『社会老年学』(東京大学出版会)

特別養護老人ホーム介護職員の老人援助態度

 

T はじめに

 寮母の職務の基本をなす「高齢者援助」に対する態度を分析する。研究の究極の目的は,「寮母の高齢者援助行動の質を計る」ことにあるが,この論文で行うことは,そこに至るための1つのステップとして位置づけられる。

 「寮母の高齢者援助行動の質を計る」という課題は,2つの次元に分けることができる。1つは,行動それ自身の観察による記述と,行動の結果としての高齢者の状態の改善との比較によって行動に序列をつける次元である。いま1つは,行動の潜在的状態としての「態度」を測定し,その結果から行動を類推する次元である。態度が行動になり結果が生まれるのであるが,これらの関係を明らかにするためには,態度,行動,結果を測定する方法がなければならない。もちろん,このどれについても,標準化された測定方法は現在のところ開発されてはいない。したがって,方法の開発から研究は始められなければならない。その第1ステップとして,本研究では,高齢者援助に対する態度の測定を試みている。

 態度測定には,日米比較の目的から, E.Kahanaらの調査の中にあるスケールを用いている。Kahanaらのスケールは,’work with the aged scale と呼ばれるもので,35のステ−トメントから構成されている。このスケールの特徴は,work with the aged, work with older people,services with the aged, people working with the agedという言葉や,the aged とか older peopleとかtheelderlyなどの言葉を必ずステートメントの主語ないし目的語にしていることである。つまり,個々のステートメントごとに状況を設定するのではなく,35のステートメント全体を通して繰り返し「高齢者のお世話をする仕事は」とか「お年寄りは」と問いかけることによって浮かび上がる被調査者自身の高齢者援助の態度を捉えようとしたものになっている。高齢者援助の典型的な場面を設定して状況判断をもとめる方法に比べると,スケールの意味づけに曖昧さが残るが,ある典型的な場面での寮母の行動の標準的行動指針が確立されていないな現状では,そのようなスケールの構成は極めて困難である。          Kahanaらの調査でこのスケールが使われたことは分かっているが,結果は発表されていない。したがって,このスケールによってどのようなデータ構造がえられるのか分かっておらず,スケールの性質も不明である。このため,われわれの研究は,スケ−ルの性質を明らかにすることから始めることとなった。なお,本調査では,アメリカ側のステートメントの意味分析を行って,著しく意味の類似するものを除外し,25のステートメントを採用した。表1に示すのがそれである。本分中では,ステートメントに番号(#)を付けて省略形を用いるが,表1に示したのが正確なものである。調査サンプルは東條・前田論文で説明したものと同じであるが,分析には「学歴・不明」の3名を除く560名を用いた。

U 回答分布とスケールの性質

1 スケールの方向から見た回答の分布

われわれは,25のステートメントについて意見の方向を予め定めていたが,最初に,それを基準にした回答の分布を見ておくことにしたい。表1に回答分布を示したが,太線の枠で囲った部分がわれわれが積極的と考える回答の方向である。 結果を見ると,70%以上の寮母が「全く賛成」あるいは「全く反対」という両極の反応で積極的な回答をしたステートメントが5個得られている。すなわち, # 5「お年寄りの世話は大切でない(全く反対86.0%)」, # 7「もっと頑張らなければ(全く賛成73.4%)」, #10「自分で出来ることは自分で(全く賛成72.3%)」, #15「老人ホームの仕事は退屈(全く反対71.6%)」, #20「心あたたまる経験である(全く賛成76.6%)」の5つである。

次に,「全く賛成」と「少し賛成」をまとめて「賛成」とし,同じように,「全く反対」と「少し反対」をまとめて「反対」とした場合に積極的な方向の回答が70%を超えるステートメントを見ると,先の5個に # 1「専門的知識や技術は要らない(反対80.2%)」, # 4 「お年寄りにもっと良い生活を( 賛成90.1%)」, # 6「あまり効果が上がらない( 反対74.2%)」, #12「世話の満足感が得られない(反対73.9%)」, #14「老人の問題は深刻ではない( 反対86.1%)」, #17「老人に気持ちよく世話出来る(賛成92.9%)」, #18「サービスを受ける資格がある( 賛成90.2%)」, #22「必要とされていることを痛感する(賛成94.3%)」が加わって13個になる。積極的な方向の回答が70%に近いものとして, #11「老人の世話はいらいらする( 反対67.1%)」がある。

残りの11個のうち#9「老人の世話は気疲れする(賛成76.8%)」と #24「お年寄りは扱いにくい(賛成77.8%)」では70%以上が,また, #21「お年寄りは尊敬されていない(賛成67.3%)」では70%近くが消極的な方向に回答している。その他のステートメントについては回答が積極的な方向と消極的な方向に分かれて分散している。積極的な回答をした割合をみると, # 2「社会的に重んじられている( 賛成62.4%)」, # 3「いつも明るい気持ちは難しい( 反対34.1%)」, # 8「世間の人から評価されている( 賛成46.7%), 13「誰にでも出来る仕事ではない( 賛成50.5%), #16「職員の社会的評価は高くない( 反対37.7%),#19「仕事を見下している人もいる( 反対35.0%), #23「社会的評価を受けていない( 反対38.0%)」, #25「世話を当然だと思っている( 反対40.5%)」という結果を示している。

2 大多数意見              回答を「賛成」と「反対」にまとめた時に,90%以上の者がそのどちらかの回答をし,かつ,性,年齢,学歴別にみてもこれらの項目の各階層で90%以上ないしその近傍の支持を得ているものを大多数意見と定義する。スケール構成の観点から見ると,このようなステートメントは個人を弁別する能力を持たないものと考えられるのでスケールから除外すべきであろう。このようなステ−トメントが9個ある。すなわち,# 4 「お年寄りにもっと良い生活を( 賛成90.1%)」, # 5「お年寄りの世話は大切でない(反対95.1%)」, # 7「もっと頑張らなければ(賛成94.0%)」, #10「自分で出来ることは自分で( 賛成96.5%)」, #15「老人ホームの仕事は退屈( 反対93.4%)」, #17「老人に気持ちよく世話出来る( 賛成92.9%), #18「サービスを受ける資格がある( 賛成90.2%), #22「必要とされていることを痛感(賛成94.3%)」の9個である。これらは,特別養護老人ホーム寮母の集団としての顔であり,他の職種との比較を目的とする場合には有効なスケールを構成するものと考えられるが,寮母自身の差異を問題にする場合にはその能力を持たないといえる。

1方,この大多数意見は寮母の集団としての顔であるばかりでなく,個人の顔でもあることが明らかになっている。大多数意見ばかりを述べるものがどれぐらいいるかを示したのが表2であるが,見られるように, 9個ともすべて大多数意見を述べた者が61.6 %いる。1個だけ小数意見を述べ残りの8個では大多数意見を述べたものは27.1 %であるから, 8個以上大多数意見を述べる者は合わせて88.7 %になる。この状況は,性,年齢,学歴別にみても大きな違いはない。こうなると,ますますこの9個のステートメントは態度スケールとしての弁別能力を持たないものとなる。

以上のことから,以下の分析においては大多数意見を示す上記9個のステートメントを除外する。

3 回答パタンとスケールの妥当性

前述のように,われわれは,意見の方向をステートメントごとに定めている。これはステートメント全体に対する回答の相互の結びつきのパタンをアプリオリに定めたものである。そこで,このような回答パタンが,回答者の立場から見ても同じように考え方の筋道として成立しているかどうかを確認しておくことにする。つまり,どのような回答どうしが結びつきやすく,どのような回答は結びつきにくいのかをデータに基づいて明らかにして,それとわれわれが設定しているスケールの方向が1致するかどうかを調べる訳である。この目的のために1般に用いられる解析法は数量化第V類と呼ばれるパターン分類法であり,ここでもその方法を用いた.

前項で指摘した9個の大多数意見を示すステートメントをとり除いた残りの16個について,それぞれカテゴリーを「賛成」と「反対」の2つにまとめて数量化第V類で分析した結果を図1に示す。図1は第1根の最大相関係数(r・ = 0.397)に対するカテゴリー数量をX軸に目盛り,第2根の第2相関係数(r・ = 0.344)に対するカテゴリー数量をY軸に目盛って,座標上にカテゴリー反応をプロットしたものである。X軸,Y軸は,次のような意味をもつ。すなわち,X軸で見て近いカテゴリーどうしがいちばん回答の結びつきが強く,X軸を考慮したあとで,次に結びつきの強いのが,Y軸でみて近いものということである。なお,図1では,われわれのスケールにおいて積極的な回答カテゴリーを(○)で,消極的な回答カテゴリーを(●)で示している。

X軸に注目すると,右側に積極的回答(○)が集まる1方,左側に消極的回答(●)が集まっており,この軸は積極的回答と消極的回答を分ける軸であることがはっきりと出ている。つまり,積極的回答どうしはよく結びつき,そうでない回答どうしもよく結びつくが,積極的な回答とそうでない回答とは結びつきが弱いということになる。このことは,「積極的−消極的」という図式が回答者の側においても考え方の筋道として成立していることを示すものである。つまり,われわれのスケールは,回答者の回答の結びつきからみても個人の分離を最大にするものとみてよいのである。

しかしながら,図1を細かく観察すると,スケールの性質を示すと思われる図柄の出ていることが分かる。われわれは,高齢者援助態度の積極性ということに,専門性の認識に基づく積極性という意味を与えたスケールを構成しているつもりである。しかし,実際にえられた回答の結びつきをみると,高齢者援助態度の積極性と消極性のどちらに対しても,専門性の認識は影響も及ぼさないことが示されている。すなわち, # 1「専門的知識や技術は要らない」に対する「賛成」と「反対」の第1根に対するカテゴリー数量はそれぞれ−0.050.01であり図1ではX軸の原点近傍にプロットされている。つまり,この問いにたいする賛否は積極的な回答群とも結びつくし,同じように消極的な回答群とも結びつくのである。このことは, #13「誰にでも出来る仕事ではない」に対する回答にも見ることができる。われわれの立場において,この #13のステートメントは専門性の認識のいま1つの表現であると位置づけたものであるが,これに対する回答だけが他のステートメントへの回答群との結びつきが逆になっている。すなわち,われわれの立場からみて積極的な回答であるべき「賛成」は図1の左側の消極的な回答群と結びつき,反対に,消極的な回答であるべき「反対」は図1の左側の積極的回答群と結びついており,みたところ矛盾する回答パタンが見られるのである。しかし,このステートメントは,回答者の立場からみると,専門性の認識を表さないとするならば,回答パタンそれ自身を理解することは可能である。消極的回答群のなかで #13「誰にでも出来る仕事ではない・賛成」に結びつきの強い回答群は # 3「いつも明るい気持ちは難しい・賛成」と # 9「老人の世話は気疲れする・賛成」と #24「お年寄りは扱いにくい・賛成」の3つである。こうした処遇上もたらされる心理的な困難が専門性の認識を表す # 1と結びつかないですぐさま #13「誰にでもできるものではない」という判断に結びついたということから考えるとこのステートメントは,回答者の立場では,心理的な反応を表すものではあっても専門性の認識を表すものではないと捉えられているといえる。

以上の分析から,ここで用いた高齢者援助態度スケ−ルの性質について次の暫定的な結論を持つことができる。(1) われわれが予めアプリオリに与えたスケールの方向は,回答者の立場においても同じように思考のパタンとして持たれており個人を分離する能力を持つこと。しかし,(2) このスケールに対する回答者の反応では,態度の積極性と消極性は寮母職の専門性の認識とは別の次元にあるものであること。だが,(3) このことは,高齢者援助態度の積極性−消極性が寮母職の専門性の認識と無関係であるということをすぐさま意味しない。というのは,われわれのスケールが専門的実践をもたらす態度を含めた意味での高齢者援助態度を測定しえていないということも考えられるからである。この点は今後のスケール開発の重要な課題となる。そこで,(4) スケールに対するわれわれの立場と実際の回答パタンとのかねあいを考えると,われわれが今回測定することができたものは,専門性の認識を含まない高齢者援助に対する態度の積極性と消極性であるということになる。

とも考えられるからである。この点は今後のスケール開発の重要な課題となる。そこで,(4) スケールに対するわれわれの立場と実際の回答パタンとのかねあいを考えると,われわれが今回測定することができたものは,専門性の認識を含まない高齢者援助に対する態度の積極性と消極性であるということになる。

V データ構造の多次元性と因子分析

1 回答パタンによるデータ構造

続けて図1を観察すると回答パタンに興味深いデータ構造のあることがわかる。すでに見たように,X軸は「積極的−消極的」という意見の筋道を分ける軸であることが明らかである。これに対してY軸の回答パタンは,積極的回答と消極的回答が入り混じったものになっている。しかし,回答の混ざり方は不規則ではなく,図1の上の領域では老人ホームないし老人ホーム職員の社会的評価に対する消極的な回答群と高齢者処遇上の心理状態に対する積極的な回答群が結びつき,下の領域ではその逆の結びつきがはっきりと現れている。

このことは,すべてのステートメントに対して積極的な回答ばかりをする絵に描いたように積極的な寮母から消極的な回答ばかりする寮母に至るスペクトラム上で,消極的になって行く道筋に2通りのものがあるということを示している。1つは,ステートメントの種類の区別なく全体的に消極的になっていく道筋である。これは,X軸によって支配されている。もう1つはY軸に支配されているもので,ステートメントの種類に反応する道筋である。処遇上の心理的状態では積極的であるが老人ホームないし職員の評価では消極的であるパタンと,その逆のパタンのあることが示されている。したがって,Y軸上で分離される寮母に対しては「積極的−消極的」という割り切りができない。どちらも中程度に積極的(消極的)という点では共通であるが,回答パタンが違っている。

中間のグループに異なるパタンのあることが明らかになった。このことはデータ構造が多次元で構成されていることを示しており,スケールによって計ったものを得点化する場合にも,1次元では表現し尽くせないことが分かる。各ステートメントに対して積極的な回答をした数を数えてみる(16点満点) と表3の分布が得られる。これはこれで1つの妥当な得点化であることはすでに明らかになっている。しかし,われわれは,これによって,積極的な回答ばかりをしたものは560人中わずか1人しかいないこととか,中ぐらいに積極的な回答をした「6点−10点」の者が66.7%で最も多いということは分かっても,その中ぐらいの者のタイプの違いを表現することはできない。これを表現するためには,多次元のものをひとまとめにせず,そのまま多次元のものとして取り出して,各次元で得点化する必要がある。

2 因子分析

そこで,スケールに因子分析モデルを当てはめて次元の抽出を行うことにする。数量化V類の結果ではX軸とY軸によってステートメントの種類分けが行われていたから,各軸に対するサンプル数量をスケール得点とする考え方もある。しかし,この方法では,ステートメントの類別も結果においては総合されて出てくることになる。われわれの狙いは,ステートメントの類別によって次元を表現することにあり,この目的のためには因子分析モデルの方が適している。

16個のステートメントに対する「全く賛成」,「少し賛成」,「少し反対」,「全く反対」という反応に1,2,3,4の数値を与えて因子分析を行った結果を表4に示す。共通性の反復推定による主因子解によって因子を抽出した後に,固有値が1を超える因子についてバリマックス法による直交回転を行い因子構造を得たものである。表4を見ると,各ステートメントが3つの共通因子の線形結合として表現されることが明らかになっている。表4の因子負荷(factor loading というのは各ステートメントと個々の因子との相関の強さを示したものである。また,共通性(communality) というのは横の方向への因子負荷の平方和であり,各ステートメントの分散が3つの因子全体によって説明される割合を示したものである。因子負荷は,全ての因子に均等な値を示さず,特定の因子だけに高い値を示す。このことから,因子が表している事柄を,その因子に強い因子負荷を持つステートメントの意味内容から解釈することになる。表4では,この目的のために,各因子と高い因子負荷をもつステートメントを群分けして示している。A.L.Comreyは,「ある因子について因子負荷が0.3以下の変量は,その因子を定める変量リストからはずされる」と述べている。 0.3の平方は0.09であるが,このことは,変量(ここではステートメント)と因子の共有する分散が10%以下であることを意味し,これではあまりに小さすぎるという判断である。われわれも,これに従って3つの因子の意味するものを解釈することにしたい。                第1因子と絶対値でみて0.3より大きい因子負荷を持つステートメントが5個得られている。すなわち, #16「職員の社会的評価は高くない0.668」, #23「社会的評価を受けていない0.624」, # 8「世間の人から評価されている-0.584」, # 2「社会的に重んじられている-0.425」, #21「お年寄りは尊敬されていない0.368」の5つである。いずれも老人ホームないし老人ホーム職員の社会的評価に関するステートメントが集まっている。これから判断して,第1因子は,「老人ホームそれ自身や老人ホーム職員の社会的評価について肯定的か否定的かを分ける因子」を表すものと解釈される。この因子によって測定される因子得点は,値の高いほうが社会的評価について肯定的な態度であることを示す。

第2因子についてみると,基準を満たすものが4個得られている。すなわち, # 9「老人の世話は気疲れする0.552」, #24「お年寄りは扱いにくい0.508」, #11「老人の世話はいらいらする0.491」, # 3「いつも明るい気持ちは難しい0.460」の4つである。いずれも老人処遇上の心理的状態に関するものである。これからみて,第2因子は,「老人との接触の過程で気疲れしたり,欲求不満を抱くことに対する肯定的態度と否定的態度を分ける因子」を表すものと解釈される。この因子によって測定される因子得点は,値の高いほうが気疲れや欲求不満を抱くことついて否定的な態度であることを示す。

第3因子では,4つのステートメントが基準を満たしている。すなわち, #25「老人は世話を当然だと思っている0.487」, #14「老人の問題は深刻ではない0.428」, # 6「あまり効果が上がらない0.393」, #12「世話の満足感が得られない0.349」である。ステートメントに共通しているのは,老人あるいは老人問題を感情的なレベルで捉えるのではなく,認識レベルで捉えて判断したときの意見になっていることである。高齢者から受けるさまざまな感情から1歩身を離して高齢者問題なり高齢者福祉を考える姿をこの因子は表しているとみるべきであろう。このことから,第3因子を,「老人福祉の認識に対する積極的態度と消極的態度を分ける因子」と解釈することにする。ステ−トメントは,いずれも,否定文ないし否定的な意味あいを持つ文であるが,因子負荷はどれも正の値であるから高い因子得点を示す者は,これらのステートメントの意味する事柄に反対意見を持つのであり,高齢者福祉について積極的な態度をとることになる。

結局,どの因子にも属しないステートメントは #13「誰にでも出来る仕事ではない」,と # 1「専門的知識や技術は要らない」の2つである。どちらかといえば #13は第2因子に, # 1は第1因子に近いが因子負荷が極めて低く,したがって,共通性もそれぞれ0.047 0.112となり3つの因子のどれによっても表現できないとみるべきである。ここにおいても,われわれのスケールは専門性の認識と結びついた高齢者援助態度を測定したものではないことが示されている訳である。    さて,高齢者援助態度が3つの独立の因子からなる多次元構造を持つことが明らかになった。そこで,各次元について回帰方式で個人の因子得点を推定することにする。この結果,図2,図3,図4に示す得点階級別分布が得られた。この得点は,平均値0,標準偏差1になるように標準化されている。第1因子および第2因子は正規型分布,第3因子は若干負に歪んだ非対象分布になっている。これは極端に点の低い者がわずかにいるためである。

W 要因分析

高齢者援助態度の3つの次元について因子得点を推定した結果,それぞれの次元で非常に高い得点をとる者と低い得点をとる者,そして中間の得点をとる者のいることが明らかになった。こうした得点の違いは何によってもたらされるのであろうか。

1 説明変数と分析方法

本調査で要因分析に用いる説明変数は,東條・前田論文で説明したように,「性」や「学歴」などのカテゴリカルな変数と,「年齢」や「勤続年数」や「老化・老人知識スコア」などの量的な変数からなっている。1方,説明されるべき因子得点は,量的な変数である。このような変数の配置で要因分析を行うのであるが,この場合どのような分析方法をとるべきであろうか。カテゴリカルな変数については,カテゴリー別の因子得点の平均値を比較することが考えられる。性別であれば,男の平均値と女の平均値を比較して,サンプルにみられる平均値の差が母集団においても確かに差があると考えられるかどうかを調べることになる。個々の説明変数ごとにこのような分析を進めて行くと,説明変数どうしが連関関係にある場合,因子得点となんの関係も持たないにもかかわらず効果をもつように見える結果が得られる。このような疑似効果を避けて要因の効果を明らかにするための方法としては多元配置分散分析が望ましい。1方,量的な説明変数の場合は,相関係数系統の分析になってくる。しかし,カテゴリカルなものと量的なものに分けて別々の方法で分析すると,両者の間の相関に基づく疑似効果の処理が問題になる。これらのことを考慮して,最終的には,カテゴリカルなものと量的なものを同時に投入して行う多元配置共分散分析によって要因の効果測定を行うことにした。

分析に投入した説明変数は次の18個である。

a.カテゴリカルなもの(要因)

@ 性

A 婚姻上の地位

B 学歴

C 通勤時間

D 役職の有無

E 研修への参加

F 福祉施設での職歴の有無

G 就職時の現職に対する希望の強さ

H 就職時の仕事内容に対する意向

b.量的なもの(共変量)

I 年齢

J 在職年数

K 老化・老人知識スコア

L ネガティブ・バイアス・スコア

M 仕事内容に対する満足度

N 上司に対する満足度

O 同僚に対する満足度

P 給料に対する満足度

Q 勤務時間・勤務体制に対する満足度

変数はデモグラフィックなものから現職に関するものへ,また,事実に関するものから意識に関するものへ配列している。これらの意味内容は東條・前田論文で説明した通りである。

2 多元配置共分散分析の結果

(1) 概要

18個の説明変数を投入して分析したところ表5の結果が得られた。説明変数全体と各因子との重相関係数は第1因子0.453,第2因子0.508,第3因子0.536となった。まあまあの成績というところであろう。これを2乗して説明率をみると,第1因子20.5%,第2因子25.9%,第3因子28.7%になる。これは,因子得点の分散のうち説明変数全体で説明できる部分の割合である。この他に,さまざまな説明変数のセットで分析してみたが説明率を改善することはできなかった。因子に対する説明変数全体の関係はいまみた通りであるが,このことは,全ての説明変数が有意な効果をもつことを意味しない。そこで,次に,要因効果の内容をみることにする。

要因の効き方は因子によって違っているが,違いをみる前に,共通する点を整理しておく。カテゴリカルな変数のうち「学歴」と「就職時の現職に対する希望の強さ」以外の変数は,どの因子に対しても有意(危険率5%,以下同じ)な効果を持たないことが明らかになっている。特に,「性」がどの因子に対しても効果をもたないことは興味ある発見である。高齢者援助態度の積極性と消極性は男女の区別を超えた別の要因によって左右されるということである。量的な説明変数のほうは概ねどれかの因子に効果を持っており,どの因子にも効果を持たないのは「同僚に対する満足度」だけである。特に注目されるのは,東條・前田論文で主題にしたJDIの5つの次元のうちの「仕事内容に対する満足度」である。これは,高齢者援助態度の3つの因子のどれとも有意に正の相関を持ち,仕事内容に対する満足の高いものは高齢者援助のどの因子でも高い得点をとることが明らかになっている。この結果から,因子得点の意味を再確認することが出来る。自分の仕事に魅力を感じている度合いの強い人ほど高い因子得点を示すことが明らかになった以上,因子得点の高いほうが高齢者援助への態度が積極的であると考えても妥当性を失わないと言えよう。われわれのスケール構成の立場が,データによって裏付けられたことになる。

分析結果の概要は以上の通りである。次に,個々の因子について要因分析の結果を示すことにする。

(2) 第1因子の要因

第1因子は,「老人ホームそれ自身や老人ホーム職員の社会的評価について肯定的か否定的かを分ける因子」である。多元配置共分散分析によって,この因子に対して有意な効果をもつことが明らかになった説明変数は,「学歴」,「老化・老人知識スコア」,「ネガティブ・バイアス・スコア」,「仕事に対する満足度」,「給料に対する満足度」の5つである。

「仕事内容に対する満足度」,「給料に対する満足度」は,第1因子とそれぞれ0.273 0.238の相関係数をもち,満足の高いものが肯定的な社会的評価も持つ。給料が関係している点は,特に,なるほどと思われるところである。「ネガティブ・バイアス・スコア」は第1因子に負の効果を持つ。このスコアは,高齢者に対する偏見,すなわち,高齢者についての悪いイメ−ジを持っている度合いを示すものである。このスコアが第1因子と負の相関を示すということは,高齢者に対する偏見の少ない者ほど老人ホームや老人ホーム職員の社会的評価に肯定的であることを示す。1方,「老化・老人知識スコア」の相関係数は-0.144であり,弱いながらも有意に負の相関を示すのであり,大局的にみると,知識レベルの高い者は社会的評価に否定的である。これは,1見したところ,「ネガティブ・バイアス・スコア」の関係と矛盾するようにみえるが,互いにコントロ−ルした結果として得られている関係であるから,知識レベルが高い者ほど否定的な社会的評価を持つが,同じ知識レベルで比較すると高齢者に対する偏見のない者ほど肯定的な社会的評価を持つということである。最後の「学歴」の効果をみると,高学歴者ほど社会的評価に否定的である。「学歴」はカテゴリカルな要因であるから,カテゴリー別に因子得点の平均値をみると,「中卒」が0.243 ,「高卒」が-0.077,「短大卒」が-0.103,「大卒」が-0.312となっており,高学歴者ほど平均値が低くなっている。

仕事それ自身の魅力や給料への満足度をコントロールしてもなおそれとは別の側面で知識レベルや学歴が社会的評価に負の効果を持つのである。また,われわれの因子は寮母職の専門性の認識と別の次元にあるものであるから,専門性に関して否定的評価を持つという意味でもない。これは何を意味するとみるべきであろうか。解釈の困難なことであるが,強いていえば,評価は何かとの比較によって行われるものであるから,比較の基準が知識レベルや学歴のレベルでそれぞれ異なっているということであろう。

(3) 第2因子の要因

第2因子は,「老人との接触の過程で気疲れしたり,欲求不満を抱くことに対する肯定的態度と否定的態度を分ける因子」である。この因子に有意な効果を持つのは,「ネガティブ・バイアス・スコア」,「仕事内容に対する満足度」,「上司に対する満足度」,「勤務時間・勤務体制に対する満足度」の4つだけである。カテゴリカルなものは第2因子に対して規定力を持たない。高齢者に気疲れを感じたり,いらいらしたりする態度の次元は,性や年齢や学歴などの個人の属性とかかわりのないところで構成されていることになる。

「ネガティブ・バイアス・スコア」と第2因子得点の相関係数は-0.185である。有意とはいってもそれほど強い関係ではないが,負の相関であるから,大局的にみると,高齢者に対する偏見の少ない人ほど高齢者への気疲れやいらいらなどの欲求不満が少ないことになる。「仕事自体の満足度」,「上司に対する満足度」,「勤務時間・勤務体制に対する満足度」と第2因子得点との相関係数は,それぞれ,0.317 0.286 0.224であり,これらの満足度の高い者ほど欲求不満が少ない。第2因子が表しているのは「老人に対して抱く気疲れ,欲求不満」であるにもかかわらず,高齢者への偏見の度合いよりも,職場の上司や勤務体制への満足度のほうが強い影響力を持っていることが示されているのであり,興味深い結果である。高齢者のもつ特性を理解できずに気疲れ・欲求不満を抱くという道筋の他に,職場環境への不満が高齢者へのいらいらという感情として現れる道筋があり,しかも,後者が支配的であることを示唆している。

(4) 第3因子の要因

第3因子は,「老人福祉の認識に対する積極的態度と消極的態度を分ける因子」である。この因子に対して,有意に効果をもつ要因は,「学歴」,「就職時の現職に対する希望の強さ」,「年齢」,「在職年数」,「老化・老人知識スコア」,「仕事内容に対する満足度」,「勤務時間・勤務体制に対する満足度」の7つである。

「学歴」のカテゴリー別の平均値をみると,「中卒」-0.277,「高卒」-0.17 ,「短大卒」0.233 ,「大卒」0.535の順に高学歴者ほど高齢者福祉について積極的態度が強い。「就職時の現職に対する希望の強さ」では,「かなり強く思った」0.15,「ある程度は思った」-0.09 ,「ほどんどつきたいと思わなかった」-0.12という平均値であり,希望が強かった者ほど積極的態度が強い。「年齢」と第3因子との相関係数は-0.336であり,年齢の低いものほど積極的態度が強い。「在職年数」の相関係数も-0.296となっており,在職年数の短い者ほど肯定的である。「老化・老人知識スコア」の相関係数は0.219となり,知識レベルの高い者ほど高齢者福祉に対する積極的態度が強い。「仕事内容に対する満足度」,「勤務時間・勤務体制に対する満足度」もそれぞれ相関係数にして0.1790.131と弱いとはいえ有意に正の相関関係を持ち,大局的にみると,これらに満足している者ほど高齢者福祉に積極的である。

X おわりに

寮母の高齢者援助態度が評価因子(第1因子)と感情因子(第2因子)と認識因子(第3因子)から構成される3次元構造をもつことが明らかになった。最終的に分析に用いた16のステ−トメントに対して積極的な反応をした数を数えて尺度値にしても,これはこれなりに,態度の積極性と消極性の序列付けは可能であるが,いま1歩踏み込んでみると,それだけでは表すことのできない構造をもつことが明らかになった訳である。1方,スケールの改善については,専門性の認識の測定方法が焦点になることが明らかになった。

また,要因分析の結果,高齢者援助態度を規定する要因としていくつかのものが浮かび上がってきた。このなかでも特に注目されるのは「学歴」である。「学歴」は,第1因子と第3因子に関係をもち,第1因子には負の,第3因子には正の効果を与えることが明らかになった。つまり,「学歴」と高齢者援助態度とは,明暗入り混じった関係にあるのである。これが,われわれの分析の当面の大きな結果であるが,これをどのように理解すればよいか,新たな課題が生まれたと言えるだろう。このことの理解は,思うほど簡単ではない。第1因子,第3因子と「学歴」の関係を「学歴の高い者は,老人ホームや職員の社会的評価については否定的であるが,高齢者福祉には積極的な認識を示す」と要約したとしても,それは事柄の1面だけを捉えたことにしかならない。なぜなら,もし,このような表現が妥当であるならば,第1因子と第3因子は負の相関を持たなければならないが,因子分析モデルにおいてそのようなことはあり得ないのである。因子分析では,互いに無相関になるように因子を抽出するから第1因子で高い得点をとったものでも,第3因子では低い得点をとったり高い得点をとったりする。したがって,学歴の高い者にも,第1因子,第3因子共に高い得点をとるもの,逆に,低い得点をとるものもいることになる。このことは,「学歴」と高齢者援助態度について,今の段階で,割り切った結論を出すのは,まだ早いということである。「学歴」が態度要因として大きく浮かびあがっているけれども,これをこえる要因が背後に潜んでいるかもしれないからである。このことが,われわれにとって,当面する要因分析の大きな課題である。しかしながら,「学歴」が要因として浮かび上がってきたのは,態度を多次元に分けてみて初めて分かったことである。というのは,「学歴」が2つの因子に反対の効果を持つ以上,スケールを1本化してしまうと,「学歴」はこの中に隠れてしまって要因として見い出されなくなってしまうからである。この点からみても,われわれの分析は有効であるといえる。

態度の構造と要因がほぼ明らかになったが,こうして測定される態度の積極性が質の高い高齢者援助に結びついたものであるのかどうか,ということがわれわれの研究の究極の目的である。仮説的には,両者は結びついたものと考えており,要因分析の結果でも,自分の仕事に魅力を感じている度合いの強い人ほど高齢者援助にも積極的であることが判明しているが,行動観察の方法の開発と合わせて,これの実証が最も大きな課題として残されていると言える。