2000年からの退役軍人による農場占拠は2001年になっても続いていた。

  裁判所はこれを不法だとしているが、大統領は支持しているので始末が悪い。ジンバブウェ全体として危険度1の注意喚起の海外安全情報を日本の外務省は出している。首都のハラレにいる限り気持ちが緩んで、私は、前項のような心配をしている程度だ。

 しかし、ハラレの中でも住宅街へいくと目につくものがある。それは「売ります」の看板が出ている家だ。



  ハラレでは10分も車で移動すれば郊外の高級住宅街に行きつく。道路の両脇は芝生で、その先に花壇と塀が作ってある。平屋か2階建てで、すべてプールと使用人の住居付きである。それらの家並みのここかしこに看板が出ているのだ。

 売り家が多いのは、今まで住んでいた白人がジンバブウェからイギリス、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどへ出国したためだ。二重の国籍を持つ人はこんな事が出来てしまう。

 退役軍人の農場占拠は白人農場主には脅威である。現在の政権は、農場、宅地をふくめて白人が持っている資産への対処方法を示さなくてはならない。これは、1980年の独立以来の課題であるが、先送りになっているものだ。どうせ白人に不利な対処しかありえないと、多くの人が判断してジンバブウェから出ているのだ。


 ハラレは標高1500メートルの高原に位置していて気候的にはすごしやすい。また、水道、電気、電話の便もタンザニア、マラウィの都市よりずっとよく、不便を感じさせない。もしジンバブウェに住む気があれば、いまは住宅の買い時だ。

 0.5〜1エーカーの土地(2000〜4000平方メートル)、3寝室以上で暖炉と客用の寝室がある家、プール、使用人の家で、日本円で数百万円である。日本で高級車を買って、数年で古くなってしまうよりもずっとましだ。

  しかしジンバブウェに住みつづけるための、出入国管理上の身分が必要だ。観光客では3ヶ月程度だろう。手っ取り早いのはジンバブウェ人と結婚することだ。もし、読者が既婚者であったら、どこかジンバブウェの企業、役所、NGO、大学などに職を見つけることだ。弁護士も多いので相談の価値がある。 


 ハラレの町から離れると、畑が続くが、その中にブラック・パワー・エステイトと看板をかけたところ、入り口のゲート付近にテントを張って見張りをおいているところが見かけられた。また、道路で車をとめて、カンパをつのっている風景も見られた。
WAR VETERAN(退役軍人)の文字が見える


 私は、しばしばタンザニアを訪問しているが、タンザニアでは、白人の大農場主というのには比較的少数だ。住んでいるマラウィでは、タバコやトウモロコシ畑の白人経営者にお目にかかるが、規模・数は、あくまでもジンバブウェと比較の問題であるが、それほど巨大ではない。

 ところがジンバブウェの白人農場主の中には、数百平方キロの畑地を持つ者がいる。

 百平方キロとしても10キロ四方がひとつの家族によって所有されていることになる。私が住む埼玉県中部の町は26平方キロメートルの面積に1万8千人が生活している。この中には農民も生活している。「これが全部一家族のものか」と想像をめぐらす。

 白人農場主は、数百平方キロメートルの土地で牛数千頭を飼い、あるいはメイズ、タバコ、マメ、などを栽培している。自分の土地でワニを飼育し、皮を売る者もいる。チーターの家族を住まわせ、ヨーロッパからの客にハンティングさせている所もある。

  こんな農場は一般の観光ガイドには出てこない。

 ジンバブウェの白人農地の数百平方キロの面積が他と比べてどうか、いま資料を持ち合わせていない。チリやフィリピンのアシエンダ、ブラジルのハンバーグ用のウシの放牧地、オーストラリアやアメリカ合衆国の大農場とどちらが大きいのだろうか。南アフリカなどジンバブウェの隣国でも、それぞれ巨大白人農場を抱えている。

  いずれにしても土地を持たないジンバブウェの農民にとっては目がくらむ大きさだ。
そして、なんとか格差を少なくしたいと思うのも当然だろう。

 暴力ざたになる前に長期計画を示して、すこしずつ進めていくのが政治家の責任であったのに果たされなかった。土地の所有の合理化、住民の福祉の向上を、選挙での勝利、政治生命の延長の材料にせずすすめるべきであった。




 土地所有では、不自然なくらい巨大な集合が可能なことに気づく。これは、金と権力の所有でも同様だ。

 人間の欲望には各種ある。
今日7時間寝たから、明日は9時間、明後日は11時間を欲するだろうか。
日本一の盛りそば2枚にありついたから、明日は4枚、明後日は8枚を欲するだろうか。
美女2人を入手すると、次は4人、さらに8人となるだろうか。

  中国皇帝の後宮3000人の伝説を聞いたことがあるが、これはすでに自分の肉体を離れた抽象化された欲望の対象であったのだろう。事実、皇帝は似顔絵で相手を選択していたと聞いている。

 土地所有、金銭の所有、あるいは人事や生殺与奪で力を振るう権力、などは肉体が関係して欲望が発生しているというよりも、抽象的になって自己増殖している。この抽象的な欲望はおどろくほど巨大になり、それが実現した形も巨大になることがあるのだ。

 ジンバブウェの次の大統領選挙は、2002年だ。その時までにジンバブウェから異動したいと思っている人が、ハラレ在住の黒人の中にもいる。

  やっぱりハラレに家を買うのはもう少しだけ後のほうがよいかもしれない。



2002年の大統領選挙では現職のムガベ氏が勝ち、いよいよ露骨に白人農場主の追い出しにかかっている。期限までに退去しなかった白人農場主の逮捕、裁判も始まりつつある。一方では、南部アフリカは2002年の後半にかけて食料不足が現実になってきている。白人農場主を追い出すと、農業生産の低下、ヨーロッパからの食料援助の停止、が予想され、どのように展開するのか予断を許さない。(この段 2002年8月記)


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