ユダヤ教におけるカシュルート(食事規定)



ユダヤ教→唯一の神ヤハウェがユダヤ民族を選んで契約を結び、預言者モーセに教えを啓示したという信仰に基づいてその教えを生活の中で実践するユダヤ民族の宗教。イスラエルで興り、バビロン捕囚以後に教団として発達。
ユダヤ人の定義→ユダヤ人を母とする者またはユダヤ教徒
カシュルートとは→ユダヤ教の食事規定。カシュルートで食べてよい物の事をカシェル(ヘブライ語で“相応しい状態”を示す形容詞)という

食のタブーについて
食のタブーとは…社会の秩序を円滑に問題無く保てるように定められた何らかの決まりごとである
   食には必ず民族や宗教によって厳格なルールが存在する
とりわけ肉食に関するタブーが多い(豚肉、牛肉、鶏肉、魚肉、人肉、犬肉、猫肉…)
日本人…食に対するイデオロギーが無い

イスラム教
 ・ハラームとハラール
   ハラーム→イスラム教によって禁じられたもの  ハラール→許されているもの
 ・クルアーンによる規定
   豚肉、死獣の肉、血、アッラー以外の邪神に捧げられた物、アルコール類、2つの世界を生きる動物、爬虫類、昆虫類、漬物、紅茶
 ・クルアーン 第2章195節 「アッラーの道のために(あなたがたに授けられたものを)施しなさい。自分の手で自らを破滅に陥れてはならない」
仏教
  戒律で殺生を禁じているため、肉食はタブー(自分の手で殺したものでなければよい)
ジャイナ教
  徹底した不肉食、不殺生  虫も潰さないよう注意
ヒンドゥー教
  牛肉の禁忌
  牛→シヴァ神の乗る神聖な動物であり、母性と豊穣を象徴。牽引動物としても重要な社会的動物。

キリスト教
  「神がお造りになったものは全て良いものであり、感謝して受けるならば何一つ捨てるものはない」
  「外から人の身体に入るもので、人を汚すことのできるものは何もなく、人の中から出てくるものが、人を汚すのである」(マルコによる福音書)→実質的にはタブーは無い
  「地の全ての獣、空の全ての鳥、地に這う全てのもの、海の全ての魚は恐れおののいて、あなたがたの支配に服し、全て生きて動くものはあなたがたの食べ物となるであろう」
・アドベンチスト派の菜食主義
 ・モルモン教の刺激物(コーヒーなど)の禁止
 ・エチオピア高原のキリスト教徒

ユダヤ教のカシュルート
  ユダヤ教徒は旧約聖書のレビ記の記述に基づき、厳格に食べてよいものといけないものを区別している
 【禁じられているもの】
・反芻しない、もしくはひづめが完全に分かれていないもの(ラクダ、イワダヌキ、イノシシ、野ウサギ、豚、馬、ロバなど)
・四本の足で地上を這い回るもの(モグラ、トカゲ、ネズミなど)
・四本の足で歩く動物のうち、足の裏のふくらみで歩くもの(ネコ、ライオン、キツネ、狼など)
・鳥類のうち、ハゲワシ、ヒゲハゲワシ、ミサゴ、トビ、ハヤブサ類、カラス類、ダチョウ、ヨタカ、かもめ、タカ類、フクロウ、鵜、ミミズク、ムラサキバン、ペリカン、ハゲタカ、コウノトリ、サギ類、ヤツガシラ、コウモリに含まれるもの。
・羽があり、四つ足で歩くすべての這うもの(昆虫類を含む爬虫類・両生類)
・海や川の住民のうち、ヒレ、ウロコのないもの(タコ、イカ、エビ、貝類、イルカ、鯨など)
・血液(ソーセージなど)
・死肉
・肉と乳製品を同時に使ったもの(チーズバーガーなど)
 【許されているもの】
・反芻し、ひづめが完全に分かれているもの(牛、羊、山羊、鹿、カモシカなど)
・海や川の住民のうち、ヒレ、ウロコのあるもの(魚など)
・鳥類のうち、食べてはならないものを除いたもの(鳩、鴨、鶏など)
・羽のあるもののうち、足の上に跳ね足があって、それで地上を跳ねるもの(イナゴなど)

トーラーによる肉に関する4つの規定
  @生きた動物から切り取った肉(生きたものの手足)を食べてはならない
  A血を飲んではならない
  B肉と乳製品を同時に使ってはならない  ※「子山羊をその母の乳で煮てはならない」(出エジプト記)
  Cスエット(横隔膜の下にできる堅い脂肪)を食べてはならない

屠殺方法、死肉の禁止
   人間が動物を殺す上で最も慈悲深い方法
その他
   狩りの禁止  ワインに対する規定

ユダヤ教とイスラム教における豚肉忌避について
 ●なぜ豚肉食がタブーとなったのか?
  ・中東地域の自然環境との関わり
    牛、羊、山羊などの反芻動物は人が食べることのない植物を餌にして成長するが、豚は雑食動物で、反芻動物ではなく、人間が食べる穀物等を食べるため、食糧確保の点で競合してしまう。また、反芻動物に比べると飼育により多くのコストがかかる。
      豚肉を嫌う習慣→人々が生き延びていくために生み出されたタブー
  ・寄生虫による病気を避けるため
    高温地域で食中毒を避けるといった衛生上の必要からタブーが生まれた
                    ↓
          タブーの果たす役割であり、起原とはいえない
古代社会における豚
  ユダヤ教、イスラム教が勃興する以前から豚肉への嫌悪感は中東地域に存在していた
 ●古代エジプト
  ・考古学的証拠から豚がずっと飼育されてきたのは間違いが無い
  ・古代エジプト人の豚に対する両義的な態度
 ●古代ヘブライ人
  ・豚は不浄
  ・食のタブー→社会のどの集団に属しているかを周囲に示すしるし
 ●ヒッタイト、シュメール、バビロニア、アッシリア、アナトリア

ユダヤ人のアイデンティティ
 ●カシュルートを守ることによってユダヤ民族のアイデンティティが守られた
   →長い離散の歴史の中で民族の個性を維持することが出来た
 ●日常生活に宗教性を持たせることでその人の生活自身を聖なるものとなすことが出来る
 ●ユダヤ系アメリカ人作家ハーマン・ウォーク
「彼らにとっては、精神的にも肉体的にも、豚肉またはエビを捜してそれを食べることの方が、ユダヤ人のやり方で食べることよりもはるかに混乱があった。こうした在り方は、ユダヤ人の昔からの誇り高いアイデンティティが与える満足感の一部だったし、その奥底には、モーセの律法はユダヤ民族に向けた歴史的な神の意思だという直感があった。」

現代のユダヤ人とカシュルート
 ●規定を守る程度
 ●カシェルフードの普及




【参考文献】
フレデリック.J.シムーンズ 山内昶監訳 『肉食タブーの世界史』 法政大学出版局 2001年
クロディーヌ・ファーブル・ヴァサス 宇京頼三訳 『豚の文化誌─ユダヤ人とキリスト教徒─』 柏書房 2000年
山内昶 『タブーの謎を解く─食と性の文化学─』 筑摩書房 1996年
ハーマン・ウォーク 島野信宏訳 『ユダヤ教を語る』 ミルトス 1990年
菊地俊夫編著 『食の世界』 二宮書店 2002年
河合利光編著 『食からの異文化理解─テーマ研究と実践─』 時潮社 2006年
関根清三 『旧約聖書の思想』 講談社 2005年
フィリップ・トーディ 井上廣美訳 『タブーの事典』 原書房 1998年
鈴木元子 「異文化交流─聖書の民 ユダヤ民族─」 静岡県立大学研究紀要第14−1号 2000年
ニッスイアカデミーHP 「食の禁忌」http://www.nissui.co.jp/academy/eating/02/index.html
ミルトスHP(イスラエル総合情報サイト)
http://www.myrtos.co.jp/index.html?url=http://www.myrtos.co.jp/topics/juda/juda04.html

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