2008年度全カリ現代社会と法


講義ノート38頁(完)(word/zip)

 配布資料は、「学生がノートを書く負担を減らして、話を聞くことに集中できるようにしているが、レジュメを見ただけでは理解しにくく、講義を耳で聞いて理解が深まる」というレベルを目指して作成しています。私自身の学生時代の経験から、耳で講義を聞いていた方が懸命に教科書を読んだだけというよりも理解が深まっている、と感じています。
 黄色のマーカー部分は訂正箇所です。
 青色マーカー部分は講義でとばした箇所であり、期末試験の対象外となります。

FB161現代社会と法 2008年前期 試験 担当:浅妻章如

第一問 AとBは夫婦であり、Aが所有する店舗で八百屋を営んでいる。或る年の売上げから諸費用を控除した残額は600万円であった(本問では基礎控除・配偶者控除等の諸控除は無視する)。AとBは各々300万円の所得があるとして納税申告した。しかし、税務署長であるCは、問題の八百屋はA・Bの共同事業ではなくAの単独事業であってBに所得は帰属しないと主張した。なお、税率表は下表の通りであり、地方税は無視する。
195万円以下の金額 100分の5
195万円を超え330万円以下の金額 100分の10
330万円を超え695万円以下の金額 100分の20
695万円を超え900万円以下の金額 100分の23
900万円を超え1800万円以下の金額 100分の33
1800万円を超える金額 100分の40
(1) AとBの納税申告によると、それぞれの税額は幾らであるか。
(2) Cの主張によると、AとBそれぞれの税額は幾らであるか。

【解答例】
(1) 195×0.05+105×0.10=20.25 A・Bそれぞれ20万2500円。(講義ノート27頁参照)
(2) 195×0.05+135×0.10+270×0.20=77.25 A77万2500円。B0円。(講義ノート27頁、30-31頁参照)


【講評】 過去似た出題で不正解が続出したので時間をかけて説明したつもりですが、(1)について30万円、30万円、(2)について120万円、0万円とした答案が大変多く、残念です。


第二問 Dはヒップホップ系歌手を目指し、自宅で歌唱の訓練を行なっている。しかし、隣人のEは器楽曲のみを好みヒップホップ系の歌が大嫌いであったので、Dの歌声が聞こえてくるたびに苛々している。
(1) 法的にEは警察に対してどのような主張をすることができるか。
(2) 法的にEはDに対してどのような主張をすることができるか。

【解答例】
(1) Dの歌によってノイローゼになったので、DのEに対する傷害の罪(刑法204条)であるとして、警察に被害届を出す。(講義ノート6頁、13頁参照)
(2) Dの歌によって生じた損害について、民法709条に基づき賠償請求をする。(講義ノート8頁、12頁参照)


【講評】 (1)は民事不介入でも傷害罪の問題でもどちらでも結構です。刑事と民事との区別について、概ね理解できていたようで、安心しました。


第三問 欧州の国々と異なり、日本の消費税(付加価値税)は、食料品等生活必需品について軽減税率を定めていない。
(1) 消費者が、「日本の消費税法に軽減税率の定めがないことは憲法違反である」と主張をして、5250円で米を買ったうちの250円について返還請求する裁判を提起した場合、裁判所はどう応答すると予想されるか。
(2)  「日本の消費税法に軽減税率の定めがないことは憲法違反である」という主張について仮に裁判所の判断が示されることとなったとして、先例に照らしてどのような判断をすると予想されるか。先例の判決年月日を挙げつつ、説明しなさい。
(3) 付加価値税の標準税率を10%にする一方でラーメンの税率を0%にするとした場合、どのような問題が生ずるか。
(4) Fが経営するラーメン店には「日本一旨いラーメンF」という看板がある。しかし、Gは自分が作るラーメンこそが世界一旨いラーメンであるという信念を持っている。GがFに対し「せめて『日本で二番目に旨いラーメンF』という看板にしろ」という請求をして裁判を起こした場合、日本の裁判所はどのような判断をすると予想されるか。(先例の判決年月日を挙げる必要はない)

【解答例】
(1) 消費者が消費税の納税義務を負うわけではなく、消費者に具体的な権利の侵害がないので、原告適格がないとして訴えを却下する。(講義ノート3頁、22頁参照)
(2) 最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁に則り、消費税法に軽減税率の定めがないことが「著しく不合理」であるか、そして著しく不合理であることが「明らか」であるかを審査し、軽減税率の定めがないとする租税政策にも正当性があるので憲法違反ではないと応答すると予想される。(講義ノート19-20頁参照)
(3) ラーメンの供給・消費が増え、ラーメンに代替する食品の供給・消費が落ちるという形で、人々の行動が変わるので、死荷重が生じ非効率となる。(講義ノート25-26頁参照)
(4) どのラーメンが最も旨いかという問題は、法律上の争訟に当たらず、裁判所による審査に馴染まないので却下する、と判断すると予想される。(講義ノート6頁参照)


【講評】 
(1) 原告適格の問題ではなくいきなり中身の検討(一応加点要素とはしましたが)をする答案の方が目立ちました。却下と棄却との区別については理解しにくいようです。
(2) 難しいだろうなと思ったので持込可にしましたが、それでも白紙答案が目立ちました。大嶋訴訟よりも沖縄生鮮魚介類事件・福岡高裁那覇支判昭和48年10月31日月報19巻13号220頁を挙げる答案の方が目立ちましたが、なぜこの事件を挙げたのか、よく分かりません。間接税だからでしょうか?
(3) 論点が色々ありうるのでなるべく加点要素としていますが、非効率性の論点を指摘する答案が思っていたよりも少なかったのが残念です。0%なのでラーメン店が付加価値税を負担することはないのですが、負担させられてしまうという答案が散見されましたが、免税と非課税とを混同しているのでしょう。
(4) (1)同様、却下と棄却との区別は難しかったようです。講義で扱ったものしか出題しないといっておきましたが、講義で扱わなかった表現の自由の問題として論じている答案が多いことにびっくりしました。



第四問 児童ポルノについて規制すべきとの声があるが、2008年7月14日の時点において児童ポルノの所有は合法であったとする。
(1) Gは2008年7月14日に合法な児童ポルノを購入した。児童ポルノの保有者に対し毎年10000円の税を課すとする法案が、2008年10月1日に国会を通過して成立し、翌日に公布され、2009年1月1日から施行されることとなった。2009年1月1日に、児童ポルノを保有しているGに対し課税することは、遡及適用として憲法違反となるか。
(2) 児童ポルノの保有に課税するとすることと、児童ポルノの保有を禁じ保有者に対し罰金を科すとすることとの違いを説明せよ。

【解答例】
(1) 課税の対象は、2008年10月1日以前における児童ポルノの購入ではなく、2009年1月1日以後の児童ポルノの保有なので、遡及適用に当たらない。(講義ノート21-22頁参照)
(2) 前者の場合、税金を払えば合法的に児童ポルノを保有し続けることができるが、後者の場合、罰金を払っても合法的に児童ポルノを保有し続けることはできない。(講義ノート18頁参照)


【講評】
(1) 違憲ではないという結論だけしか書かない答案が散見されたのは残念です。
(2) 概ね区別できていたようです。


最低点0点
最高点90点
全体平均点50.83点
1年生18人平均点47.22点
2年生11人平均点50.00点
3年生09人平均点61.67点
4年生04人平均点45.00点

配点は各10点(但し一部ボーナス加点)
一(1) 2.86点
一(2) 1.90点
二(1) 9.40点
二(2) 9.05点
三(1) 5.00点
三(2) 1.43点
三(3) 4.76点
三(4) 5.12点
四(1) 4.17点
四(2) 7.14点

合計42人
S 04人 09.5%
A 04人 09.5%
B 18人 42.9%
C 13人 31.0%
D 03人 07.1%

【全体の講評】
 法律の答案なので結論よりも理由付けをキッチリ書くことが要求されますが、最高点(90点)の答案は、簡潔ながら出題意図を的確に捉えており、その明晰さ・コスト(字数)パフォーマンスの良さにびっくりしました。



シラバスより転載

科目名<タイトル> 現代社会と法
<法と租税との関わり>
担当者(フリガナ) 浅妻 章如(アサツマ アキユキ)
学期/単位数 前期/2単位
備   考  

■授業の目標
法律家がどのように物事を考えているのか,租税はどうして必要なのか,租税負担を公平に配分するために法がどう関わるか,考えていきます。

■授業の内容
古来,法律も租税も嫌われ者ですが,しかしこれらがなければないでやはり我々の生活は困るのです。法律家の思考様式はやや特異ですので,先ずそれに慣れてもらい,ついで,人々の間で負担を公平に配分するとはどういうことかについて考えていきます。

■授業計画
●法律は何故必要か。
●法律家の思考様式(リーガルマインド)とは。
●租税法律主義。
●所得とは何か:金持ちなら課税してよい?…金持ちの定義とは?
●租税と法:法の隙間をくぐって租税負担を回避するのは許せない?
以上の各項目を2〜3コマずつかけて扱います。法についての講義が中心となりますが,扱う対象が租税でもあるので経済的なトピックも含まれます。
最終的には専門家内でも意見の分かれる問題を扱うようになりますが,自分の頭で考えられるようになって下さい。

■成績評価方法・基準
筆記試験(100%)による

■テキスト
指定なし。講義ノートを配布する。

■参考文献
金子宏他『税法入門』(有斐閣新書),佐藤英明『プレップ租税法』(弘文堂)

■その他(HP等)
http://www.rikkyo.ne.jp/~asatsuma/


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