アフリカの人びとが東南アジアで交易活動をおこなっている。

商社などの駐在員としてアフリカ人が交易に携わる場合もある。しかし、私の関心をひくのは、一人で、あるいは少人数のインフォーマルセクターでの活動である。

タイのバンコクでアフリカ人が多く居住するといわれる地域(ソイ5)がある。ここでは、インターネットカフェと旅行代理店がわずか200メートルほどのあいだにそれぞれ5、6軒もある。これらの店の前で、アフリカ出身の人たちがたむろして情報交換をしている様子は日常的である。ソイ5から離れた場所に居を定めた者も、夜になるとここにやってくるようだ。






ここでは4つ星ホテルのすぐ脇に小さなインターネットカフェや足裏マッサージの店が並び、路上には多くの露店があり、怪しげな路地もある。近くに高速道路と高架鉄道が走り、その下の幹線道路はいつも渋滞している。電話線は麻のように乱れて電柱にかかり、その上をリスが走っている。午前5時に歩いても、前の晩からたむろしていた人びとがこれから朝食をとって引き上げようとしている。














やや古い映画『惑星 ソラリス』(1972年 ソ連)では未来都市の背景として東京の首都高速道路が使われたという。『ブレードランナー』(1982年 アメリカ)でも日本語は頻出している。2006年にこの手の映画を撮るとしたら、清濁あわせもった電脳都市とのイメージにソイ5周辺はよく当てはまるであろう。


ソイ5で見られるように、地域的に人が集まって情報が共有されると同時に、携帯電話などによる地域を超えたつながりも、アフリカ出身者の間で大きな役割を果たしている。インターネットカフェで長時間、他国にいる仲間や家族と連絡をとる青年を見かける。


東南アジアの多くの国では、SIMカードを差し替えれば同じ携帯電話機が使用できる。SIMカードには利用者の個人情報が入っている。自分の携帯電話機を落として壊したり、充電不足になった場合は、友人の携帯電話機を借りて自分のSIMカードを差し、自分の電話機として使うことができる。受信者には自分の電話番号が表示され、料金は自分持ちになるのである。タイからシンガポール、そしてマレーシアと交易で移動するたびに、その国で使用するSIMカードを差し替えつつ、アフリカ人の交易人は携帯電話を使っている。SIMカード利用は複数の国を移動する者にとっては標準仕様として便利である。というよりも、日本だけが独自の規格で孤立していると言える。




SIMカードは右端に見える白いもの。中央の黒いカードは、大きさの比較のために置いた、ミニSDカード。
追記:その後、タンザニアで購入したセルテル、とヴォーダコムのSIMカードを、上の写真のタイで購入した携帯にセットしてタンザニア内で使用してみた。タンザニアで獲得した電話番号で問題なく使用できた。(2006年7月 記)



バンコクにいる私の眼の前で電話をとり、宝石の商談を始めた青年もいた。その電話の相手はジュネーブだという。宝石をタイに持ち込む仕事をしている者にとっては、連絡相手はアンゴラやコンゴに住んでいたりする。


文化人類学の一般的な調査をする時は、調査者が地域内にいることが前提である。「村入り」という言葉もあり、まず村を訪問し、できれば住み込んでしまうことを大事にした。こうして、いつも顔をあわせて挨拶などを交わすなかで親しくなっていった。そもそも村には電話などないので、道ばたで相手をつかまえるしかなかった。このようなラポール(相手との親和的な関係)の取り方は、大都会のバンコクでも半分は共通している。しかし、あとの半分は携帯電話を使用したコミュニケーションであろう。


「タンザニア人を探している」とアフリカ出身の青年に告げる。すると、ほとんど「見つかったら電話するよ」といった返事である。こちらの住所を尋ねられることもない。電話がなければ、私も彼らを捕まえることが難しいし、その逆も真である。タイでは、プリペイドの携帯が役立った。


タンザニアから宝石の商売でタイに来ていた青年が客死した。この時、携帯電話で7、8人の仲間がすぐに集まり、検屍、葬儀、遺体の搬送の手続きをとり、遺体はバンコクからキリマンジャロ(タンザニア北部)まで空輸されていった。私にも携帯で連絡が来て、葬儀に間に合うことができた。もちろん彼が亡くなったことは、タンザニアの家族にまで連絡済みであった。
地域的に集中しての顔をあわせてのコンタクトと、空間にはとらわれない電話などのネットワークの両方を、アフリカの青年たちも駆使してバンコクで仕事をしている。それの様子を知りたい私も、この両者を使わざるを得ないだろう。






パソコン店をのぞく僧侶たち。バンコクでは珍しくない取り合わせである。

写真はすべて2005年12月〜2006年1月撮影





『人の移動と文化変容研究センター ニューズレター』に寄稿したものを改稿しました。




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タイでのコミュニケーションの取り方
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