○ パスポート

「自分は何者であるか」を所属の面で証明しようとすると、一般にはパスポートが一番権威がありそうだ。

パスポートを取得するためには戸籍謄(抄)本が必要で、この戸籍を取るためには現在住んでいる地域の役所ではなく、本籍地の役所に依頼する。戸籍によって日本国籍を持っていることが確認できるらしいので、この手続きが要求されるが、やや面倒である。


○戸籍の怪

戸籍には家族の成り立ちが記されており、一定の情報を運んでいる。しかし、その戸籍を置いてある本籍地の地名は符号のようなもので、どこでも選択できるようだ。

たとえば、ある球団を応援すべく甲子園球場の地番にしている人、日本に生まれた記念?に皇居の地番にしている人、領土を主張するために竹島や沖の鳥島にしている人、もいる。上で記した「戸籍を置いてある本籍地の地名」という表現自体も誤った印象を運んでいるかもしれない。「戸籍とセットにしてある地名」あるいはさらに極端に「戸籍を管理する役所を判別するための地名」とでもいうべきであろうか。

戸籍では、こうした符丁のようなものを使ってでも本人を特定しようとしている。こうした努力の結果、パスポートも権威がある身分証明書として発行されている。



○パスポートの曖昧さ

ところがパスポート発行が不調に終わることもある。たとえば、難民だ。ある国から逃れ出た人に、元の国が親切にパスポートを発行することはない。この場合、事情を勘案して国連機関やEUなどがパスポートを発行することがある。つまり、パスポートを発行するのは「国」だけではない。

パスポートを発行した国がかわってしまい、すでに発行したパスポートが無効になることもある。そんな事件を織り込んだ映画『ターミナル』(2004年 アメリカ)を観た。東ドイツ消滅後の東ドイツパスポート、チベットが占領された後のチベットパスポートなど、こんなケースは多いだろう。


○二重国籍

パスポートを失ってしまう場合とは逆に、2通持っている場合もある。二重国籍である。たとえば日本人の親からフランスで生まれたとする。フランスは出生地によって国籍を与え、日本は血統で国籍を決めるので、この子は両方の国籍を持つ。成人した時点でどちらかを選択することになる。

日本は成人の二重国籍は認めていない。一方、イギリスなどは二重国籍を認めている。イギリスの国籍(パスポート)を保持していることで、たとえばアフリカの旧植民地で生活していても、いざとなったらイギリスに帰ることができる保険になっている。

旧植民地側では愉快ではないので、イギリス国籍を破棄するように本人に求めるが、国籍の保持は、国籍がある国(この場合はイギリス)の行政機関しか分からないことだ。二重国籍になっている場合もあるだろう。

パスポートのように厳密に作製している証書でも曖昧さが残っている。偽造など意図的な行為がなされた場合の問題もあるが、それ以前に制度としてもさまざまな難問があるのだろう。



○運転免許証

私たちが日常的に便利に使う身分証明は、運転免許証である。これには写真もあり、取得には住民票も必要なので居住地と結びつく。運転免許証も国全体で統一した運営がされているので、権威が認められている。

国外で運転免許証を取得し、それを日本の免許に書き換えることができる。運転免許の試験制度が整っておらず、賄賂を支払うとどんな免許も発給する国があったとする。実際、そんな国を知っている。その免許を日本で書き換えて、大型のトレーラーなどを日本国内で運転されては物騒だ。

こんなことを防ぐために、日本の運転免許への書き換えは、試験が免除される国とそれ以外が決まっている。また、書き換えできる免許の種類にも制限がある。ところが、これらの制限の制度が整う以前にかなり自由に書き換えてしまった例を聞く。その当事者の方々は、現在では60歳代後半になり、あまり大きな影響はないかもしれない。



○ EU域内共通免許証

現在、EUでは域内の共通運転免許証の発行を検討している。これによって「免許証取得が簡単な国で免許を取って、他の国を自由に運転することを防ぐ」あるいは「交通違反を域内全体で集積してペナルティを課す」ことができるようになる。EU25ヵ国で110種の免許証があるらしい(web版CNN 2006年3月29日)ので、普通に取り締まっていても要領を得ないだろう。


○国際運転免許証

日本では国外に出かける人に国際運転免許証を発行している。これがそのまま通用する国もある。「通用する」と明示されていない国でも、問われた時に警察官に示せば問題ない場合もある。陸続きの国々が続き、国際免許証の協定がなくても国外からの車も運転手も頻繁に通行している所は世界に多い。ここでは隣国の運転免許証がそのままで通用してしまうこともある。国際免許証もそのうちの一つとして扱われているのである。



○行政から以外の身分証明

パスポートも運転免許証も実際の場面ではさまざまな運用があって、完全な身分証明にはなっていない。国やEUなどの機関による身分証明も必要な時があろう。一方、その他の種類の身分証明もある。

一つは、地域社会のなかで「……さんはこんな人である」といった世間のレベルのアイデンティティである。

もう一つは、「自分自身が分かっている私の性格や運」といった生命のレベルのアイデンティティである。これらの、機関発行以外のアイデンティティもあることを知っておきたい。そして機関発行の身分証明の限界を知って利用したい。










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