2007年度租税法(EX410)


講義ノート最後まで(word/zip)

 配布資料は、「学生がノートを書く負担を減らして、話を聞くことに集中できるようにしているが、レジュメを見ただけでは理解しにくく、講義を耳で聞いて理解が深まる」というレベルを目指して作成しています。私自身の学生時代の経験から、耳で講義を聞いていた方が懸命に教科書を読んだだけというよりも理解が深まっている、と感じています。
 黄色のマーカー部分は訂正箇所です。
 青色マーカー部分は講義でとばした箇所であり、期末試験の対象外となります。

期末試験 解説
以下の各問いに答えよ。解答の順序は問わないが、解答に際してはどの問いについてのものであるか明示せよ。なお、租税法上の数値の間違いなどは減点対象としない。ただし、数値例を自作して説明する場合に、その数値例やその後の説明に矛盾があれば、それは減点対象となる。例えば、法によれば税率が30%であるはずなのに、解答において40%であるという前提を示して解答しても、それ自体では減点対象とならない。しかし、40%で課税されるという数値例を自作して説明していながら、その後の説明が50%の税率を前提としているような場合には、減点対象となる。

第一問(20点)
 課税のない世界で、Aさんが砂糖を作り、BさんがAさんから砂糖を4000円で購入して菓子を作り、消費者であるCさんがBさんから10000円で菓子を購入していたとする。
 しかし、肥満予防のために、砂糖生産者に対して砂糖の販売価格の50%の税率で個別消費税(「砂糖税」という名称であるとする)を課し、更にあらゆる商品の取引に対して5%の付加価値税を課すことになったとする。税の負担が全て消費者に転嫁されるとする。A・B・C間の取引価格はどのように変化するか、説明せよ。また、砂糖税及び付加価値税を誰が幾ら国に納めることになるか、説明せよ。

【解説】 講義ノート5.4.6.参照。4000円の砂糖に対し50%の税がかかるので2000円の砂糖税額が上乗せされ、更に5%の付加価値税が課されるのでA・B間の取引価格は6300円となる。Aは2000円の砂糖税と300円の付加価値税を納める。砂糖税だけがかかり付加価値税がかからないとすると、Bは6000円で仕入れ、12000円で売ることとなるが、付加価値税がかかっていると、仕入額は6300円に、B・C間の取引価格は12600円になる。Bは600円の付加価値税納税義務を負うが、300円の仕入税額控除権も発生するので、結局300円の付加価値税を納める。

【講評】 4000×1.5+4000×0.05とした答案は少なかったのでほっとした。
 12600円でなく12915円とした答案が多かった。この点は難しかったのかもしれないが、付加価値の意味が分かっていないということでもあるので、少し残念。
 砂糖税・付加価値税を誰が納めるか分かってない答案が思ったより多かったのは、かなり残念。

第二問(10点)
 租税回避と脱税との違いを説明せよ。

【解説】 講義ノート1.13.2参照。租税回避とは、通常とは異なる法形式を採用することにより課税要件の充足を免れることにより租税負担を減らそうとすることであり、否認規定がない限り原則として否認されず、合法である。脱税とは、課税要件を充足している事実を隠して租税負担を減らそうとすることであり、違法である。課税要件の充足が有るか無いかという点、及び合法か違法かという点が重要。

【講評】 合法か違法かということは理解できているようなのでなるべく点数をつけるようにしたが、課税要件の充足が有るか無いかの違いに言及するのは難しかったようだ。

第三問(20点)
 貸倒損失の税務上の扱いについての、日本の判例の考え方を説明せよ。

【解説】 講義ノート2.4.3.参照。金銭債権の貸倒損失が損失として認められるためには、金銭債権の全額が回収不能であることが必要であり、かつ、全額が回収不能であることが客観的に明らかでなければならない。回収不能が明らかであるか否かは、債務者側の事情、債権者側の事情及び経済環境等を踏まえつつ、社会通念に従って総合的に判断される。金銭債権の一部のみが回収不能である場合に損失として認められないことは、資産の評価損を計上することが原則として認められないこととのバランスをとるためである。債権放棄をしただけで直ちに損失が認定されるとは限らず、また、債務者が債務超過であるからといって直ちに全額が回収不能であると認定されるとも限らない。なお、債権放棄があると、債務者側は債務免除益を益金に計上しなければならないが、通常、債権放棄を受けるような債務者はそれまでに欠損を抱えていることが多いので、その欠損と債務免除益とを相殺できる場合が殆どである。

【講評】 全額回収不能、およびそれが客観的に明らかであること、という二つの要件は比較的良く書けていた。なぜその要件が導かれたかについて更に答案に書いていくことでどんどん加点していく予定であったが、答案によって密度にかなりの差があった。

第四問(各10×5点)
 Dさんは長らくR大学に勤務してきたが、最近退職し、貯蓄を元に長年の夢であった喫茶店を妻のEさんとともにR大学の近くに開店することにした。Dさんはケーキ作りに自信があり、またEさんはコーヒーに詳しかった。また、二人の娘であるFさん・GさんはともにR大学の学生であるが、快く両親の喫茶店運営に協力し、時間のあるときに給仕として手伝いをしていた。R大学で評判の美人姉妹であったFさん・Gさんが給仕をしているということで多くの顧客を獲得し、また、ケーキとコーヒーが美味しい喫茶店としての評判もほどなく確立して、喫茶店経営は順調に軌道に乗った。
 ところが、Fさんに交際を申し込んで断られたHさんが、逆恨みで「あの喫茶店は[「の」の誤記]ケーキとコーヒーは、賞味期限が切れたものを使いまわしている」という虚偽の噂を流布させた。これにより、喫茶店の客足が一週間ほど鈍り、それまでの通常の週と比べその一週間の売上が約20万円落ち込んだ。しかし、それがHさんの仕業であると明らかになると、元々人望のなかったHさんの話を信ずるものはなく、あっというまに喫茶店の客足は元に戻った。また、Hさんも深く反省し、20万円の損害賠償をDさんに支払った。
 Eさんはコーヒーに詳しかったが、紅茶類はいまひとつであった。しかし、Eさんの級友であるIさんが見かねてEさんに美味しい紅茶の淹れ方についてアドバイスをし、以後、喫茶店の売り上げは更に増えた。紅茶好きの間でカリスマ的存在であるIさんのアドバイスを受けるには、通常10万円を支払わねばならないので、EさんもIさんに10万円を指導料として支払おうと申し出たが、IさんはEさんと友達だからということでその10万円の受け取りを固く断った。
 以下の各問いに答えなさい。
(1) DさんがHさんから受け取った20万円の損害賠償金について税務上どのように扱われるか、説明せよ。
(2) EさんがIさんに10万円の指導料を支払っていた場合と支払わなかった場合との税務上の違いについて説明せよ。
(3) Dさん・Eさんは二人の共同事業であるとして申告しようとしたが、最初、税務署は、Dさん一人の事業なのではないかと疑問を投げかけた。それでもDさん・Eさんは二人の共同事業であると主張した。単独事業ではなく二人の共同事業であると主張することによって税務上どのような利点があると推測できるか、説明せよ。
(4) 翌年、Dさんは、喫茶店経営のための法人を設立しようかな、と検討し始めた。しかし、R大学で租税法を受講しているGさんは、法人形態で事業を行なうと二重課税が起きると言っている。どういうことか、説明せよ。
(5) 一年前に租税法の講義を受講したFさんは、上記二重課税の恐れがあるにもかかわらず、法人形態で事業を行なう方が有利なこともある、と言っている。どういうことか、説明せよ。

【解説】 (1) 講義ノート2.3.6.参照。所得税法9条1項16号は「損害保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの」だけが非課税となると定めており、本問のように事業収入の代わりとなる損害賠償金については非課税としていない。20万円はDさん・Eさんの通常通りの事業所得に係る収入金額に算入される。損害賠償金を支払ったHさんがその金額を必要経費に算入することはできない。
(2) Eさんが支払っていればDさん・Eさんの事業所得に係る必要経費に算入され、支払わなければ必要経費に算入されない。EさんがIさんから10万円相当の贈与を受けたと考える必要はなく、Dさん・Eさんの必要経費額が少なくなることで結果的にDさん・Eさんの課税所得は増えている。Iさん側の所得計算としては、10万円の指導料が支払われた場合にはIさんの事業所得または雑所得に係る収入金額に算入され、支払われなかった場合には収入金額が立たない。Iさんは法人ではないと考えられるので、無償の役務提供に係る益金を計上する必要はない。
(3) 講義ノート2.5.1.〜2.5.3.参照。累進税制の下では共同事業として所得を二人で分割した方が一人の所得とするよりも適用税率が下がり、二人合計の税負担が減る。
(4) 講義ノート3.1.1.参照。法人の所得計算において配当を控除することができないので、法人の段階で所得課税としての法人税が課せられ、株主が受け取った配当にも所得税が課せられるので、二重課税となる。個人株主が受け取る配当所得に関して配当税額控除が規定されているが、二重課税が完全に除去される訳ではない。
(5) 講義ノート3.1.1.参照。個人所得課税においては課税当局が共同事業という認定を嫌う傾向があるが、法人から従業員への給与支払という形式をとれば合法的にそして比較的容易に所得分割を図ることができる。また、事業所得ではなく給与所得という性質にすることにより、比較的甘い給与所得控除を利用することで課税所得を減らすことができる。(講義ではこれらの他に、課税繰延の便益も説明したが、個人所得税率と法人税率とがあまり変わらない現状では課税繰延の恩恵を受けるために法人形態を利用することはあまりないと考えられる)

【講評】
(1) 損害賠償だから課税対象に含まれないという誤解が多かった。心身に加えられた損害の賠償と、営業上の利益のかわりとの区別が、ついていないようだ。
(2) Dさん・Eさん両方の扱いについて述べた答案もあったが、少なかった。
(3) 所得分割と累進税率との関係についてまだよく分かっていないようだ。
(4) 法人税と給与に係る所得税との二重課税となる、という趣旨の答案が大変多かったのが残念。法人の給与支払が損金になるので法人税の課税対象から外れる、ということが分からないので、当然(5)の問にもうまく答えられなくなる。
(5) (4)の誤解を引きずってうまく解答できていない答案が多かった。


S 2人 4%
A 8人 16%
B 9人 18%
C 20人 41%
D 10人 20%
計 49人

 例年通り、飛びぬけてできのよい答案が数通あります。S評価の二人は素点(ボーナス点の加点込み)で105点と103点です。この二人とA評価の8人との間には大きな隔たりがあります。
 「就職がかかっています」「体育会○○部です」といった余事記載が数通ありました。私はこうした余事記載について加点要素にも減点要素にもしないようにしているつもりですが、先生によっては減点要素にするとおっしゃる先生もいるようですし、また、減点要素にしない方針の先生であっても、こうした余事記載があると「この人は、答案の出来が良くないことを自覚しているのだな。安心して×をつけることができる」という心理的な影響が働く場合もありえます。

平均点
第一問   7.35
第二問   9.82
第三問   7.80
第五問(1) 3.16
第五問(2) 6.41
第五問(3) 4.18
第五問(4) 3.22
第五問(5) 2.76
合計平均 44.7


シラバスから転載

EX410 租税法 後期 4単位
浅妻 章如(アサツマ アキユキ)

■授業の目標
 租税法の仕組みの概要を知る。特に,所得の操作ということについて,イメージできるようになる。法律と政策論との関わりを理解する。

■授業の内容
 租税法を勉強する意義は,大きく言ってふたつあります。実学の側面と公平の側面です。第一に,民法・商法等で幾つかの法形式を教わったことと思いますが,その法形式の選択次第では税負担が重くなったり軽くなったりすることがあります。納税者の立場からは,どのようにすれば余計な税負担を負わないようにすることができるかを,課税する方の立場からは納税者が租税を免れようとする時に何を考えているのかを,学ぶ必要があります。この実学の側面は,主に解釈・運用の場面に関わります。
 第二に,税負担の配分は,どのようにするのが公平に適うかという哲学的な問いをも,租税法は含んでいます。何が公平かについて生の価値判断を述べることは法律家のよくするところではありませんが,公平について議論する際の考慮事項は,今後皆さんが主権者として政策決定に関わる際に知っておくべき事柄です。公平の側面は,主に立法論・政策論に関わります。

■授業計画
 教科書には所得税・法人税・相続税しかありませんが,その他に消費税も取り上げます。地方税・個別消費税・流通税・関税等については,時間に余裕があれば言及します(が余裕のある時はあまりありません)。また,国際租税法についても若干扱います。教科書に指定したものは,必ずしも教科書として書かれた物ではありませんので,必要に応じて講義ノートを配布して補います(教科書にない消費税・国際租税法については講義ノートが中心となります)。昨年の講義ノートはhttp://www.rikkyo.ne.jp/~asatsuma/06sozeihou.htmlからダウンロードできます。
 法人税の回数が少なく見えますが,所得計算に関わる部分は所得税の中であわせて論じますので,その分所得税が多く,法人税が少なく見えるだけです。
 概ね,以下のスケジュールを予定しています。
1.租税法序論(3回)
2.所得税(11回)
3.法人税(3回)
4.相続税・贈与税(2回)
5.消費税(2回)
6.国際租税法(4回)

■成績評価方法・基準
 筆記試験
■テキスト
 金子宏他『ケースブック租税法』(弘文堂)[現在第2版が出ています]

■参考文献
 金子宏『租税法』(弘文堂)[現在第12版が出ています]
 他,講義ノートを配付します。

■その他(HP等)
 民法の法人論及び会社法を受講済み,もしくは並行して受講していることが望ましいです。


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