Bグループ(舞・古屋・鈴木・小川・内山・古瀬)レポート

 

 

 

 

 

 

  テーマ

「男女間の相互理解」

 

 

 

 

 目次

テーマについて

先行研究の概要

背景となるデータ

背景となるデータA

仮説の構築

実証データ:浮気について

結論

 

 

 

【テーマについて】

 私達のグループのテーマは「男女間の相互理解」である。ただテーマを見るととても漠然としていて、また対象が広過ぎるため、実際には「離婚を経験した男女、あるいは離婚を考える男女」に調査の対象を絞って、テーマについての検証を進めてきた。それは男女間(夫婦間)に理解の相違が生じた場合に、『離婚』という事態が生まれるのではないか、と考えたからである。

 「他者を理解する」ということは容易なことではない。ましてや男と女では様々な点において考え方に違いを持っている。しかし、世の中には当然の事ながら『離婚』という事態には陥らずにすむ夫婦がたくさん存在する。それでは『離婚』に至ってしまう夫婦と、『離婚』に至らずにすむ夫婦とでは、いったい何が違うのであろうか。男女間にどのようなことが起こると『離婚』という事態になってしまうのだろうか。このような点に主に着眼しながら、「男女間の相互理解」について考えていく。

 ちなみに調査は主にインターネットで検索した『離婚の悩み交流(何でも一言)掲示板』という掲示板に投稿された記事を検証することにより行った。

 

【先行研究の概要】

 この調査に先立つ先行研究としては、『他者といる技法』の第6章「理解の過少・理解の過剰−他者といる技法のために−」と、『家族心理学2 夫と妻−その親密化と破綻』(平木典子著)の2つを参照する。

 まず1つ目の『他者といる技法』の6章について。ここにおいて筆者は「理解」というものに対して、「理解の過少」と「理解の過剰」という2つの状態を説明している。ただこのいずれもが「完全な理解」(原理的に不可能なことなのだが)、あるいは実践的な「適切な理解」というものを基準に考えた場合、それは「理解の過少」となるのである。

 我々は日常生活において接する人々を「分かろう」とする。「分かるはず」と信じて相手を理解しようとする。しかし社会には当然ながら「分かろう」としても「分からない」人々も存在する。このような時に相手のことを「分かろう」としたのに「分からない」そのような時にすぐ→「一緒にいることができない」という図式になってはまずいのである。社会を形成していく上では、このような自分には「分からない」あるいは「理解することができない」というような人とも、「一緒にいることができる」ようにする技法が必要となってくる。

 ここで筆者の考える「分からない」「理解できない」相手と、それでも「一緒にいられる」ようにする技法とは「話しあう」ことなのだ。この「話しあう」ということは簡単なようで、以外に困難なことである。なぜならば「話しあう」ということは、まず相手に「あなたのことが分からない」という意志表示をすることにより始まるからだ。そしてお互いに分かりあっていない他者と同じ空間に共存するのは大変居心地が悪い。しかしこの居心地の悪さを経ることにより、「分からない」他者とも「一緒にいられる」ようになるのである。これこそが筆者の考える「分からない他者」と「一緒にいることができる」ようになる技法である。そしてこの技法ができるようになれば、「他者といるということ」がもっとずっと豊かなものとなるはずだ、と考えているのだ。

 このような技法を持っていず、相手のことが「分からない」と考えるとすぐに「一緒にいられない」という結論を出してしまうような人が、「離婚」に陥りやすいのではないかと考え、この6章を参照しつつ、男女間の理解の仕方、相違について検証を進めて行こうと思う。

 次に2つ目の「家族心理学2」について。この本においては、結婚生活がだんだんとうまく行かなくなり、そして離婚に至ってしまうまでのプロセスを細かく段階分けして、くわしく分析をしている。この本を読む限りでは、離婚に至るにはある一定のプロセスを経るが、それに至る原因としては様々なものがあり、他者といる技法を持たない場合のみが離婚につながるとは言いきれないように思える。しかし、一見技法を持っているかどうかとは関係がないように見えても、カウンセラーなどに話しを聞いてもらったりすると、実は奥には違った原因があり、結局は他者といる技法を持っていれば回避できたという場合も少なくはないようである。

 以上に挙げた2冊の参考文献といくつかのインターネットから拾ってきたデータをもとにこの先で詳しく分析を加えていく。

 

【背景となるデータ】

 この章では夫婦という"他者"との関係において、"離婚"という選択肢が選ばれるその背景について考察していきたい。特にここ十数年の変化を主軸に紹介する。

 


・離婚率の推移

 


まず離婚そのものの動きとしては、人口動態統計によると、離婚率(人口千人あたりの離婚件数)は、1983年(昭和58年)をピ

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ークに下降していたが、1991年から再び上昇傾向に転じた。1998年(平成10年)の離婚率は0.16ポイント上昇し、1.94で過去最高となった。大阪府も前年より0.23ポイント高い2.42となり、全国平均を0.41ポイント上回り過去最高となった。

・離婚動機

 そして以下の表は、実際に離婚に踏み切った夫婦のその動機について、平成9年に行なわれた司法統計の調査報告である。

 

順位

順位

1

性格の不一致

1

性格の不一致

2

異性関係

2

暴力

3

家族・親族との不仲

3

異常性格

4

浪費癖

4

生活費を渡さない

5

同居に応じない

5

精神的虐待

6

異常性格

6

浪費癖

7

精神的虐待

7

家庭遺棄

8

家庭遺棄

8

家族・親族との不仲

9

性的不満

9

酒癖が悪い

10

暴力

10

異常性格

 このように夫側妻側双方ともに性格の不一致を離婚動機の第一位に挙げている。この点に着目して今回のテーマを設定し、夫婦という形態での"他者"といる技法とその周辺を考えてきたが、この章においては既出の離婚件数、離婚率の上昇の背景となっている事象を考察する。

・女性の社会進出

 増加し続ける離婚件数を支えている要因として、まず女性の社会進出が考えられる。経済的に夫から自立した女性達が、夫婦関係の様々な問題の解決方法として離婚という方法も選択肢に加えることが出来た結果ということである。

 ここで全国の女子労働力率をみると、15歳以上人口に占める労働力人口(就業者と失業者の計)の割合を労働力率と呼ぶが、年齢階級別にグラフを描くと女性の場合はM字形となり、結婚・出産などで仕事をやめ、子育てが一段落してから再び働く就業パターンを示す。晩婚化に加えて結婚後も働き続けるケースが増え、1995年(平成7年)の調査では25歳以上の労働力率は大きく高まっている。


総務庁:国勢調査

 


女性の働く理由を83年から93年までの調査で比較してみた場合、「家計の足しにするため」や「生計を維持するため」とする割合が高いことには変わりがないものの、97年では「自分で自由に使えるお金を得るため」が最も高い割合を占めるようになった。また、「自分の能力・技能・資格を生かすため」も一貫して増加しており、働く理由が多様化し、より自己実現、自立を目指して働く女性が増加していることが伺われる。

・離婚を受けとめる社会風潮の変化

 そして女性の社会進出と並行する形で、社会が受け取る"離婚"イメージそのものの変容が90年代を中心に起こってきた。

 妻が家事に専念し、夫が外で働くという専業主婦を前提とした男女の分業関係は、妻も夫も働くのであれば変化せざるを得ない。また、女性の経済的自立が容易になり、仕事をやめなければならないという意味での結婚や出産・育児の経済的費用が高まり、女性にとって結婚により経済的安定が得られることの価値が低下している。家事労働をめぐる男女の役割分担という家庭内の夫と妻の問題を取り上げると、「男は仕事、女は家庭」という考え方に対して、昭和54年には女性のうち「同感する」が35.7%、「同感しない」が34.2%で両者は拮抗していたが、平成7年になると「同感しない」が53.9%と「同感する」の22.3%を大幅に上回り、また男性についても「同感しない」が40.2%で「同感する」の32.9%を上回り、男性も含めた社会全体の意識変化が進んでいる。

 また、離婚率・離婚件数の増加と共に、特に20代の若者の間では、離婚に対してひと昔前に人びとが持っていたような暗いイメージはなく、「うまくいかなかったんだから、しょうがない」といった経験談を耳にすることも決して珍しくはない。まだまだアメリカほどではないとはいえ、オフィス内や仲間うち等の多くのコミュニティにおいて、「離婚した」と気がねなく言える状況が少しずつ現れてきたと言える。日本では長い間、「離婚=家を出された嫁」というような固定観念があり、「離婚した」と言うと、短絡的に女性の側に落ち度があったような見方をされたり、そのためか、女性が離婚後十分に経済的な援助を受けられずに苦労する例もあった。離婚数が増えることはよいことではないが、反面、オープンに離婚を語れるようになったことは、プラスに受け取ることができる。

・離婚に踏み切れない例の背景

 また、上記の傾向と逆として離婚という手段に踏み切れないの背景を考えたい。これはやはり確立されきれていない女性の復業体制等を含めた社会構造のシステムに他ならないが、例えば多くの女性労働者が望む長期労働を視野に入れた人生設計として、出産を機に退職し、育児に復帰するといった形態がある。つまり、"育児ブランク"のある生涯労働とも言えるが、日本のサラリーマンの賃金は入社直後は低く、その後年数がたつに従って上昇する年功賃金体系が大きな特徴である。このシステムのもとでは、女性が出産や育児で就業を一時中断することは多大な金銭的損失につながる。そして、出産・育児による就業中断中の賃金も加えると、

企業側の損失は更に膨大となる。

・まとめ

 離婚の増加という現象に、様々な側面からのアプローチで影響を及ぼしていると思われるものをいくつか挙げてきたが、これらはあくまでも結果を支える社会のバックグラウンドである。しかしながら、そのプロセスを促進させているものの存在は、双方が同じ社会で起こっている現象である以上、他者理解という視点から考えるにあたっても無視できないものである。

 

【背景となるデータの紹介A】

 確実に時代が進むごとに離婚率が高まっているのは先で見た通りであるが、そこには婚姻・離婚そのものについての法律面における変化が少なからず影響していると思われる。

 民法の婚姻・離婚規定の改正についての動きは、大きな転機となる引き金として1946年に制定された日本国憲法の存在が挙げられる。個人の尊厳と平等を最も重要な原理として謳い、両性の本質的平等を規定したこの新しい憲法を受け、それまでの様々な法律が廃止、改正され新たな立法が行われることとなった。現在、妻はもはや法律上の行為能力を制限されることなく、婚姻・離婚についても夫の法律上の優先的地位は排除されている。

 まず、現在裁判上の離婚原因として@不貞行為、A悪意の遺棄、B3年以上の生死不明、C強度の精神病、Dその他婚姻の継続が困難な重大な事由、が認められているが、@の不貞行為に関しては、民法改正以前は夫の不貞行為は妻のそれと違い、離婚原因として認められていなかった。また、離婚後母親も親権を保持できるようになったり、夫の死後も妻としての権利を法的に保証されるようになったりと、妻として女性としての地位は確実に確立されていった。 

 女性の権利拡張はさらに進み、1975年の「国民婦人年」およびそれに続く1976年から1985年までの国連「女性の十年」において、民法上の問題が議論され改正された。離婚に関しては、離婚後の氏についての改正がある。離婚の際に氏を改めた夫婦の一方は、離婚後旧姓に戻すことが強制されていたが、離婚後3ヶ月以内に戸籍上の届けを出すことによって、その氏を続称することが認められることとなった。妻はその意思に反する再度の氏の変更をしなくても良いこととなったのである。

 しかし、夫婦別姓、女性の再婚禁止期間の短縮、婚姻最低年齢を男女共にする等の改正案は、1997年国会で廃案となった。夫婦別姓に関しては多くの議論を巻き起こすこととなったが、結局家族の絆がゆるみ、離婚率の上昇につながる、という反対論が勝った形になった。

 法律面に関する変化は女性がその地位を確立し、自己主張できるようになったことを示しているといえよう。それは、女性と男性の意識の差をより広げた結果となったといえるかもしれない。

 離婚した男女に再婚を希望するかどうかを聞いた結果、希望する人は妻の場合28.6%、夫の場合52.3%と、男性は妻の助けがないと生活できないと考えている人が半数以上いるということのようである。また、団塊派を中心とする4554歳のミドル世代に対して行ったアンケートの結果、夫婦の間に微妙な感覚のズレがあることが分かった。「居心地のいい時間は?」という問いに、夫は約6割が「夫婦でいるとき」と答えたのに対し、妻は「1人のとき」が6割、「夫婦で」は3割という結果になった。また「自由な時間に夫婦でいっしょにいたいか」にも、夫の約6割が「そう思う」と答えたが、過半数の妻は「そう思わない」と答えた。さらに離婚については、夫は75%が「考えたことがない」のに、妻は半数近い46%が「考えたことがある」と答えている。

 こうした夫婦のギャップは、とくに妻がパートに出ている夫婦で特徴的であるという。たとえば離婚を考えたことのある妻は52%で半数を超え、家事の役割分担意識についても、パートの妻は72%が「家族または夫婦で分担すべき」と思っているのに、その夫は66%が「妻が中心となるべき」と考えていた。

 40代・50代の男性にとっては、まだまだ夫婦の「分業」は当たり前のものとして捉えている傾向があり、妻の不満を夫が気づき取れていないのが見て取れる。このような点は、最近の熟年離婚の増加とも関連があるように思え、興味深い。

 また、実証データの調査方法は、「インターネット離婚悩み掲示板」から具体的な離婚に関するデータを検索する方法を用いたが、ここで留意すべき点は、インターネット利用者の割合は、まだまだ世代的にも地域的にも偏っているという点である。以下のグラフは、あるプロバイダーの利用者に行ったアンケート結果である。

年齢の割合は、圧倒的に2030代が多く、50代以上の回答がなかった。世代の偏りは著しく、高年齢層のデータはとれなかった。

 
 


 


また地域別に見ると、東京都が20%、東京都以外の関東地区で29.7%と関東地方だけで、全国の約半分の割合を占めており、離婚率の最も高い沖縄では、ほとんど利用されていないようである。

 

また、右のグラフから、男女構成比は男性が主流であり、女性の比率は12.5%にとどまっている事がわかるが、離婚に関するサイトや掲示板を利用するのは、女性の方が多く、男性の利用頻度は少ないようだ。

 
                         


 


【仮説の構築】

 ここで仮説として挙げられるのは、@「分かり合えない他者といる技法」を持ち合わせていない人ほど、離婚という結論をだすのではないか。A離婚率は変化しているが、「技法」が変化しているのではなく、周りの社会の風潮や離婚への障害の減少がそれに関連しているのではないか、という2点である。

 前者については、「分かり合えない他者といる技法」つまり話し合いや譲歩など、分かり合えない他者とも分かり合おうとする努力をする人が時代の変化と共に減少しているために、離婚率が高まっているのではないかと考えたのである。極端な例かもしれないが、最近よくマスコミなどによって取り上げられている「キレる」という言葉は、現代人が「忍耐」や「我慢」ができなくなっていることを指し示しているといえる。個人主義や価値観の変化によって、「技法」はその重要性を失いつつあるのではないだろうか。

 また後者については、離婚率の上昇は「技法」そのものの変化が関係しているのではなく、背景となるデータで見てきたような社会的な制度や法律の改正、価値観の変容が影響していると考えたものである。

                     

調査内容

 私たちが調査対象としたインターネットの掲示板では、いろいろな離婚原因があったが、その中でも、「浮気」をしたことによって離婚に及ぶケースと、それ以外の原因があった。ここでは原因が「浮気」以外のものをとりあげる。

 

【浮気以外の離婚原因について】

 「浮気」以外には以下の原因があった。

「金銭問題(借金、浪費癖)」「家事、育児問題」「コミュニケーションをとらない」「性的問題(セックスレス、風俗通い)」「性格の不一致」「暴言」「暴力」「不在」「養母、実家との関係」「価値観の違い」「その他(暮らしの変化に耐えられないなど)」

データを見ると、「コミュニケーションをとらない」に続き、「金銭問題」「性格の不一致」、「暴言」「養母、家族との関係」、「家事、育児問題」が目立つ。

 

・離婚原因の分析

 離婚原因は、「他者といる技法」をもたないために発生するものと、技法が通用せず、男女間の相互理解だけでは解決できないものの二つに分かれるようだ。

 前者の離婚原因としては、1位の「コミュニケーションをとらない」や「性格の不一致」「価値観の違い」があげられる。

 一番多かった原因、「コミュニケーションをとらない」についてだが、具体的には毎日会話がなかったり、配偶者がまともに話を聞いてくれず悩みなどを相談できなかったりするケースがある。他者と共に暮らすには「理解」が必要であるのに、「理解」するために行われるはずの「コミュニケーション」を夫婦のどちらかが放棄してしまう。

私たちは自分が他者を「わからない」、他者が自分を「わかってくれない」と、「理解」がいつも「他者」に対して「過少」であることに悩んでいる。「理解の過少」についての苦しみを知っているはずだ。にもかかわらず、コミュニケーションをとろうとしないのはなぜだろうか。

それは、『配偶者は、ほかの「わからない他者」とは違う』という思いこみが夫婦と言う男女間に存在するからではないだろうか。他者については「わからない」部分があるはずなのに、毎日一緒に暮らしているため、「わかったつもり」でいて、配偶者は自分にとっての「わからない他者」とは違うもの、当然わかりあっているもの、という錯覚をしてしまうのだ。

「言わなくてもわかるだろう」という思いを抱いて夫婦と言う男女の関係を続けているために、「コミュニケーションをとらない」という結果を招いてしまう。夫婦の一方が「他者といる技法」をもっていても、もう一人が「技法」を使う以前の状態ともいえる。

 2位の「性格の不一致」、6位の「価値観の違い」は他者と共存するための有力な技法である「理解」が不可能だと感じた結果だろうが、それならば、他者に「わからない」部分があり続けてもなお一緒にいられる方法を探せばよい。

「わからない」ことを前提とした「他者といる技法」の一つとして、「話しあう」技法がある。「話しあう」という行為はお互いに理解がない時に行うことであり、相手が自分の事を「わかっていない」と思う時か、もしくは相手の事が「わからない」と思った時から始まる。しかし、ここで離婚という結論をだしてしまう人々は、「わからない」というだけで、そこで他者と共存する事をあきらめてしまったのだ。

 次に、男女の相互理解だけでは解決できないであろう離婚原因を分析する。

 それには、「金銭問題」「暴言」「養母、家族との関係」「家事、育児問題」「性的問題」「暴力」「不在」「その他」がある。

 「養母、実家との関係」「育児、家事問題」は、結婚と言うかたちで男女が共に生きていくからこそ発生する問題である。夫婦二人だけでなく多数の他者の相互理解が必要であるし、家族のあり方、男女の役割分担のあり方、ジェンダー問題など、様々な社会変化の影響をうけた離婚原因だと言える。

「暴言」「暴力」は、他者を理解するためのものとしてもちいられる場合もあるかもしれない。しかしそれがその人の悪癖や異常性格という場合は、他者といる技法をつかっても通用しないだろう。精神的な事だけでなく、身体的なことも絡んでくる「性的問題」や、結婚した男女の共同生活が成り立たなくなってしまう「金銭問題」や「不在」も、同様に技法だけでは補えない問題である。

 

・まとめ

ここでとりあげた離婚原因を分析したところ、「他者といる技法」だけでは解決できない離婚原因もあることがわかった。

しかし、離婚原因が男女間の相互理解だけに関するものならば、夫婦の両者が「他者といる技法」をもちあわせていれば、仮に「わかりあえない」男女であっても、共に結婚生活を続けていくことができるのだろう。

お互いを「わからない他者」であることを認め、そのうえでコミュニケーションをとりながら共存し、もしも価値観や性格が自分と違う「わかりあえない他者」だと感じたならば、「わかりあえない」まま共存するために「話しあう」技法などを使って、結婚生活を続けていく道もある。

大切なのは、夫婦だからと言って、「わからない」はずの他者を、「わかったつもり」にしないで、「他者といる事の困難さ」を現実として受けとめる、そこから始めることではないだろうか。

 

【実証データ〜浮気について〜】

 ここにおける実証データは、インターネットで検索の結果見つけたいくつかの離婚に関する悩みを抱えた人のためのホームページの掲示板からピックアップしたものである(ex.離婚の悩み交流〜何でも一言掲示板・男と女の休日・恋愛心理学)。これらのいくつかを要約して紹介しつつ、それに対する考察を加えながら仮説との比較を行い、結論を導き出していきたい。

 まず、仮説を振り返ってみる。私たちは「分かり合えない他者といる技法」を持ち合わせていない人ほど、離婚という結論を出すのではないかとした。なぜなら、『他者といる技法』の中において描かれていた完全な理解と適切な理解の誤解から生じるジレンマの存在、つ

まり、「完全に分かることが可能なはずの他者を、どんなに努力を重ねても理解することができない、ということは、私はこの他者と一緒にいることはできない。」という考えに陥り、更なる理解への努力ということ以外の分かり合えない他者といる技法を模索することなく離婚という結論を出してしまう人は多いのではないかと考えたからである。もう一つは離婚率の変化は「他者といる技法」が変化しているのではないというもので、その答えを周囲の風潮の変化に求めたものである。これを前提としてデータを紹介していく。

 一番多く見られたものとしては、配偶者の浮気が発覚した結果として離婚することになったというものがあげられる。子供の存在というのも大きいようで子供がいても離婚した、という人は少数で、子供がいないから離婚した、といえる人のほうが多かった。また、ここにおける特徴としては、ほとんどの場合離婚に関する話し合いが片方の話し合おうという努力の欠如によって成り立たないといえるというものがあった。

次に多かったのは、女性による書き込みによく見られたのだが、配偶者の浮気が発覚したが、経済的事情のために離婚はしたいのだができない。もしくはその発見すら配偶者に告げることができないというような内容であった。

または、配偶者の浮気が発覚し、話し合いもままならずもう離婚したいと思っているが、子供がいるためにその影響やその将来を考えるとできないというものもあった。しかし意外にこれは少数であった。このことは、これらのホームページの傾向が「子供は子供として自分の人生も考えるべきだ。」というものであるということと無関係だとは思えないのであるが、もしくはこれが離婚に対する周囲の風潮の変化とも言えると思われる。つまり、このようにインターネットで離婚に関するページを検索したときに出てきやすいであろうと我々が選んだページにおいては、いままでの社会においては離婚の障害となったであろうものが否定され、離婚への道が肯定されていたように思われる。このような社会に浸透しつつあり、身近なものとなっているメディアが、離婚しようか悩んでいる人に与える影響は大きいと思われる。

それから少数ではあったのだが、配偶者による浮気が発覚し、離婚を考えこのようなホームページに書き込みをしたりもしたのだが、その配偶者との話し合いのすえ結果としては離婚せずに和解した、というようなものもあった。これに関しては掲示板に書き込まれている文章のみからでは、話し合いのすえ、相手とは分かり合えないけれどそれでも一緒にいられる方法を見つけたから離婚をやめたのか、それとも完全に分かり合えたという考えのもとにやめたのか判断がつきかねるものであった。

以上

次に、ではなぜ浮気という行動をとったのかということについてデータからみていく。これには、もともと異性と付き合うことが好きだったというもの、結婚する時点で気持ちが曖昧だったというもの、相手の精神的虐待に耐えられなくなったというもの、家に自らの居場所を見出せなかったというもの、性に対する考え方のギャップがあったというもの、特殊な例としては不妊治療が夫の苦痛になり心が離れたというものなどがあった。

もともと異性と付き合うのが好きで、元来浮気を禁止する結婚という枠に収まっていることができないというものはともかく、結婚する時点で気持ちが曖昧だったというものなどは、去年話題になった、二千年にちなんで結婚しようというミレニアム婚などに例を見るように、結婚する前に結婚とは何のためにするものなのかということを話し合わないまま何かの勢いなどによって結婚してしまうというような最近の傾向も含んだものであろう。こういうものも離婚増加の原因の一つとして考えられる。

しかし他の多くのものはちょっとしたすれ違いや話し合い不足から、夫婦間の会話がなくなるなどして生活に疲労感を覚え、我慢できなくなってしまったというものであろう。そしてやはり話し合うということなしに離婚に着地してしまう人が多いのは、はじめから他者といるための技法を持ち合わせていなかったというよりは、そのような疲労によって相手を理解しようとする気がなくなってしまい故意に使わなかった、つまり、持ち合わせようとしていない状態であったからこそであるともいえるのではないだろうか。

 

【結論】    

以上のように、私達の班は、「男女間の相互理解」を大きなテーマに掲げ、その中でも特に離婚を考える男女に焦点を当て、先行研究の『他者といる技法』を参照しながら仮説を立てた。そしてそれを実証するために、インターネットの「離婚の悩み交流何でも一言掲示版」を中心にアクセスし、離婚した、または離婚に悩む者達の相談をピックアップして検討した。この章では、最初に構築した仮説に対する結論を明確に打ち出そうと思う。

 まず、1つ目の仮説、「分かり合えない他者といる技法」を持ち合わせていない人ほど、離婚という結論をだすのではないか、という仮説について検討してみる。

 『他者といる技法』では、分からないことを前提とした他者といる技法に「話し合う」技法が存在することを挙げている。そして前章で挙げた、離婚原因のグラフでは、「コミュニケーションをとらない」が1位になっている。また、実際の掲示板上でも、離婚に踏み切っていることが多いことが窺える。つまり、話し合うなどのコミュニケーションをすることを放棄し、相手のことがよく分からない、と言う居心地の悪さにうんざりして、急いで離婚と言う結論に着地する人が多いことが分かる。この事から、「話し合う」などの「他者といる技法」を持ち合わせていないがために離婚する人が多い、という結論を導くことができる。

この仮説を実証するための対立仮説として、「他者といる技法」を持ち合わせているがために離婚をしなかった例があるのかも検討してみた。すると、数量的には決して多いとは言えないが、いくつか掲示板から拾うことができた。分かり合えないから離婚、と結論づけるのではなく、話し合いの場を何とか持ちながら、居心地の悪さが全部解消されたとは言えないが、とりあえずこのまま一緒に歩いていこうと思います、と言うような前向きな事例も存在していた。

このように、一つ目の仮説はほぼ実証されたと言うことができるが、「他者といる技法」を持ち合わせているだけでは離婚を回避できない事例が、意外に多く存在した事を見逃すことはできない。それは、前章で述べた通り、精神的な事だけでなく、身体的な事が絡んでくる「性的問題」、夫の借金により生計が立たない、などの「金銭問題」etc、が存在した。このことは、「他者といる技法」を持ち合わせていたとしても、精神面以外の問題があることで、それだけでは解決できない場合もある事を物語っている。

次に2つ目の仮説、「離婚率は変化しているが、『技法』が変化しているのではなく、周りの風潮や離婚への障害の減少がそれに関連しているのではないか」について、結論を述べたいと思う。

前章の、背景となるデータのところで、厚生省によるグラフを見たときに、1983年をピークにやや下降したものの、1991年から再び上昇傾向に転じているように、1960年からほぼ一貫して上昇傾向にあることが見受けられる。このことの原因を、私達は社会背景の変化にあるのではないか、と考えたのである。そこで変化したと思われる社会背景として、女性の社会進出、離婚を受け止める社会風潮の変化、また婚姻・離婚そのものについての法律面における変化に焦点をあて、実証してきた。総務庁の国勢調査で女性の働く理由を調べた所、「自分で自由に使えるお金を得るため」と言う回答が90年後半に最も高い割合を占めていたことが分かった。また、注目すべき点は「自分の能力・技能・資格を生かすため」も一貫して増加している点である。このように経済的に夫から自立した妻たちが、自己実現を目指して働くという、現代の自立した女性像を浮き彫りにしたと言える。そして、離婚に対する社会風潮はどうなったか。掲示板を見ていても感じられるように、離婚もひとつの人生の選択肢として、前向きに受け止める者が増えているように思う。

マクロな視点から女性の歴史を振り返ると、今まで女性は夫婦愛や母性愛といった情緒規範、やさしさや女らしさなどといった性役割を内面化し、夫や子供のための自己犠牲をむしろ喜びとしてきた。しかし現代では、先ほど述べたように男女の垣根も低くなり、日本国憲法で平等や個人の尊重をうたうことで、それを奨励している。さらに、婚姻・離婚についても夫の優先的地位は排除されている。男と同じ立場に女性も立つことが可能になったという点では、離婚率の上昇にこのことが後押ししていると言えよう。このような社会風潮の変化は、離婚をする際に障害となっていた、女性だけにあった抵抗感を弱めるという影響を与えたといえる。

結婚する前には単なる他者にすぎなかった相手と長く人生を歩むには、それなりのすれ違いや価値観が異なるのは当たり前のことである。その違いを素直に受け入れた上で、違うなりにも認める努力、居心地の悪さも受け止める気持ちがあるのとないのとで、離婚という結論に着地するか、もう少し一緒にいてみようと思えるかの違いを生み出すことは間違いないようである。