2022年度租税法2(EX412)




期末試験解説 2023年1月30日(月)1時限実施

 配点は時間配分の目安であり、問題に関し租税法学上意味のある記述には配点を超える加点の可能性がある。抜粋されてない条文も関係するが抜粋されてない条文を掲げないことは減点事由としない。計算結果が違っても計算過程の加点の可能性がある。原則として日本の現行法令に依拠するが、震災復興増税・地方税法は無いものとし、地方消費税は無く、国税としての付加価値税の税率が10%であるとし、法人住民税や事業税は無く、国税としての法人税率は30%であるとし、年単位の計算とする(月日の考慮は不要とする)。本問の全ての法人の事業年度は暦年である。日本とX国との間でOECDモデル租税条約と同内容の租税条約(23条は23B条の外国税額控除方式)が締結されている。X国の租税法令及び通貨は日本と同様であり為替換算を考える必要はない。
 日本法人・咲良社(以下「S社」。消費税法上の課税事業者である)は焼きそばパン(以下「Y」)を製造し卸売りしている。S社はX国に販路を広げるべく、完全子会社としてX国法人・鞍部社(以下「K社」)を設立した。S社はYを製造しK社に税抜価格2000(税込価格は回答者が考えよ。以下同様)で卸売りし、K社がX国の消費者にYを税抜価格3000で販売している。S社はYを製造するために原料を日本法人・冬坂社(以下「F社」)から税抜価格1000で仕入れ、Yを製造する機会を日本法人・網口社(以下「A社」)から税抜価格5000で仕入れ、Yを製造するために従業員である日本居住者・比治山(以下「H」)を4000で雇っている。S社はK社に1000の出資をし、9000の金銭貸付をし、K社は毎年15%(すなわち1350)の利子を返済する義務(元本返済期限は本問より後であるとする)をS社との契約上負っている。
 (1)(25点)S社とK社・F社・A社・Hとの間の支払に関するS社における消費税法上の扱いを説明せよ。
 (2)(15点)K社の15%の利子率が不当に高いとX国課税庁は主張し、独立企業間価格として適切な利子率は10%であると主張した。課税庁の主張は適当であるとする。K社(S社からのYの輸入・販売以外の事業もしているとする)の利子控除前の利益を2000とするとき、K社が申告した法人税法上の所得額と、移転価格税制適用後((3)の考慮の前)のK社の法人税法上の所得額を、算出せよ。
 (3)(10点)(2)の考慮に加え、過少資本税制が適用された後のK社の法人税法上の所得額を、算出せよ。
 (4)(20点)K社は1350の利子と200の配当をS社に支払った。この利子・配当の支払に係るX国の源泉徴収税額を、算出せよ。次に、S社の受領利子・配当に係る法人税法上の日本への申告税額を、算出せよ。なお(2)(3)の考慮は不要である。
 (5)(30点)数年後、K社の事業は失敗し、S社からの借入について利子は支払っていたが元本の返済の目途が立たなくなった。S社はK社への貸付金債権について債権放棄をした。この債権放棄に係る貸倒損失の損金計上の可否に関する判例の基準を説明せよ。次に、判例の貸倒損失の損金計上要件を満たしていない場合のS社の法人税法上の課税所得の計算について説明せよ。
[条文抜粋は割愛]

【解説】(抜粋してない条文も出てくるが、抜粋してない条文を答案で摘示していないことは減点事由としない)
 (1)教科書231頁以下参照。S社はF社に税込価格1100を支払い、100の仕入税額控除権が発生する。S社はA社に税込価格5500を支払い、500の仕入税額控除権が発生する。S社がHに支払う賃金4000について付加価値税は課せられないので税込価格という概念はなく、S社に仕入税額控除権が発生しない。S社は税抜価格2000のままでK社に輸出し、輸出取引についてS社は付加価値税が課せられず(消費税法7条:輸出免税)、F社・A社との取引に係る600の仕入税額控除を主張し、仕入税額控除額がS社の他の取引に係る付加価値税納税義務額を超えている場合は超過部分について還付を受けることができる。
 (2)教科書327頁以下参照。K社は2000−1350=650の所得額を申告していた。移転価格税制(租税特別措置法66条の4第1項)適用後、1350のうち450の部分の支払利子が否認されるので、K社の所得額は2000−(1350−450)=1100となる。
 (3)教科書366頁以下参照。過小資本税制(租税特別措置法66条の5第1項)によりK社のS社からの負債9000に係る900(=1350−450:(3)適用後)の支払利子のうち資本1000の3倍である3000を超える負債に対応する支払利子の控除が否認されるので、900×(6000/9000)=600の支払利子の控除が否認され、K社の所得額は2000−(900−600)=1700となる。
 (4)教科書311頁、324頁参照。K社の1350の支払利子に関し租税条約11条2項により10%までX国は源泉徴収税を課すことができるので1350×10%=135の源泉徴収税をK社がX国に納付する。S社は1350の受領利子に関し1350×30%=405(外国税額控除適用前)の法人税を日本に納める義務が生じ、外国税額控除(法人税法69条)を適用して405−135=270の法人税を日本に納める。K社の200の支払配当に関し租税条約10条2項(a)により5%までX国は源泉徴収税を課すことができるので200×5%=10の源泉徴収税をK社がX国に納付する。S社は200の受領配当に関し外国子会社受取配当益金不算入制度(法人税法23条の2)を適用して95%が益金不算入となるので、200×5%=10が益金に算入され10×30%=3の法人税をK社が日本に納める義務が生じ、外国子会社受取配当について外国税額控除は適用されない。
 (5)教科書194頁参照。債権放棄に係る貸倒損失の損金計上の可否に関するリーディング・ケースは興銀事件・最判平成16年12月24日民集58巻9号2637頁であり、その損金計上の基準は、問題となる金銭債権の「全額が回収不能」であること及び全額回収不能であることが「客観的に明らか」であることという二つの基準である。このように厳しい要件が課せられるのは、法人税法33条で評価損の計上が制限されていることとのバランスの考慮があった。この二つの基準は興銀事件が初めてではないが、興銀事件特有の判示事項として、「全額が回収不能」「客観的に明らか」の判定に際し、社会通念に従って総合的に判断される、と判示したことが特記に値する。そして、その総合的判断の考慮事由として、債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれき等の経営的損失も挙げられている。
 K社は利子を支払っていたが元本を返済していなかったのでS社の債権放棄額は元本額の9000であろう。S社に他に充分な所得があれば9000の債権放棄により9000の貸倒損失を法人税法22条3項3号の「損失」として損金に計上するつもりであったが、損金計上要件を満たしていない場合、S社の目論見より課税所得額が9000増えて税額が2700増えてしまう。


【講評】
 (1)平均6.56点。何とか輸出免税だけは分かっているようでした。F社、A社、Hへの支払については無視した答案が多かったです。
 (2)平均4.63点。できているけど「K社が申告した法人税法上の所得額」を無視した答案が幾つかあったのは残念です。
 (3)平均0.88点。難しいようです。
 (4)平均5.5点。源泉徴収税までは何とか書けたけど、外国税額控除と外国子会社受取配当益金不算入との区別は難しかったようです。
 (5)平均8.5点。期待通り興銀事件の判旨を再現できていました。
 
 全体平均26.06点、標準偏差20.18点。上下に大きくばらけました。無勉で解答できる訳がないということは租税法1で分かると思うのですが。十三機兵防衛圏、余力がある人はプレイしてみてください。

 

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