石黒広昭の仕事 

Ishiguro, Hiroaki: いしぐろひろあき)

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 人とは何か?この茫漠とした問いに対して、人の発達とそれを可能にする学習、社会、文化の関係を研究している。特に、人にとって言語の果たす役割は大きい。言語記号を中心に文化的人工物が他者との協働活動をどのようにつくりだしているのか、そうした活動の中で人々の認識や情動がどのように形成されていくのかに関心がある。多様な状況における言語発達、言語教育がコアの研究テーマである。就学前の子どもは生活や遊びの中で多様なコトバとそのふるまいを獲得する。人はそれぞれの社会でその社会特有のコトバを獲得することでその社会の正統な成員となる。実はあらゆる教育研究は多種多様なジャンルのコトバの学習過程の研究である。例えば、学校の研究は学校コトバの生産と消費の研究であり、教室の研究は教室談話の研究である。人として生きることは多様なコトバを状況に相応しい形で使うことだ。では、そのコトバとはそもそも何だろうか?相応しい使い方とは何だろうか?これらも自明ではない。そこから問われなければならない。詳細は最近の業績を参照してほしい。
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 2006年4月より立教大学文学部教育学科で教育系心理学(教育心理学・発達心理学)を担当しています。それ以前は北海道大学大学院教育学研究科に所属していました。さらにその前には、仙台の宮城教育大学に勤務していました。立教大学の教育学科には初等教育と教育学の二つの課程がありますが、宮教大では初等教育教員養成を、北大では教育学研究指導に携わったことになり、丁度その二つの課程が現学科にはあることになります。

 私の研究方略は心理学的なアプローチだけにこだわらず、設定テーマによって学際的に迫るものです。社会歴史的なアプローチ(ヴィゴツキアンアプローチ)によって保育・教育場面における発達と学習を特徴付けようとしています。「発達を捉える方法論」の開発と「発達と学習の理論的展開」が実際のフィールドリサーチを接点として相互参照的に探求されています。「発達と学習の理論」の検討を進める上での主要な参照資源はヴィゴツキー学派(ヴィゴツキーー、レオンチェフ、エリコーニン、コール、スクリブナーなど)の理論です。モノを仲立ち(接点)とした人々の協働と対立・矛盾、さらにその「ヒトーモノーヒト」システムの展開過程に関心があります。特に言語に媒介された活動の再編には強い関心があります。これらは以下の最近の論文の中で議論され始めています。

 石黒広昭 (1995) コンピュータは思考を変えるか? 里深文彦(監修) AIと社会  同文館 Pp.117-133.
 石黒広昭 (2000)「異文化」問題の中にある子どもの言語発達 月刊「言語」Vol.29, No.7 76-83.
 石黒広昭 (2001) アーティファクトと活動 茂呂(編)実践のエスノグラフィー 金子書房
 Ishiguro, Hiroaki (2000) The stimulus-means as interpretative actions The collected papers for the 3rd conference of sociocultural research. CD edition
 石黒広昭 編著 (2004) 社会文化的アプローチの実際 北大路書房
 石黒広昭 編著 (2008) 保育心理学の基底 萌文書林
 石黒広昭・亀田達也編著 (2010) 文化と実践 新曜社

 人間研究の基本的なスタンスとしては個体中心主義的な心理学を理論的に批判し、自分の研究と保育・教育実践との関わりを模索しているところです。研究と実践との関わりに関しては「佐伯胖・宮崎清孝・佐藤学・石黒広昭 1998 心理学と教育実践の間で 東京大学出版会」、「石黒広昭 編著 2004 社会文化的アプローチの実際:学習活動の理解と実践のために 北大路書房 」をご覧下さい。

 また、「発達を捉える方法論」の開発のために、人類学・社会学、社会言語学のエスノグラフィー、エスノメソドロジー、会話分析から多くを学んでいます。教育・保育場面が独自に抱える調査上の問題がありますので、他の学問領域のリサーチ方法を心理学に単に密輸するのではなく、教育・保育のフィールドリサーチとして独自のリサーチ方法を検討する必要があります。この検討の成果は下記論文以外に、2001年度はじめには「石黒広昭(編)2001年9月 AV機器をもってフィールドへー保育・教育・社会的実践の理解と研究のためにー 新曜社」として出版されました。以後、関連して次のような仕事をしてきました。

 石黒広昭 1996年 実践の中のビデオ、ビデオの中の実践 保育の実践と研究 Vo.1, No.2. 4-13.
 石黒広昭 2002.5 フィールドリサーチにおける調査倫理ー教育実践研究を中心にー 日本語教育年鑑

 石黒広昭・内田祥子・北聡子・杉山晋平 2003.3 探求のためのトランスクリプトー「津守実践」に対する協働トランスクリプト作成過程の分析— 北海道大学大学院教育学研究科紀要 第89号 239-277.

 石黒広昭 2005 視聴覚機器を活用するーフィールドリサーチにおける視聴覚機器の利用— 無藤隆他編 ワードマップ「質的心理学」 新曜社
  石黒広昭 2005 実践をしる 鹿毛編 教育心理学の新しいかたち 誠信書房

 上記の問題関心に関わるものであれば基本的にリサーチの場(フィールド)は限定されません。これまで保育園、小学校、成人言語教室、高次脳機能障害者の作業所、ミュージアム(博物館)において、保育活動、授業、学校建築(空間デザイン)、ミュージアムの利用実態などが調べられており、以下の報告書が出版されています。

 石黒広昭・岩舘美枝・児玉奈美 2000.12 科学博物館はどのように利用されるのか:仙台市科学館入館者観覧行動調査報告 日本認知科学会テクニカルレポート  JCSS−TR−41 (2.43M)

 

 石黒広昭 2002.3 保育・教育場面における言語的相互行為の発達心理学的研究ー日本語非母語者と日本語母語者の談話分析ー 平成10年度〜平成13年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2)談話)研究成果報告書

 

 石黒広昭 2003.3.31 序 及び 実践的研究のデザインにむけてー高次脳機能障害者作業所「コロポックル」における協働的研究の試みの軌跡— 相互支援子コミュニティ発達プロジェクト(編) 高次脳機能障害プロジェクト研究第一回報告書—小規模作業所「コロポックル」における研究の軌跡— 1-34.

                                          (以上 2006/05/02 2010/03/23 加筆修正)