立教大学 社会学部 社会学科

専門演習(3) 是永ゼミ

 

携帯メールとパソコンメールの違いについて

〜それぞれの特徴やアカウンタビリティの有無を調査する〜

 

上田裕介

宮田亮

 

1.           はじめに

 今日、「メール」は我々のコミュニケーション手段として欠かせないものとなった。中でも携帯電話によるメール(以下、携帯メール)の利用は、年々伸びている。平成1517年度日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B)「インターネットの社会関係資本形成過程に関する時系列調査」(研究代表者:宮田加久子)の結果によると、20代の約92%の人が携帯メールを利用しており、30代は約72%40代は約49%の人が携帯メールを利用しているとのことだ。年齢が上がるにつれ利用率は低下しているが、40代でも半数の人が携帯メールを利用しているのだから、今日の我々の生活に大きく浸透していると言って良いだろう。しかし、携帯メールが必要不可欠な社会になったということは、同時に携帯メールによるコミュニケーションに注意を払わなければならないということを意味している。携帯メールとうまく付き合っていくことが重要と言えるのではないか。

 そこで、今回はまず携帯メールによるコミュニケーションが原因で起こるトラブルにスポットを当てる。そして、トラブルの原因となる「携帯メールがもたらす社会的期待」について述べた上で、トラブル回避のためのアカウンタビリティの有無について調査した。更にその調査結果を検証し、今度はパソコンメールについても見ていくことにする。携帯メールとパソコンメールの特徴を比較し、アカウンタビリティの有無についても両者で比較する。

 

 

2.           ケータイトラブルについて

 財団法人インターネット協会が20029月に行った「電子メールのルールとマナーに関するアンケート結果」によると、メール(携帯メール、パソコンメールの両方含む)が原因で起こったトラブルの具体的な原因は、トップの39%が「言葉の行き違い」であるが、それに続く18%は「メールの不達」、14%は「メールの遅延」であるとされている。私たちは、この結果から「メールの不達」、「メールの遅延」という原因に注目した。なぜなら、これらの原因は、携帯メールによるコミュニケーションの特徴と深く結びついているからである。

 

 

3.           トラブルの原因とトラブル回避の方法

 「即返することは、ケータイを取り巻く1つの社会的期待なのである」(伊藤・岡部[200610])とあるように、携帯電話はその名の通り、常に「携帯」しているものだという期待が持たれている。故に、メール送信者には、メールがすぐに返ってきて当然という考えがあるのだ。これが、携帯メールの特徴でもあり、携帯メールでコミュニケーションを取る上で気をつけなければならないことなのである。携帯メールはこのような社会的期待を持ち合わせているために、その期待を裏切られたとき、すなわちメールが返ってこないときやメールの返信が遅いときにトラブルが生じることがある。

 では、メールの返信が遅れてしまったとき、どのようにしてトラブルを回避するか。二つの方法が挙げられる。一つは、「謝罪」。もう一つは、「理由付け」である。これらの行動をとることで、メールの送信者は期待が裏切られたことについて、ある程度納得することができるのである。

 

 

4.           調査データから

 そこで私たちは、先生からいただいたメールデータをもとに分析を行った。メールのやり取りの中で、送信から返信までのタイムラグが1時間以上あるメールデータに着目し、返信の遅れた側が謝罪もしくは理由付けをしているか(アカウンタビリティの有無)を調べたのである。しかし、私たちの予想に反し、この調査データの中では返信が遅れた際にアカウンタビリティがあったものは少なかった。全データ59個のうち、タイムラグが1時間以上あるものが18個。そのうちアカウンタビリティがあったものはわずか4個だったのである。中には半日ほど返信が遅れても謝罪をしていないものもあった。

 私たちはこの結果から、携帯メールにおいてアカウンタビリティは無いのではないかと予測した。それは以下のような理由からである。

 

 

5.           携帯メールの特徴

@    表現

 携帯メールの特徴としてまず挙げられるのが、表現の柔らかさである。「若者間の携帯メールでは、普段の話しことばに近いことば遣いをすることで、親近感を表出し、そのような配慮を示すことを通して人間関係を調整しているのである」(三宅[20059])とあるように、携帯メールの文章というのは、我々が普段手紙等で用いる文語体ではない。くだけた表現を用いることが多いのである。このことは、助詞の省略、終助詞(「ね」、「よ」等)の多用、感動詞や応答詞の多用等から見ることができる。

 

A    プライベート性

モバイル社会研究所が2005年に首都圏で実施した調査から、携帯メールは仕事上の関係よりも私的な関係における利用が多くなっていることが分かる(是永・五十嵐[20064])。この調査結果では、携帯メールの利用相手として最も多く挙げられるのが「普段よく会う友人(64.5%)」で、「同居の家族(63.1%)」、「普段あまり会わない友人(38.6%)」が続く。「仕事上の関係」と答えた人は20%程度にとどまっている。また、携帯メールの利用内容の調査(同研究所)においても、仕事関係の連絡が少ない(17.2%)のに対して、近況報告(34.4%)や身の回りの相談(33.5%)のために携帯メールを利用する人が多いようだ。

これらの結果から、携帯メールはプライベート性の強いコミュニケーション手段であるといえよう。これは@で示した表現の特徴からも言えることである。

 

B    手軽でホットなメディア

表現が柔らかくプライベート性がある携帯メールは、日常会話に近いコミュニケーション手段であるとも言える。そして、日常会話に近いということは、「手軽」であり、かつ「ホット」であると言える。このことは次の一文からも分かる。「ケータイ・メールのやりとりは、親しい友だちや家族との短く素早いものであり、感情的なつながりを維持したり、待ち合わせの日時を決めたり、日常の行動をスムーズにしたりするために行なわれる。」(宮田・J.ボース・B.ウェルマン・池田[200610])

また、携帯メールは深く狭いコミュニケーションをとるときに有効な手段であるといえる。携帯電話は個人的なものであり、携帯同士で頻繁に連絡を取ることで、やりとりを行っている両者は「いつもつながっている」という感覚を持つ。親しい人たちといつでもどこでも連絡が取り合えることで、親密な関係を保つことができるのである。

 

C フォーマルではないコミュニケーション手段

このように、携帯メールは非常に手軽にコミュニケーションをとることができる手段であることから、メールを行っている両者に「いつもつながっている」という感覚をもたらすもので、両者間に親近感が生まれやすい。また柔らかい表現がなされることでも、相手に親近感を感じることができ、両者間に深いつながりを生み出すことのできるメディアである。

 しかし、こういった特徴は、携帯メールが手軽でかつ深いコミュニケーションをとることができるツールであることを証明する反面、あまりフォーマルなコミュニケーション手段ではないことも示しているのではないか。そして、このことはアカウンタビリティがなされていなかった、上記4の調査データを裏付けるものだと言える。つまり、携帯メールはフォーマルなコミュニケーション手段ではないために、アカウンタビリティはなかったのだと言える。そこで、私たちは次にパソコンメール(以下PCメール)の特徴を見て、携帯メールと比較をすることにした。アカウンタビリティの有無についても両者を比較する。

 

 

6.           PCメールの特徴

 同じメールでも、携帯メールとPCメールとでは特徴が大きく異なる。ここでは携帯メールと比較しながらPCメールの特徴を延べていくことにする。

PCメールは強い紐帯だけでなく弱い紐帯を持つ人とも交換され、物理的に一緒にいることが多い人とはあまりやりとりが行なわれない。」(宮田・J.ボース・B.ウェルマン・池田[200610])という一文から、携帯メールとは完全に対照的なメディアだと言える。携帯メールは前に述べたとおり、深い付き合いをしている人を対象とするものだったのに対し、PCメールは浅い付き合いの人も対象にする。守備範囲が広く浅いのがPCだと言える、また、携帯メールでは前述の通り、普段よく会う友人とやりとりすることが多く、メール内容もプライベート性があるのに対し、PCメールでは普段あまり会わない人、すなわち遠距離にいる人とやりとりすることも多く、メール内容はプライベート性があるものから仕事関係のものまで様々ということになる。感情的な内容のメールを送り合ったりしてお互いの関係性を強固にするのに適しているのは携帯メールであるが、広域をカバーし、より広いネットワークを築くのに適しているのはPCメールと言えよう。PCは家やオフィスなどで共有しなければならないということからも、個人で利用できる携帯電話とは性質が異なってくる。

 これらのことから、広いネットワークを築く手段の一つであり、仕事関係の連絡を取り合う手段であるPCメールは、それほど親密な関係ではない間柄においてとられるコミュニケーション手段であるといえるのではないか。そのため、携帯メールと違って、メールのやりとりには少し気を配らなければならない。このことは、メールマナーに関する書籍が多く販売されていることからも言える。メール作法がしっかりとできないと、より広域なコミュニケーションはできないというわけである。中でも、財団法人インターネット協会のアンケート結果(前述)中にあったトラブルの原因である「メールの遅延」には気をつけなければならないようだ。「メール増大の時代こそすぐに返信すべし」(舘神[200511])とあるように、それほど深い関係にある人とメールのやりとりを行う場合は注意が必要ということだ。

 以上で見たように、PCメールは携帯メールとは性質が異なり、比較的フォーマルなコミュニケーション手段であると言える。そのため、アカウンタビリティがなかった携帯メールに対し、PCメールにはアカウンタビリティはあると主張する。

 

 

7.           仮説

PCメールのやりとりにおいて、返信の遅れた際、アカウンタビリティは生じる」

 

 

8.           これから調査すべきこと

 今回、私たちはまず、携帯メールのやりとりにおいてアカウンタビリティがないことを、携帯メールの特徴から裏付けた。そして次に、携帯メールと対照的な特徴をもつPCメールにおいてはアカウンタビリティが生じるとの仮説を立てた。であるから、今後はこの仮説の検証に入る。PCメールのデータを集め、返信が遅れているデータにおいてアカウンタビリティがあるかどうか調べる。続いて、携帯メールを使う際とPCメールを使う際の意識の違いを調査するため、インタビュー調査を行う予定だ。

 

 

9.           参考文献リスト

       松田美佐・岡部大介・伊藤瑞子()2006『ケータイのある風景―テクノロジーの日常化を考える―』,北大路書房

       三宅和子・岡本能里子・佐藤彰()2005『メディアとことば2』,ひつじ書房

       山崎敬一()2006『モバイルコミュニケーション―携帯電話の会話分析―』,大修館書店

       岡田朋之・松田美佐 ()2002『ケータイ学入門』,有斐閣

       山崎敬一 ()2004『実践エスノメソドロジー入門』,有斐閣

       舘神龍彦,2005『仕事のパソコン再入門―メール、ファイル、ツールを使いこなす』,光文社