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エ イ ズ 

  マラウィに限らず、サハラ以南のアフリカ諸国はどこもエイズ蔓延で厳しい状況だ。

  エイズの発生の地はアフリカの中部で、チンパンジーからの感染であるといわれている。これについては異論を唱える人もいるし、本稿の目的も、その発生地を議論する事ではない。エイズが、HIVによって引き起こされると分かり、具体的に特定されるようになった以後では、マラウィでの症例は1985年から記録されている。

  マラウィでは、1993年時点で、南部のある病院の妊婦の30パーセントがHIV陽性で、その後も2001年まで33パーセント前後である。この統計は、サンプルが限られている。しかし、全国民を対象にした検査など世界のどの国でも実施されておらず、推定するしかない。マラウィでは、性的にアクティブな人口の15〜20パーセントがHIV陽性だとの推定がある。

  アメリカではカポジ肉腫を発症する場合が多いようだが、マラウィでは結核として発症する場合が多い。事実、マラウィ内の病院での結核入院患者の80パーセント以上がHIV陽性だ。

  WHOによれば、マラウィの平均寿命は29.4歳で、戦乱があったシエラレオーネ、ニジェールについで低い。また、平均寿命は2010年には25歳程度にまで低下するといわれている。

  ジンバブウェも深刻な状態で、国民の4分の1がHIV陽性で、2010年までに平均寿命は27歳に落ちるといわれている。ちなみに平均寿命は1990年には62歳、2000年には44歳であった。

  前述のように、国全体の統計はないので、マラウィとジンバブウェとどちらがより深刻か、直接比較する事は難しい。両方とも十分に深刻なのだ。

  また、南ア、ナイジェリア、ケニア、エチオピア、ボツワナ、レソト、スワジランド、ザンビアが、深刻な状態の国としてよく言及される。ウガンダは1990年代初めまで、これらの記載のトップにあったが、依然として多くの感染者をかかえるものの、現在では上記の国々と比較してやや感染率は低くなっている。

  1980年代、マラウィではHIV感染の高リスクのグループが限定されていた。つまり、長距離のトラック運転手、彼らが宿舎とする町のホステスだ。他の国では軍隊も危険グループであった。しかし、1990年代には、このような範疇を離れて、どこにでもいる普通の男女が感染するようになっている。

  多くの者が感染するようになり、怪しげな風評もでている。いわく、身体しょうがい者と性交渉すれば直る、処女と性交渉すれば治癒するなどといったものだ。もちろんこれらの風評にはまったく根拠がなく、対象となった者に大きな被害をもたらすだけだ。

  これに類したものとして、南アのある地方では結婚前の処女性の検査が復活した。伝統的だが人権無視の習慣であり、中断されていた。ところが、エイズの蔓延と共に復活してきている。つまり処女の検査をパスした娘ならHIV陰性であろうとの指標にしているのだ。

  これは一概に否定できないが、草木を使った伝統的な医療でエイズを治癒可能だと発言している人もいる。これは、うわさに上るだけでなく、新聞で取り上げられたり、政府役人が言及したりしている。新聞や役人は、真偽については断定せず、「こんな人がいる」「真相を確かめなくてはいけない」「いずれにせよ、あらゆる方法を研究すべきだ」といった扱い方である。

  2001年の国連でのエイズに関する会議から帰ったケニアのモイ大統領は「エイズを故意に感染させた者には死刑を適用すべきだ」と発言した。

  アフリカ諸国では、女性のHIV陽性率が男性よりずっと高い。これは男尊女卑の傾向があり、男性の要求を断れないからだといわれる。これが極端になればレイプになる。このような背景のもと、男性を牽制するための発言であれば、発言の意図は理解できる。しかし、エイズに関して重罰を振りかざして対処するのは、逆コースであろう。現在では、エイズは一般の男女がだれでもかかる可能性がある病気だ。すでに罹患してしまった人、あるいはその可能性を感じている人を怯えさせ隠れさせるのではなく、オープンに付き合い面倒をみていく体制でなければ罹患率は下がらない。

  また、モイ大統領は「2年間は性交渉を慎むよう国民に促した」とも報道された。

  これはどの程度、本気なのであろう。私の情報源は短い新聞記事からでは発言の真意はよく分からない。本当に上記のような事を進めることができると思っているのか?たとえば、禁酒法の時代に飲酒がなくなったか?嫌煙権運動が広がる中で喫煙者がいなくなったか?これらよりもずっと基本的な活動へ政治が介入できると思っているのだろうか?

  これも、あまりのエイズ蔓延に大統領が愚痴をこぼし、新聞が面白く取り上げたという程度なら、よく分かる。また、「多人数と気軽に性交渉をするような習慣は改めよう」といったニュアンスであるならば、分かるのであるが。

  この最後のニュアンスで、マラウィでは大統領自身がポスターに出て、行動の変化を求めている。ポスターには様々な種類があり、いくつかここで紹介しよう。






マラウィの大統領が呼びかけているポスター。


以下、様々なポスター。

語り口もいろいろある。
器具の絵も入っている。






一つのラウンド アバウトを囲んで、手前と向こう側(右)にエイズ関係のポスターが並んでいる所もある。
  現在(2000年)、エイズ関連で話題になっているのはコピー薬の生産だ。一般には発症を抑える薬の組み合わせ(カクテル)に、一人一年あたり1万〜1万5千ドルの費用が必要だ。マラウィは、これを350ドル程度でインドの製薬会社から入手しようとしている。このような動きは、南アでは先行していると聞く。

  たんに製品を割り引き値で購入する交渉を進めているだけではない。ブラジルは、西欧の製薬会社がすでに製品化し特許を得ている薬をコピーして生産することを公言している。もちろん、これには特許を持つ会社が激しく抗議している。しかし、ブラジルは、「人類の存亡に関わる事態であり、特許権は尊重されない」また、「いわゆる先進国内で十分に利益をあげられるはずだ」としている。

  コピー薬についてはメーカーも政府も力を入れて争っているので、どう決着するのか、予断を許さない。

  私としてはコピー可、あるいは無償で提供、などの方向を歓迎したい。アフリカでの貨幣流通量が西欧とは桁違いに少なく、エイズ蔓延の事情が深刻である事を勘案すれば、まずはともあれ、迅速な手を打たなければならないと思うからだ。

2001年から、先進国の製薬会社も世論に押されて、アフリカ諸国へは安価で薬を供給するようになった。場合によっては年間一人当たり、数万円レベルで購入可能になった。薬は安価になったが、それを管理する医師と病院、患者をケアする社会体制、そして一般の人々の意識と行動の改変がこれから待っている。(この段は2002年記)