2014年度FB166全カリ現代社会と法(現代社会における法と租税の役割)





期末試験2014年1月28日水曜日1限実施
解答の順序は任意だが、解答に際し問題番号を分かりやすく示せ。計算問題については、計算結果が間違っていても計算過程が正しい場合に部分点を考慮する。原則として各問につき10点を配分しているが、法学的見地から意味のある記述であれば配点を超える加点も考慮する。
1.判決理由(レイシオ・デシデンダイ)と傍論(オビタ・ディクタム)との違いに留意しつつ、「裁判官は裁判で結論を出すことが求められていて独り善がりな自説の開陳は求められていないのだから、裁判官は傍論を書いてはならない」という意見について、法学的見地から論評せよ。
2.衆議院議員選挙における1人別枠方式はどういう制度であるか、また、なぜ廃止されたか、説明せよ。
3.「外国人は日本語が不自由なので契約で色々騙されてしまうことがあるだろうから、外国人と日本人が契約した場合、外国人の側だけに取消権限を認めて、外国人を保護すべきだ」という意見について、法学的見地から論評せよ。
4.アパートの住人甲はバイオリンの練習をしていた。当該アパートでの楽器演奏の可否について規定はなかった。別の住人乙は、バイオリンの音が邪魔でノイローゼになり、司法試験に落ちてしまった。乙は引っ越した。乙は翌年実力通り司法試験に受かった。甲の民事及び刑事上の責任の有無について、法学的見地から論評せよ。
5.過失器物損壊に刑罰が科されないことの立法論的当否について、刑法・刑罰の存在意義を踏まえつつ論評せよ。
6.最判平成20年9月12日判時2022号11頁は、宗教法人のペット葬祭業について収益事業(請負業等)に当たるとして、収益事業以外の収入には法人税が課されない宗教法人に対する法人税の課税を肯定した。宗教法人のおみくじの販売についても収益事業(物品販売業)に当たるとして法人税の課税をすべきか、法学的見地から論評せよ(念のためであるが、通達でどう扱われているかを問うているのではない)。
7.直接税としての累進消費課税を採用するとしたら、どのような課税方法になるか、説明せよ。
8.法人税に関し、法人が負債利子を支払うことと法人が配当を支払うこととの税務上の扱いの違いをなくすためには、どちらに扱いを揃えるべきか、そしてあなたはどうしてそちらに揃えることを支持するのか、数値例を自作した上で説明せよ。
9.付加価値税(日本では消費税法。講義では国税・地方税の違いを扱っていないので本問でも国税・地方税の違いを無視する)の適用に関し、日本居住者であって事業者ではない丙が自分で使うためにヘッドフォンをアメリカ企業から輸入する場合と、丙が自分で聞くために音楽をアメリカ企業からダウンロード購入する場合の、税務上の違いを、数値例を自作した上で説明せよ。なお、アメリカには付加価値税がない。
10.配偶者が相続する場合の相続財産額が1億6000万円以下である場合、相続税法19条の2により相続税は課されない。丁(男)と愛し愛される関係にある戊(男)は、1億円の財産を持っており、丁と結婚し、丁に1億円の財産を遺したいと思っている。が、日本では男同士では法律上の結婚ができない。また、いわゆる内縁の夫婦(一緒に暮らすなど事実上結婚のような生活をしているが、法律婚としての届け出をしていないため法律上の結婚とはいえないカップル)に相続税法19条の2が適用されないことは、判例法上ほぼ確実である(所得税法についてであるが最判平成9年9月9日訟月44巻6号1009頁)。そこで、戊と丁は、同性婚が法律上可能である国に行き、戊と丁はその国で法律上の結婚をした。戊と丁が日本に戻ってから戊が死んだ。戊の相続人になる可能性のある者は丁だけであった。丁は相続税法19条の2により相続税非課税のまま遺産を受け取ることができるか、論じよ。

【解説】
1.講義ノート7頁。判決理由は、判決の結論と関係がある部分、傍論は判決の結論と関係がない部分、という違いを説明すること。傍論を書くことの良し悪しは、どこに力点を置くかで変わりうる。結論と関係がない以上判断を控えるべきで将来のことに余計な縛りを持ち込むべきでないといった意見にも理があるし、結論と関係なくとも裁判所の判断を示しておくことは今後の紛争解決等に指針をもたらすから意味があるといった意見にも理がある。
2.講義ノート11頁。1人別枠方式とは、各都道府県に人口比例で議席を配当する前に予め各都道府県に議席を一人分配当するもの。最高裁は、激変緩和措置としての意義だけを認め、過疎地域への配慮については制度の合理性として認めていなかった。元々時間的限界がある仕組みという最高裁の判示に従い、平成24年改正で1人別枠方式は廃止された。
3.講義ノート14頁。現在未成年者が単独で契約(例えば部屋の賃貸借契約)を締結しようとしても相手にしてくれる人がいないのと同じように、一方的に外国人を保護しようとすれば、外国人と取引相手になろうという人がいなくなってしまう恐れがある。br> 4.講義ノート22頁。嫌煙権訴訟・東京地判昭和62年3月7日判時1226号33頁において煙草に関し受忍限度の範囲と判断された理が本問でも妥当するかが鍵となる。バイオリンの音くらい我慢しろ、となると、民事で乙が甲に損害賠償請求をしても棄却される可能性がある。しかし乙が「ノイローゼにな」ったという問題文の設例では、受忍限度を超えているので損害賠償義務を甲が負うと判断することにもそれなりの説得力がある。どちらの結論を支持するかは解答者に任せるが、その結論に至る理由として受忍限度との関係を論じているかがポイントとなる(最近ドイツのアパートにおける嫌煙主張の可否について最近興味深い記事が書かれた→twitter)。また、乙がノイローゼになったということから、刑事で乙が傷害罪(刑法204条)に問われる可能性もある。
5.講義ノート5頁。刑法・刑罰の存在意義は予防と応報である。過失器物損壊が不可罰であることについて予防の観点から見ると、過失器物損壊についてまで刑罰を科すと我々国民が最適なレベルを超えて物を壊さないように注意しすぎるようになってしまい却って社会経済活動が阻害される恐れがある。応報の観点から見ると、物を壊さないように注意することを怠ったということについて、刑罰で報いるほどの重大事ではない、と考えられる。
6.講義ノート34頁。法律で宗教活動に優遇を与えることも違憲の恐れがあるため、おみくじに課税しないとすることは宗教法人に対する違憲の優遇となる恐れがある。なお、法人税法基本通達15-1-10は、「宗教法人におけるお守り、お札、おみくじ等の販売のように、その売価と仕入原価との関係からみてその差額が通常の物品販売業における売買利潤ではなく実質は喜捨金と認められる場合のその販売は、物品販売業に該当しないものとする。」として非課税扱いを容認しており、おみくじ販売は買う人から寺社への寄附であるとの法律構成を採用している。この法律構成はおかしいと私は一研究者として考えているが、一教育者としては、学生がこの説明に納得するかどうか各自で考えることを期待する。更に余談を書くと、固定資産税等の文脈では既に宗教法人の宗教活動を優遇している側面があるので、おみくじ販売くらいでガタガタぬかすな、という意見もあるかもしれない。
7.講義ノート37頁。第一の方法として、貯蓄額を課税所得から控除し銀行預金等から取り崩した額を課税所得に算入した上で、累進税率で課税する、という方法がある。第二の方法として、貯蓄額の控除を認めない代わりに、利子受取時に金銭の時間的価値(time value of money)相当分を課税所得から控除した上で、累進税率で課税する、という方法がある。
8.講義ノート45頁。負債利子の損金算入を認めないとし配当に扱いを揃えるか、支払い配当の損金算入を認め負債利子に扱いを揃えるか。前者であると、法人・株主の二重課税が発生し、法人形態と組合形態との非中立性が現状よりさらに重大な問題となる可能性がある。後者であると、法人段階で殆ど課税がなくなり、税収が減る恐れがある一方、経済活動の阻害要因を減らす可能性もある。
9.講義ノート52頁。
10.講義ノート54頁。日本で認められない形態の結婚を外国法に基づいてしたカップルについて、日本法下の婚姻と同様の配偶者控除を認めるべきかどうかについては、専門家の間でも意見が一致していない。結婚は結婚なのだから配偶者控除を認めよ、という意見もありえようし、租税法令の結婚は日本法下の男女間の結婚を想定したものだから男同士のカップルの結婚は租税法令が予定していないので配偶者控除も認められない、という意見もありえよう。早いとこ日本でも同性婚ができるようになればいいのにね。(しかし、そう考えていくと、例えば重婚についても配偶者控除を認めるのかとか、2対2の結婚は認められるのかとかいった問題も出てくるので、結構厄介な問題ではあります。)

【講評】
1.判決理由と傍論との違いを論じていて5点(判決理由との比較が不十分な場合は減点1)。傍論を書くことの利点または欠点を論じていて5点。出題時は違憲判断に関する傍論に限定していない出題のつもりだったのですが、傍論で合憲・違憲判断を書くことの是非を論じている答案が多かった(そのこと自体は悪くないので減点とかということにはならないのですが)ので、出題時に気を配るべきでした。
2.一枠を各都道府県に割り当ててから、残りを人口比例、ということが分かっていれば5点(単に規定を書き写しているだけの答案もあって残念ですが、そのことだけでは減点していません)、「衆議院小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数」だけなら0点。過疎地域への配慮を論じても加点なし。激変緩和措置であるから時間の経過により廃止されたという時の経過に着目した説明をしていれば5点。投票価値の平等に反するとか違憲判決が出たからとか、時の経過に着目した説明ができていない場合は減点1。案外、激変緩和措置と時の経過との関係について論じられておりませんで、残念です。また、時間的限界とだけ書いていて説明不十分の場合も減点1。
3.外国人が取引から排除されることを論じていて10点(未成年者についての議論を思い出してほしいところです。いくつかの答案が書けていました)。外国人が日本語に不自由であるとは限らないなどしか論じてない場合は5点(このタイプの答案も幾つかありました。未成年者の扱いとの類似性が思い浮かばないのでしょう)。
4.刑事責任について傷害罪などの可能性(傷害罪に当たらないという結論でも可。暴行罪でも可)を論じていて5点。規定がないから処罰されない、は0点(この答案が思ったより多くて残念です)。民事責任について、受忍限度を意識して損害賠償請求の可否を論じていたら(結論はどちらでも可)5点。受忍限度の議論なしに損害賠償請求の可否の結論だけ述べているものは0点。賠償の対象となる損害の範囲について説得的に論じていたら(司法試験落第まで含むか否かなど)更に5点。「楽器演奏の可否について規定はなかった」から「乙が確認すべきだった」という答案もあるのですが、どうして「甲が確認すべきだった」という対称的な考え方の可能性に思いが至らないのでしょうか。両当事者の言い分を思い浮かべることを講義では強調したつもりでしたが、両当事者に配慮することが如何に難しいかを知りました。
5.予防と応報、とだけ書いているものは0点。予防と過失器物損壊罪処罰との関係を論じていて5点(刑罰を科しても過失犯の予防に【ならない】と言い切っているものは減点1。刑事罰が科されると予告されていたならば過失器物損壊に関しても物を壊さないようにしようと注意する人が増える筈です。)。応報と過失器物損壊処罰との関係を論じていて5点。応報との関係について、民事で損害賠償の対象となるから刑事罰を科すほどの応報の要請はない、という筋の答案の扱いに悩みましたが、そういう議論はあり得ないではないので通常通り5点加点としました。過失器物損壊は現行法で処罰対象となっていない、という現行法の説明に終わり、「立法論的当否について」という問題文を無視している人が多く、残念です。
6.宗教性を理由として優遇してはならないことを論じていて5点、おみくじの収益事業該当性(結論はどちらでも可。寄附だから収益事業でない、など)を論じていて5点。宗教に言及していなくとも他の企業との競争中立性を理由にして収益事業該当性を論じている場合も10点。
7.現状の所得税の課税対象から貯蓄または利子を除き累進税率を適用することを論じていて10点。消費額を積み上げる、しか書いてない場合、納税者が消費額を過少申告する場合への対策がないため機能しないから、5点(消費額を積み上げる、という筋の答案でも、捕捉の困難性に言及している場合は、10点)。間接消費税の延長で論じているものは0点(このタイプの答案がかなりあったのは残念です。時間と貯蓄・利子との関係について時間をかけて説明したつもりでしたが、やっぱり理解するのは難しいのでしょう)。
8.配当は控除されない、利子は控除される、という前提を踏まえていて5点。どちらかに揃えることについて数値例付きで説明していて5点。殆ど解答できていませんでした。学生のうちは、会社の資金調達関係についてイメージしにくいのだろうとは思いますが。
9.ヘッドフォンに関しては日本の付加価値税率で課税されることを数値例付きで論じていて5点、ダウンロードに関して日本の付加価値税が課せられないことを論じていて5点。前者に関し数値例を付けていて、後者に数値例を付けていない答案が複数あって、後者に関し数値例がないことを減点対象にするか迷いましたが、結局減点対象にしないことにしました。ヘッドフォンに関し事業者が課税されるという明らかに誤った説明については減点1。ヘッドフォンに関し輸入者が日本で納税することを論じていて5点加点。
10.租税回避だから認めないというだけでは0点。日本は法治国家なので課税するには法律上の根拠が必要です。外国で同性婚が認められていても日本でいうところの法律上の結婚には当たらない、という筋で納税者の主張を潰すことを論じている場合は10点(日本で法律婚をしたわけではないから、という論述は0点。些細な違いに見えるかもしれませんが、日本で法律婚をしたわけではない、と、日本の法律婚に当たらない、とは、大きく異なります。外国で異性間で法律婚をした場合<重婚だとどうなるか微妙ですが日本と同様の一対一の異性間婚姻の場合>、日本でも法律婚に当たるとされ配偶者控除が適用されます。)。外国でとはいえ法律上の結婚をしている以上、日本でも相続税法19条の2の適用を認めないわけにはいかない、という筋で納税者を勝たせることを論じている場合は10点。
 全体的な講評
 従来、4年次生の出来が悪い傾向が見受けられたのですが、今回の4年次生は概ね良い出来でした。卒業がかかっていて踏ん張ったということでしょうか。授業の理解が覚束なかった4年次生は受験しなかっただけかもしれませんけれども。対して、2〜3年次生の出来が悪いです。CとDは全て2〜3年次生です。授業が理解できなくても駄目元で受験した人が多いのでしょうか。なお1年次生は概ね良好でしたので、2〜3年次生で単位を落とした人は、1年次生に劣るということを自覚し、「問題が難しすぎる」等の不満を私に向けないで下さい。標準偏差が大きいためSA比率もD比率も高くなっています。
 講義が一限に配置されているため、例年は冬の朝の出席率が悪くなる(酷い年は、一人だけを相手に講義をするとか、もっと酷い時は、最初に来た学生の到着時刻が9:30頃とか)傾向があるのですが、今年度は冬の朝でもさほど出席率が落ち込まず、真面目な学生が多いなと感じていました。試験の出来が良い1・4年次生が講義に真面目に出席していた人なのかは、確かめようがありませんけれども、他学部の人が講義を聴かずに法学の試験で良い点をとるのは難しいだろうと思います(ただし私は出席率と無関係に筆記試験一発勝負で成績をつけるべきと思っていますし、この講義は筆記試験だけで成績が決まります)。
 平均33.6点、最高64点、最低4点、標準偏差17.7。 S10%、A30%、B20%、C15%、D25%


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