原子核はすべて球形だろうか。 もし、球でないとすればそれはどのようにしてわかるのだろうか。

集団運動模型

原子核の励起状態のエネルギーやスピン・パリティの多くは殻模型によって理解する ことができた。 ところが、偶偶核(陽子数も中性子数も偶数の核、基底状態は0+である)の 第1励起状態を調べると多くの核で1 MeVあたりの2+となっているが、 殻模型でこれを説明しようとすると0+と組んだペアを壊さなければ ならず、それには2 MeV程度励起に必要なためエネルギーが説明できない。 このような2+は幅広い質量領域でみられ、単一粒子の励起を考える殻模型に よる説明は難しい。そこで、これを核内の核子全体が集団で同じように運動すると 考える集団運動の模型が考えられた。 核が全体として回転するような運動である。量子力学では球形の物体が回転しても 状態は変化しないため、このような運動は球形から変形した物体の回転を意味する。 実際、原子核の電荷分布の四重極モーメントを測定してみると、 陽子や中性子数が55〜81、91〜123の領域で大きな四重極モーメントが観測されており、 その領域では原子核は変形していることを示している。
回転による励起エネルギーは J(J+1)[h-bar]2/2I と書ける。 J は角運動量、I は核の慣性モーメントである。

偶偶核の場合、基底状態は0+であるが、核のハミルトニアンの対称性から回転励起の 状態はJπ=2+,4+,6+,8+,.. が許される。回転核では、これらの量子数をもつ状態の励起エネルギーでほば 3:10:21:36のようになっており、これから、核の慣性モーメントを評価することが できる。その値は核を剛体球として計算した値より大きくなっている。
集団運動には振動運動に対応するものもある。

原子核の崩壊

放射能
原子核が安定に結合しているかどうかはその質量で決まる。 古典的に考えると核は安定か不安定のどちらかの筈である。 しかし、実際には「壊れていく」核が存在する。 これが約100年前に発見された放射能(放射性同位元素)である。 原子核が放射線を出して崩壊するというプロセスは量子力学に支配される確率的 な過程である。量子力学では、この状態は核が「壊れていない」状態と「壊れている」 状態の重ね合わせとして表わされる。観測をすれば「壊れている」か「壊れていない」 かのどちらかに決まるのだが、観測をするまではどちらかわからない、という奇妙な 状態である。(量子力学のこの奇妙さは「シュレディンガーの猫」の例えで有名。 この問題をどう理解するかは「観測問題」という難問である。) 核の崩壊過程は一定の確率法則で決まり、様々な物理量を測定することによって 核の性質を知ることができる。 従って、 放射能と放射線についての一般的な性質を知っておくことは有用である。
崩壊定数と寿命
核の崩壊の「起こりやすさ」はその系の性質を反映しており、 「崩壊定数」λで表わされる。 つまり、N個の放射性原子核があるとき (これをN Bqという。 昔の単位である1 Ciは3.7 × 1010 Bqである。) に、時間dtの間にその個数はdN=-λNdtだけ減少する。 このことから放射能は指数関数的な減少をすることがわかる。
N(t)=N0e-λt =N0 e -t/τ = N0(1/2)t/τ'
τ = 1/λを寿命という。これは放射能が1/eに減衰するのに必要な時間である。 又、τ' = τ ln 2 = 0.693τ を半減期という。 これは放射能の量が1/2に減衰する時間である。 寿命や半減期は放射線の数を時間の関数として測定することによって可能である。 しかし、実際には技術的な理由で短かすぎる寿命や長すぎる寿命は測定できない ことも多い。

崩壊をする状態は不確定性原理により状態にエネルギー幅Γが存在する。 Γは寿命とΓ=[h-bar] /τ の関係がある。

複数の壊れ方がある場合
1つの核(状態)に複数の崩壊様式が可能であることがある。 例えば、β崩壊とγ崩壊を起こしうるときには、それぞれの過程に対して崩壊定数 λβ、λγがあり、全崩壊定数 λTβγが定義できる。 寿命はτ=1/λTで決まる。 この場合はたとえβ線だけを測定している場合でも、 τ≠1/λβであり寿命の測定だけからはλβは決まらない。 注意が必要である。
このように複数の崩壊をするときにλβTのような量を βチャネルの分岐比という。
連続して崩壊する場合
崩壊が連続して起こることがある。例えば、β崩壊でできた励起状態が γ崩壊して基底状態に落ちるような場合や重い核の逐次的な崩壊(ウラン系列など) がある。 この場合には崩壊の微分方程式を連立させて解けばよい。 ややこしくはなるが、結果はいくつかの指数関数の和の形で書ける。 加速器を用いた核反応で不安定な核をつくるときも同様に取り扱える。 連続して崩壊するときの崩壊定数がかなり異なる場合には実質的には寿命が長いほうで 状況がきまってしまう。 β-γ崩壊の場合、γ崩壊の寿命は非常に短かいが、γ線はβ崩壊の寿命による 時間分布を示す。
核反応などで放射能を生成する場合
加速器を用いた実験では放射能を生成することができる。 生成する放射能の量はビーム量、ターゲット厚さ、反応断面積で決まるので、 一定とすることができる。単位時間あたりkの放射能が生成するとすると、 t=0ではN(0)=0としてN(t)=(k/λ) (1-e-λt)となる。 λが充分大きければ(つまり寿命が充分短かければ)生成する放射能は時間的に 一定になると考えてよい。 放射線の量はλN=k(1-e-λt) 〜 kとなる。
放射性同位元素による年代測定
親娘関係にある2つの核の量(比)がある時刻にわかっていたとすると、 放射線の崩壊の法則を用いて現在までの年代測定が可能である。 代表的な例としてRb/Sr法(数十億年の年代測定が可能)や14C法 (数千年の年代測定が可能)などがある。

宿題