2004.10.23
プロジェクトS事務局
プロジェクトS計画を実施するにあたって
1.現在の算数教育の現状と問題点
現在の日本中の多くの小学校で、「少人数」「習熟度別」の算数授業が進められている。大人数で学習することがそもそも問題で、一人ひとりに目が掛けられない のだから、教室の人数は少人数にした方がよいという発想からである。でも、たとえ少人数にしたところで、そこで議論をしながら、自らの考えを他の仲間に伝え、他の仲間の考えにも自分の批判を加えてこそ、新しいものが生まれてくるのだという体験がなければ、有効な学習には成り得ない。そこで、ましてやただドリル的なプリントだけをやっていたのでは、ますます算数嫌いが増えるだけである。
現在の算数教育の問題点は、学習指導要領改定に伴い学習内容を3割削減してまでも、算数教育の中で大切にすべきことがあるという目標設定の徹底不足にある。
「算数的活動」といっても、ただ子どもに活動をさせればいいということではない。「楽しさ」を持たせることは、愉快なキャラクターを登場させればいいということでもない。「計算の仕方を考える」といっても、現場では「百マス計算」が奨励されている節もある。これらの目標が「なぜ大切か、必要か」というねらいが現場教師に徹底されずにきてしまっているから、現場教師は混乱し、不安の中で授業をしている。だから、3割削減したことによるマイナス面ばかりが強調されてしまう。その代表的な点が、「計算に関する数の範囲の限定」と、「図形内容の大幅削減」である。現場の教師が「これでいいのだろうか」「このままやっていて大丈夫なのだろうか」という思いで授業をしている現状は、「今、算数があぶない!」と言わざるを得ない。
本来、算数の学習は「考える力」を育成することに目標がある。「少人数」「習熟度別」の算数授業は、どちらかというと、同質な集団をつくって、知識の伝達に終始しているとしか思えない。考え方の異質な者同士が一緒になって、創造的な学習をすることに価値が置かれなければならないのではないだろうか。「考える力」は、異質なものに混じって、それに同意したり、反発したりしながらよりよい選択をしていくところで磨かれていくものだと思う。
「今、算数の授業で何が大切か」を、現場で授業に携わる教師一人ひとりが、真剣に考えなければならない時がきている。
2.プロジェクトS計画の発足
私立小学校においても、学習指導要領改定後の教科書を使った授業を行っていくことへの疑問が噴出している。現場教育を無視した文部行政に関しても、不満の声が聞かれる。
こうした情勢の中、私学算数部では、以前より独自の算数問題集を編集、出版してきた経緯もあり、「この積み上げてきたノウハウを生かして、現在の算数の教科書に代わるような私学独自の教科書(検定外教科書)を作れないものか」という意見がここにきて強く出てきた。学年や領域にとらわれず、できれば各学校のお家の事情にこだわらず、純粋に魅力ある教科書を使って、算数の授業がしたいという思いを込めてである。
しかし、「私学ならではの教科書を作る」といっても、実際に執筆、編集となると、そう簡単にはいかない。「私学ならではとは一体何か」「どこが今の教科書と違うのか」「移行してしまった単元の扱いをどうするのか」等々、教科書を作る以前に検討しておかなければならないことが山ほどある。
そこで、私学算数部に所属する先生方の有志が集まり、私学ならではの教科書を作ることを目的とするプロジェクトが発足した。この研究会を「プロジェクトS」という。この「プロジェクトS」の「S」は、「さんすうのS」と「スタートのS」を意味する。「私学から小学校算数教育を変えていこう!」というねらいもある。
まずは、現在の教科書を使っていての疑問、質問等を洗い出したり、旧学習指導要領下での教科書と比較をしたりすることや、領域別に学年配当を見直したりする勉強会、研究会を行っていきたい。
2004年度の日私小連全国教員夏季研修会において、この主旨を発表したところ、多くの賛同を得た。と同時に、次のような声が寄せられた。
・私学ならではの教科書では、指導内容や系統は、現在の教科書にとらわれず、
独自なものにしてほしい。
・指導法についても、私学らしさを出してほしい。
・低学年から、ある程度の応用問題(特殊算を含む)を取り入れてほしい。
・ワークシートになっていて、一日のことが見開きでまとめられているようなも
のにしてほしい。
・社会科、理科、図工科との関連、連携を考えた教科書にしてほしい。
・4領域にとらわれず、自由で進度的な教材を取り上げてほしい。
こうした意見も参考にして、今後の研究を進めていきたい。
3.プロジェクトS計画の進め方
@ 組織について
このプロジェクトは、東京私立初等学校協会算数部の有志が、全国私立小学校全体に
協力を得ながら進行するものとする。この組織の概観は次のようにする。
○事務局・・・プロジェクト推進に向けて、計画・立案をし、相互の連絡が円滑
に行われるようにする。
役割分担(下線は責任者)
・代表・・・桂
・総務・・・全体企画、運営、推進⇒森、久加天、宮城
具体的計画案、会場、連絡調整⇒佐藤純、安蔵
・広報・・・全国への連絡、記録、広報活動全般、広報紙作成
⇒奥山、松田、倉次
・会計・・・諸戸、佐藤純
○系統部会・・・領域別に系統を見て、学年の内容を検討する。
系 統 |
代 表 |
メ ン バ ー |
数と計算 |
佐藤純 |
杉田、守屋、奥山、松田、倉次 |
量と測定 |
佐藤稔 |
桂、三浦、諸戸、清水 |
図 形 |
森 |
島田、本田、久加天、宮城、安蔵 |
数量関係 |
大 澤 |
中野、児玉、千葉 |
メンバーは10月23日現在のものです。
A 今後のスケジュール案
・2004年10月23日(土)13:00〜16:00(於学習院初等科)
第1回「プロジェクトS」全体会
【協議事項】・プロジェクトS計画の方針について
・系統部会の組織について
・今後のスケジュール案について
・系統部会ごとに、今後の研究および勉強の進め方について
・2004年11月 日( ) : 〜 : ( )
系統部会ごとの研究会および勉強会 系統部会ごとに設定する
必要であれば、12月も行う。
・2004年12月23日(木)10:00〜13:00(於学習院初等科)
第2回「プロジェクトS」全体会
【協議事項】・系統部会ごとの途中経過報告
「現状の問題点の整理と今後の展望」
・2005年1月 日( ) : 〜 : ( )
系統部会ごとの研究会および勉強会
必要であれば、2月も行う。
・2005年3月5日(土)14:00〜17:00(於学習院初等科)
第3回「プロジェクトS」全体会
【協議事項】・系統部会ごとの提案
「領域や学年を見直した授業展開例・」(各系統代表)
・2005年3月28日(月)〜30日(水) (於箱根富士屋ホテル)
第4回「プロジェクトS」全体会
【協議事項】・系統部会ごとの提案
「領域や学年を見直した授業展開例・」(参加者全員)
※2005年度からの研究会、勉強会については、各系統部会に委ねる。
※2005年度の活動計画については、2005年3月28日からの算数部合宿研究会の
拡大運営委員会にて決定する。
・2005年7月 日( )東初協午後一斉研修会
「プロジェクトS」からの提案授業 ・2005年8月 日( )日私小連全国教員夏季研修会 「プロジェクトS」からの提案 「プロジェクトS」からの提案授業 ・2006年2月 日( )東初協午後一斉研修会 「プロジェクトS」からの提案授業 |
B 教科書作成に向けて
系統部会ごとの研究会、勉強会の進行状況にもよるが、一応の目安として、次のような計画を立てておきたい。ただ、これはあくまでも目安であって、ある程度の方向性が出ていない段階で教科書を作成しても意味がない。期限を設けて、プロジェクトを推進させていきたい。
なお、現時点では、小学1年生から6年生までの6冊の教科書を作ることを計画している。ただ、研究会、勉強会の方向性によっては、若干の軌道修正があるかもしれない。
・2005年12月〜2006年3月 執筆活動
・2006年3月末 算数部合宿にて原稿の見直し
・2006年6月 日私小連東京地区教員研修会において、S教科書を紹介。
・2006年7月 東初協午後一斉研修会において、S教科書を使って授業を実践。
・2006年8月 全国算数授業研究会において、S教科書を紹介。
・2006年8月 日私小連全国教員夏季研修会において、S教科書を紹介。
S教科書を使った実践例も紹介。
・2006年8月〜2006年12月 解答と解説書を執筆。S教科書の訂正箇所を検討。
・2007年4月 全国の私立小学校を中心に、S教科書使用開始。
教科書を作成するにあたって、次の点について今後検討しておく必要がある。
・全国私立小学校で使ってもらえるように作るのか、売れなくてもいいから、私学
らしさを感じさせる内容にするのか。
・出版社をどこにし、どの段階から加わってもらうか。
・体様、ページ割り、分担をどのように決定するか。
・初版発行部数と単価をどれくらいにするか。
・改訂は何年ごとに行うか。
・どのように宣伝活動を行っていくか。
以 上