2003年6月5日更新



全カリ 総合A群 思想・文化

諸宗教と思想  2003年 前期  第 4 回



場所:5322教室  時間:14:50〜16:20


 
概要

学校制度と宗教教育

 教育に関する基本的な権限は16州それぞれが有する。このため教育制度は州により異なる点がある。義務教育は9年(一部の州は10年)である。初等教育は基礎学校において4年間(一部の州は6年)行われる。中等教育の類型は多様であるが,多くの州では基幹学校(通常5年),実科学校(6年),g***(9年),総合制学校(6年)がみられる。

 キリスト教が教育理念の柱の一つとされ,****州教育法は「最高の教育目標は,神に対する畏敬の念,宗教的信条と人間の尊厳に対する尊敬の念・・・である」と規定し,****州学校法では,学校教育の目的は「生徒の人格をキリスト教,ヨーロッパヒューマニズム,自由主義的・民主的・社会的運動に基づいて発展させる」こととしている。

 全国の憲法にあたる基本法は,「宗教教育は公立学校においては,非宗派学校をのぞき正科である。宗教の授業は,国の監督権をさまたげることなく,宗教団体の教義にしたがって行われる」と規定している。そして,一部の例外をのぞき,各州憲法も宗教教育を正科と位置づけている。この宗教教育は,国家と宗教団体の双方の影響を受けつつ成立しており,通常はプロテスタントとカトリックに分かれて宗派ごとに実施される。これにギリシア正教などが加えられることもある。一部の州では非宗派的なキリスト教に基づく宗教教育が行われる。

 この宗教教育は,道徳教育の役割も担っており,キリスト教的な素材の学習を通して道徳的内容が教えられる。例えば****州の学習指導要領では,道徳的テーマの内容が宗教的テーマとほぼ同じ割合を占め,聖書と関連づけて取り上げられている。時間数は,全国で平均すると初等段階で週2〜4時間,中等段階で2時間程度である。教会での礼拝を宗教教育の一部として行うこともある。なお生徒(一定年齢までは保護者)には,宗教教育をうける権利・拒否する権利が認められている。(宗教教育を受けない生徒は,代替の授業に出席する。)また教師も意志に反して宗教教育を行うよう義務づけてはならないとされ,信教の自由が保障されている。

 宗教教育を行う方式は一様でなく,それによって公立学校の形態も分けられる。学校そのものがカトリック・プロテスタントの宗派に分かれる「宗派別学校」,宗教の授業時のみ宗派別に別れる「共同社会学校」ないし「宗派混合学校」,一定の世界観を有する生徒のための「世界観学校」がある。これらの形態の一つを採用する州も,複数形態を組み合わせる州もある。

 かつてカトリックが多数を占める一部の州を中心に宗派別学校を推進する動きがあり,これに起因し1950年代には激しい対立がみられたが,宗派の混合化,社会の世俗化,エキュメニズムの進展とともに沈静化していった。一方,学校での宗教教育が行われていなかった州も,1州を除き基本法に基づく正科の宗教教育が導入され,同時に倫理科等の代替教科が定められた。しかし過去の宗教政策の影響や,宗教教育への関心の低さ,教員不足などから,これらの州では十分な宗教教育は行われておらず,むしろ倫理科が選択される傾向にある。

 私立学校は,設立に制限が課されていることもあり,日本よりも少なく,中等段階の職業教育分野の占める割合が大きい。1997年度の生徒数の割合は,基礎学校で0.96%,基幹学校で1.85%,実科学校で7.10%,G***で11.34%である。私立学校の多くはキリスト教系である。統計はや古いが,1987年にはプロテスタント系742校,カトリック系1,134校に対し,シュタイナー系163,田園教育塾系17であった。

近年の動向

 1970年代頃から,青少年の宗教離れが顕著となり,宗教教育を受けない生徒が急増した。この傾向は道徳教育上,深刻な問題と受け止められ,1973年の****州を皮切りに,世俗的な道徳教育教科が新設されるようになった。

 近年,トルコからの外国人労働者子弟が増加しており,その集住地域では,イラスム教団体が運営しイスラム教の教育を行うコーランシューレ(正規の学校でない私的教育機関)が多数みられるようになった。トルコ人子弟のなかには,公立学校に通いながら放課後このコーランシューレに通う者が少なくなく,****州では1980年代前半に,70〜80%が通っていたとの報告がある。教育内容は多様であるが,一部には社会のイスラム教義に反する側面への批判,保守的で厳格な戒律の遵守,体罰等がみられ,問題視されている。

 一方,公立学校において,キリスト教各派に加えてイスラム教の正科の宗教教育を導入することは,これまでのところ実現していない。上記のような教育内容への批判があることに加えて,権限の委任先となるような代表者的性格をもつ組織がイスラム教に存在しないことが障害となっている。これは基本法および各州の州法が,宗教教育のための教育課程や教科書の決定,教師の養成や資格決定など多くの権限を宗教団体に与えており,公立学校では宗教教育のために当該宗派を代表しえる宗教団体が不可欠であるのに対し,キリスト教と異なる階層構造・聖職者制をもつイスラム教では,これを特定できないためである。

 こうした法的な問題を回避する形で様々な試みもみられる。****州では1980年代から,州立教育研究所を中心に,トルコ教育省やトルコの大学の神学部との協議をへて,正科の宗教教育でなくトルコ語の補償授業中を想定したイスラム教宗教教育の教育課程基準試案を作成してきた。この試案に対しては,内容や作成手続きをめぐり,国内のキリスト教教会やイスラム教団体をはじめ多方面から批判があり,改善作業が進められた。1990年代には****の基礎学校で,トルコ人教師によるトルコ語授業のなかでイスラム教について教えられていたとの報告がある。