこめ、温度を下げることにより 反跳(これは格子振動を起こすが、低温では格子振動も量子化される)が起きない 条件をつくることができる。 このようにして、メスバウアーはγ線の共鳴吸収を起こすことに成功した。 この効果をうまく使うと、結晶の電場や磁場(さらには重力場!)などによる ほんの微かなエネルギー状態の変化を非常に高い精度(〜10-15!) で測定することが可能である。これをメスバウアー効果という。

宿題