ラグビー部

雄々しき濃紺の挑戦者たち
(後編)
ただひとつ



  第6戦 対筑波大(11月30日・秩父宮ラグビー場)
       ●5−38

 帝京大戦から1カ月後。秩父宮ラグビー場に帰ってきた本学は、帝京大戦から格段に進化していた。
 CTB安彦(あびこ=法3)を除く負傷者たちが復帰し、ほぼベストメンバーで挑んだこの試合。前半から本学の速く低いタックルが決まる。サイドへ展開されても数的優位を保ち相手の進路を阻めば、自陣ゴール前でのセットプレーでも決定機を作らせない。前半25分までのスコアは0−0。それまで力勝負でもスピード勝負でも負けていたDFが、この日は見事に冴えた。

 前半を0−12で折り返すも、後半16分、西田の巧みなキックから「練習してきたサインプレー。『オレの方に転がってこい』とボールに念じた」と振り返る高橋(淳)が飛び込みトライ。7点差に詰め寄った。
 終盤、筑波大の底力を見せつけられ4トライで突き放されたが、誰もが予想しなかった大健闘にスタンドは湧いた。
 今までとは全く違う意味を持つ敗戦。選手たちの表情からは勝利が見えた充実感と、一方で惜しい戦いを繰り広げながら勝つことができなかった悔しさが入り混じっていた。
写真=タックルを受けながらも前進するWTB堂内(どううち=観4)

 青学大との、6敗同士の直接対決は6日後。ともに入れ替え戦出場が決定し、勝者がBグループ2位の上智大と、敗者が同1位の成蹊大と顔を合わせることになる。
 Aグループでの一勝ということだけでなく、入れ替え戦を優位に戦う上でも重要な意味を持つ最終戦へ、大きな弾みとなる内容だった。


 第7戦 対青学大(12月6日・江戸川区陸上競技場)
       ●5−46

 青学大は、Aグループでは最も本学と力の差が小さいと言われていた相手だ。事実、これまで対戦したどのチームよりも、FW戦の力強さや展開の速さという面では劣っているように見えた。

 だが、彼らには「試合運びのうまさ」と「Aグループで戦い続けてきた意地」があった。それこそが、本学との差だった。
 本学の速攻は、かなり警戒されていただろう。ボールを奪ってもすぐに数的優位をつくられる。逆に、思うようにいかずミスと反則を繰り返す本学に対し、青学大はそのミスにつけ込み加点していった。
写真=今やチームに欠かせない存在になった西田

 結局、拮抗(きっこう)した勝負にはできなかった。思わぬ惨敗に選手たちは無念の表情を隠しきれないまま、ピッチを後にした。




 しかし、まだ重要な一戦が残っている。成蹊大との入れ替え戦である。
 今季のBグループで全勝優勝した成蹊大は、昨年の本学のごとく、意気を上げて挑んでくるはずだ。

 だが、もう敗戦はいらない。

 青学大戦を3日前に控えた練習後、シューズの手入れをしながら飛田はこう言った。
 「勝つことが、このチームを成長させる一番の薬になる。きっとそれが、来年、再来年へと続く財産になっていく。それを信じてここまできた」

 Aグループに属すチームの主将が、後輩に押しつけるわけでもなく、冷たい風に吹かれて自ら丹念にシューズを磨いている――。その光景を目にしながら聞いた言葉は、不思議な説得力を持っていた。

 彼らは努力を重ねてきた。そう、勝つために。

 真夏の練習試合後、山道で走り込んだ選手たち。
 冬の夕日が沈みかけても、全力でボールを追いかけた選手たち。
 激しい衝突を繰り返す練習の中、大声で仲間を鼓舞した上級生。
 呼吸を荒げながら、必死の形相でサンドバックめがけてタックルを仕掛ける下級生。
 全体練習が終わった後、ひたすらコンバーション・キックの練習を重ねるプレース・キッカー。
 出番が訪れる可能性は少なくとも、率先して筋力トレーニングに励む控え選手…。

 私が見たものは努力のひとかけらにすぎないだろう。
 だが、ただひとつ「勝利」を求めて奮闘してきた彼らの姿が、昨年以上のひたむきさと雄々しさを帯びていたということ、それだけは断言できる。


 泣いても笑っても、入れ替え戦がこの1年間の総決算になる。選手たちは、その80分間にすべての力と思いをぶつけるだろう。
 ここで、前編の冒頭に書いた言葉を思い出してほしい。

 「大勢のお客さんの前でプレーしたかった」

 たしかに、入れ替え戦の会場となる熊谷ラグビー場は都心から近くはない。秩父宮ラグビー場が舞台となった昨年の入れ替え戦より、本学の応援も成蹊大の応援も少人数になってしまうだろう。

 だからこそ、この記事を読んで下さっている方には、熊谷で、選手たちへ声援を送ってほしい。
 その声が、彼らの勇気になるかもしれない。
 その勇気が、選手の足を一歩でも前に進ませるかもしれない。
 その一歩が、勝利を導く大きな一歩になるかもしれない。
 その勝利が、本学ラグビー部の将来へ繋がる大きな一勝になるかもしれない。

 スタンドから、彼らに声を届けてほしい。力になってほしい。


 「We have big challenging spirit.」
 これが、本学ラグビー部が掲げるテーマである。

 濃紺の戦士たちは常に挑戦者だった。そして、彼らが繰り広げてきた今季の挑戦は、ついに最終章に入る。
 その結末には、何よりも彼らの歓喜がふさわしい。
                                                      
(2003年12月11日・小見)



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