2011年度国際租税法 於上智大学


講義ノート51頁(完)(docx/zipで圧縮)

 配布資料は、「学生がノートを書く負担を減らして、話を聞くことに集中できるようにしているが、レジュメを見ただけでは理解しにくく、講義を耳で聞いて理解が深まる」というレベルを目指して作成しています。私自身の学生時代の経験から、耳で講義を聞いていた方が懸命に教科書を読んだだけというよりも理解が深まっている、と感じています。
 黄色のマーカー部分は訂正箇所です。
 青色マーカー部分は講義でとばした箇所であり、期末試験の対象外となります。


上智大学LAW63000国際租税法 浅妻章如 2011.7.15
解答の順序は任意だが、解答に際して問題番号を分かりやすく示しなさい。第二問〜第六問は所得税・法人税に関する問題である。配点は時間配分の目安としてほしい。租税法学にとって意味のある記述であれば配点を超える加点も考える。

第一問(15点) A国の付加価値税の課税最低限(日本の消費税法9条の規定する1000万円に相当)未満の売上しかないB社が、C国(付加価値税が存在する)所在のDに対し物品Eを販売した。「B社は付加価値税を納める必要がないから、物品Eの販売に関し付加価値税は一切課されない」との議論の当否について、論述せよ。

【解説】講義ノート11.1.参照 B社が課税事業者を選択していなければ確かにB社が納税する必要はないが、B社の仕入れにかかっていた付加価値税をB社が負担することになる。B社が課税事業者を選択すれば、輸出免税として仕入れ税額の還付を受けることができるので、名実ともに付加価値税の負担はA国においてなくなる。但しC国での輸入においてDが課税事業者であろうとなかろうと、輸入された物品に関する付加価値税を納税する義務がある。

第二問(15点) 「法人には参政権がないから法人税を増税すべきだ、そして個人所得税を減税すれば、我々自然人の負担は軽くなる」と主張する者がいるとする。
(1) 課税要件法定主義の観点から、この主張について論評せよ。
(2) 租税負担の転嫁の観点から、この主張について論評せよ。
(3) 租税競争の観点から、この主張について論評せよ。

【解説】(1)講義ノート2.1.7.参照 法人に参政権はないが、法人の背後にいる自然人が民主過程を通じて租税負担を決めるのであるから、法人税増税について課税要件法定主義の観点から問題は殆ど無い。(全く無い訳ではないのは、法人の背後にいる自然人が課税される法人の所在する国の参政権を有する者であるとは限らないためである)
(2)講義ノート2.3.1.参照 法人税の納税義務者が法人であっても、法人自体が租税負担の痛みを感じるわけではなく、必ず誰か自然人が租税負担を経済的に強いられるので、「自然人の負担は軽くなる」は誤りである。
(3)講義ノート10.4.参照 企業が国外流出する可能性を視野に入れながら、法人税に限らず租税負担を決めていかざるをえない。

第三問(10点) J国とK国は一点のみを除きOECDモデル租税条約(23条については23条B税額控除方式)と同じ内容の租税条約を締結している。その一点とは、「第11条1項 一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支払われる利子に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。」に相当する条項がないということである。J国法人L社がK国法人M社から受けた金銭貸付に関し、L社がM社に支払った利子について、K国の課税の可否及びその限度を説明せよ。

【解説】講義ノート7.2.参照 利子に対するK国の課税権につき租税条約に規定がないということは、K国の課税権が条約によって制限されていないということであるから、K国は課税することができるし、K国は自国の法律の許す限度で課税することができる。但し租税条約23条の税額控除を認めることは条約で義務づけられている。

第四問(20点) P国の税率が20%、Q国の税率が33%であり、P国への投資の税引前収益率が15%であり、Q国への投資の税引前収益率がr%であるとする。Q国居住の投資家SがP・Qどちらに投資するか迷っている。
(1) 国家中立性の観点から、rがどの範囲の値である時、SがP国に投資した方がよいか。
(2) 資本輸出中立性の観点から、rがどの範囲の値である時、SがP国に投資した方がよいか。

【解説】(1)講義ノート9.1.参照 Pへの投資のP国課税後の収益率は15×0.8=12(%)であるから、r<12%の時、SがP国に投資した方がよい。
(2)講義ノート9.2.参照 税引後収益率を無視して税引前収益率が高い方への投資を妨げないことが資本輸出中立性に適うのであるから、r<15%の時、SがP国に投資した方がよい。

第五問(20点) (1) 国際取引に関する移転価格により租税負担を減らす例を、数値を自作しつつ、説明せよ。
(2) 国内取引に関する移転価格により租税負担を減らす例を、数値を自作しつつ、説明せよ。

【解説】(1)講義ノート10.1.1.参照 税率30%のA国の法人B社が、税率20%のC国に拠点を構える関連法人D社に対し、商品を販売する際に、価格を100下げれば、両者のその他の所得が充分にある限り、C国での課税所得が100増える代わりにA国での課税所得が100減るため、B・D合計の租税負担は10減る。
(2)講義ノート10.1.3.参照 税率30%のE国の法人F社が同国の関連法人G社に対し、商品を販売する際に、価格を100下げると、G社の課税所得が100増えるが、その他にG社が100損失を抱えている一方でF社には元々欠損がなかったとすると、F・G合計の租税負担は30減る。

第六問(20点) 「所得は人の担税力の指標にすぎず、所得の場所の観念など論理的にありえないのだから、所得の源泉課税管轄権などというものは論理的に正当化しえない。課税は居住地国に独占させるべきである」と主張している者がいるとして、この者の主張通りにする場合の不都合を想像して説明せよ。

【解説】講義ノート3.2.参照 所得を稼ぐ能力のある個人や法人が、軽課税国に居住・本拠を移すと、源泉課税管轄権がなければ日本などは課税できる所得が極端に少なくなってしまうという不都合が想像される。また、外国企業が日本国内に子会社を設立した場合と支店を設立した場合とで、課税の可否が変わることとなるという不都合が想像される。

受験者が少ないので講評はやめます。

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