巻きずしを楽しみながらこんな事を考えた。

1)海苔巻き:海苔が飯を巻いている。あるいは海苔と飯が相互に巻いているような場合もある。いずれの場合も、海苔は巻く側の役割をしていて、能動的な立場である。

2)カッパ巻き:キュウリを飯と海苔で巻いている。キュウリの緑色が河童を想像させるので、カッパの名称ができたのであろう。キュウリが河童の好物であるので、キュウリのことをカッパと表現するという説もある。この場合、カッパの部分は、巻かれて内側になっている。つまり受動的な立場であろう。

3)鉄火巻き:鉄火は中心のマグロを示している。この場合も、鉄火は巻かれて内側にある。

4)納豆巻き:中心に納豆が入っている。受け身になっているものの名称である。


能動と受動の関係にこだわってみれば、「海苔巻き」は海苔が他の物を巻いているので正解であり、2)〜4)は、それぞれ「カッパ巻かれ」「鉄火巻かれ」「納豆巻かれ」と表現されるべきであろう。寿司屋でこうやって注文したら変人と思われるだろうか?


能動的に働いている物と受動的に働いている物のどちらに注目した名称なのか判然としない物もある。以下に例を挙げよう。

カリフォルニア巻き:中心にアボカド、ヨネーズ、ツナなどを使用したものらしい。

太巻き:中心にはカンピョウ、卵焼き、シイタケなどが入っていて、全体は直径3センチ以上もあって太い。

これらは、できあがった物全体から名称が由来していて、カッパや鉄火のように一部の構成物に注目しているのではない。ラーメンにのせる鳴門巻き、というものもある。これもどれが能動で、どれが受動であるか、と見つめたりすると目がチラチラする。
いずれにせよ、海苔と飯で食品を巻いた物は、その時に応じて、注目点をかえながら名前が付いている。または、いい加減に名付けられたとも言えよう。

食品の名前が民衆の思いこみで自在に変化している例はハンバーガーで有名だ。
ドイツのハンブルグ→ハンバーグ(ステーキ)→それをパンで挟んで、ハンバーガー、となった。つまり、ハンバーガーは地名から由来している。ところが地名ではなく食物名を代入して、チーズバーガー、とかチキンバーガー、テリヤキバーガーなどができている。

地名から食物名に変えてできた食物名も十分に人口に膾炙している様は、能動から受動の物に注目点がかわってもまったく怪しまれていない巻きずしと同様であろう。

さて、私はハンバーグからハンバーガーになったところにも注目したい。ハンバーグはミンチ肉とタマネギなどを焼いたステーキ、つまり、肉だ。ハンバーガーはこれをパン(バンズ)で挟んだ物である。

ハンバーグからハンバーガー(hamburger)になった時に付いたerは何であろうか。……をする人、といったおなじみの意味であろうか。

もしそうであれば、先ほどの巻きずしの能動と受動に関係する言葉の組み合わせが思い浮かぶ。employer(雇用者、能動)とemployee(被雇用者、受動)、 trainer(トレーニングをさせる人、能動)とtrainee(トレーニングを受ける人、受動)などである。つまりerが付く方が能動で、eeが付く方が受動である。ハンバーグはパンに挟まれているのに、なぜ能動的にerが付いていて、eeではないのか。ハンバーガー(hamburger)は、パンに挟まれた肉なので、正しくはハンバーギー(hamburgee)と云うべきではないだろうか。あるいはハンバーガーを名乗るのであれば、パンが肉を挟むのではなく、ハンバーグステーキ(肉)がパンを挟む形にしなくてはいけないのではないだろうか。


といった推論もじつは民俗語源に基づいている。このerは形容詞化するときの接尾辞で、能動とは関係ないらしい。つまり、「ハンバーガー」は「ハンバーグの」という意味との事だ。

という問題もあるので、私はあまりハンバーグもハンバーガーも食べないことにしている。





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食卓での思惟