α崩壊

α崩壊とは
重い原子核ではα粒子を放出して崩壊する。これは核子あたりの結合エネルギーが 質量とともに減少するためであり、核分裂と同じ理由で崩壊できる。 では、何故陽子や中性子でなくα粒子なのだろうか。 また、α崩壊の寿命はナノ秒から宇宙の年齢くらいまで様々な値をとる。 どうしてそのような長い寿命があるのだろうか。 放出されるα粒子のエネルギーと寿命の間にはある関係が成り立っている。 それはどうしてだろうか。
これらの疑問に対しては量子力学によって理解することができる。
何故α粒子が放出されるのか。
α崩壊はクーロン反発力によって起こる。では何故陽子などの他の粒子でなく α粒子が放出されるのであろうか。 α粒子は結合エネルギーが大きく、質量公式からA>140の核ではαを放出するのが エネルギー的には得になるが、他の粒子ではエネルギー的に許されない。 実際、典型的なα崩壊核である232Uの場合に放出で解放されるエネルギー (結合エネルギーの符号を変えらもの)を計算してみると、次のようになる。 (表はKraneによる。)
放出粒子解放エネルギー(MeV)
n-7.26
1H-6.12
2H-10.70
3H-10.24
3He-9.92
4He5.41
5He-2.59
6He-6.19
7Li-1.94

このようにα粒子以外では「自発的な」崩壊は起らない。 8Be, 12Cなどではこのエネルギーは正になるが、 放出粒子の電荷が大きくなるとクーロン障壁が高くなるため、実際上の崩壊は 起きない。
α崩壊過程
α崩壊では終状態はα粒子と残留核の二体であるので、崩壊で解放された質量 エネルギーはその質量の逆比で配分される。したがって、α粒子がエネルギーの 大部分をもらうことになる。
α崩壊の系統性
α崩壊を系統的に測定すると、α粒子のエネルギーは核によって一定であるが、 そのエネルギーと寿命の間にはある関係があることがわかった。

これはGeiger-Nuttal則と呼ばれる。(実際にGeigerとNuttalが見い出したのは α粒子の飛程と崩壊定数の間の関係であるが。) 最近の研究では より直線性のよい関係も知られている。
トンネル効果
α粒子の崩壊で働いているのは核力(強い相互作用)であるのですぐに壊れそうで あるが、これが長い寿命をもつのはトンネル効果のためである。 この効果の計算は量子力学のポテンシャル障壁の透過の問題と同じでWKB法を用いて 行なう。 違いはポテンシャルがクーロン力のため1/rの形であり、核の内部を井戸型とする 点である。 これを計算すると、トンネルの透過確率は近似的に exp(-CZ/v)に比例することがわかった。 ここで、Zは残留核の電荷、vはα粒子の(遠方での)速度である。 核内にα粒子と残留核が存在して、α粒子がポテンシャルの内部でトンネルを何度も 叩いていると考えると、Geiger-Nuttal則が説明できる。 α粒子のエネルギーは実質的に5〜9MeVとなり、エネルギーが高いほどトンネルを 透過しやすいので寿命が短かくなる。 この過程はWKB法を用いるともう少し厳密な近似で計算できるが、結果はほぼ 同じである。
角運動量の効果
α崩壊の前後の状態のスピンが同じでない場合にはα粒子が角運動量を持ち出す 必要がある。このときにはα粒子の受ける有効ポテンシャルには遠心力の項も含まれる ので透過率は更に小さくなる。
透過率 (K.Heydeによる)
角運動量01234 56
透過率10.70.370.1370.037 7.1x10-31.1x10-3
天体核反応との関係
宇宙初期や超新星爆発などではプラズマの中で核反応が進行する。 その反応ではクーロン障壁を外から通過することになるので、粒子のエネルギー (これはプラズマの温度で決まる)により反応率が変化する。 この過程はα崩壊と同様の計算で評価でき、反応断面積σは
σ(E)=S/E exp(-b/√E) と書ける。 Sは通常Eのゆるやかな関数であり「 天体物理学的S因子」と呼ばれる。 (S因子は原子核物理では他でも使われる用語であるので区別している。) b=31 Z1 Z2 √μ である。 μは反応する粒子の換算質量、 Z1, Z2は電荷であり、 EはkeVを単位にとっている。