VAD研紹介

*以下は日本発達心理学会ニューズレター(2003年2月号)掲載原稿の転載です。

■発足の経緯

VAD研とは、Vygotsky理論を中心とした社会歴史的アプローチの立場から発達と学習について考える研究会です。2000年10月に発足し、定例講読会と合宿を行ってきました。今年で3年目になります。当初は北大の発達心理学専攻の学部生・大学院生が中心メンバーでしたが、現在では言語学や社会学といった近接領域の大学院生や研究者、現場の実践者も加わり、多様なメンバーが出会い集う場となっています。ヴィゴツキー学派の古典を重点的に読みながら、発達、学習、保育、教育、社会的実践などについて議論し、社会歴史的アプローチに対して記号論、システム論の観点から検討を加えていくことをめざしています。

■活動内容

1.定例講読会

月に2回のペースで定例講読会を開催しています。これまで検討してきた文献は、エリコーニン『ソビエト・児童心理学』(明治図書)、『ヴィゴツキー障害児発達論集』(ぶどう社)、ヴィゴツキー『子どもの知的発達と教授』(明治図書)、ヴィゴツキー『新訳 思考と言語』(新読書社)です。文献を通して理論と向き合い、妥協のない議論を積み重ねて自分たちの「読み」にこだわりつつ、各自の研究関心に引きつけて思考するというスタイルをとっています。

2.合宿

秋には、普段の定例講読会には参加できない遠方のゲストの方たちも迎えて合宿を行っています。この秋合宿も2回を数え、メンバーも内容もますます充実してきました。2002年秋合宿は、小樽・朝里川の貸別荘にて3泊4日の日程で実施しました。合宿は定例講読会の文献とは別に、そのときのテーマに基づいた文献講読と研究カンファレンスから構成されています。

今回の合宿では、「社会歴史的発達論から見た『心の成立における記号の役割』」をテーマに4つのセッションを設けました。まず、セッション「記号系の発達」ではテーマに関連する諸文献を検討しました。続くセッション「観察と記録」「記号と活動」「学習のインタラクション」では参加者の研究発表が行われました。参加者の研究対象は保育、学校教育、日本語教育、演劇など多岐にわたりますが、どの研究も質的変化を捉えるために方法論を模索しているという点では共通しています。こうした具体的なデータを媒介に多様な視点を重ね合わせることにより、理論に学びながら自らの問いを洗練させ、事象に迫る方法論を共同で磨いていくことをめざしています。

そして、ハードなスケジュールを終えた最終日の午後は、レクリエーションで気持ちよい汗を流し、露天風呂にゆったりつかって身体を休め、星空の下でバーベキューとおいしいお酒を楽しみつつ夜は更けてゆきます(幸せ)。

■新たな出会いへ向けて-私たちにとってのVAD研の魅力-

VAD研の特色は何といっても、古典を丁寧に読んで議論していくところにあります。その際に研究歴の多少は関係ありません。「私はこのように読んだ」「いや、このように読んだ方がおもしろい」と自らの読みをメンバーに投げかけ、根拠を確認しつつ理論を掘り起こしていきます。重要だと認識しながらもなかなか一人では読めない古典をさまざまな問題意識と視点をもった人たちで共同で読み解いていくのは、新たな発見と創造をともなった楽しい作業です。論理の一貫性の追求に対しては厳しい態度で臨み、共同で知的発見を得たときにはともに喜び合う。古典を通して研究の厳しさと醍醐味を体感し、それを自分の研究の問いと方法論に有機的につなげていけることが、VAD研の随一の魅力であるといえます。もっとも初めて参加した人は何をねちねちと重箱の隅をつついているのだと感じるかもしれませんが。

今後もヴィゴツキー学派の古典の検討、最近の関連諸文献の検討、参加者の研究カンファレンスを随時行っていく予定です。VAD研に興味を持たれた方は、ぜひ一度ご参加ください。空路でゲスト参加される方々もいます。「理論との新たな出会い」をともに追求できる新しいメンバーとの出会いを一同期待しています。

(文責:藤野友紀・杉山晋平)