§232.01 雑所得貸倒分不当利得返還請求事件・最判昭和49年3月8日民集28巻2号186頁百選4版192頁加藤雅信百選6版100概説124 もともと、所得税は経済的な利得を対象とするものであるから、究極的には実現された収支によつてもたらされる所得について課税するのが基本原則であり、ただ、その課税に当たつて常に現実収入のときまで課税できないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を期しがたいので、徴税政策上の技術的見地から、収入すべき権利の確定したときをとらえて課税することとしたものであり、その意味において、権利確定主義なるものは、その権利について後に現実の支払があることを前提として、所得の帰属年度を決定するための基準であるにすぎない。換言すれば、権利確定主義のもとにおいて金銭債権の確定的発生の時期を基準として所得税を賦課徴収するのは、実質的には、いわば未必所得に対する租税の前納的性格を有するものであるから、その後において右の課税対象とされた債権が貸倒れによつて回収不能となるがごとき事態を生じた場合には、先の課税はその前提を失い、結果的に所得なきところに課税したものとして、当然にこれに対するなんらかの是正が要求されるものというべく、それは、所得税の賦課徴収につき権利確定主義をとることの反面としての要請であるといわなければならない。 もとより、いつたん適法、有効に成立した課税処分が、後発的な貸倒れにより、遡つて当然に違法、無効となるものではないが、その貸倒れによつて前記の意味の課税の前提が失われるに至つたにもかかわらず、なお、課税庁が右課税処分に基づいて徴収権を行使し、あるいは、既に徴収した税額をそのまま保有することができるものとすることは、所得税の本質に反するばかりでなく、事業所得を構成する債権の貸倒れの場合とその他の債権の貸倒れの場合との間にいわれなき救済措置の不均衡をもたらすものというべきであつて、法がかかる結果を是認しているものとはとうてい解されないのである。 そこで、以上の見地に立つて考察するに、所得税法は、具体的な租税債権及びその数額が法規の定める課税要件の充足と税額計算方法によつて自動的に確定するものとはしないで、課税所得及び税額の決定ないし是正を課税庁の認定判断にかからしめているのであるから、かような制度のもとでは、債権の後発的貸倒れの場合にも、貸倒れの存否及び数額についてまず課税庁が判断し、その債権確定時の属する年度における実所得が貸倒れにより回収不能となつた額だけ存在しなかつたものとして改めて課税所得及び税額を算定し、それに応じて先の課税処分の全部又は一部を取消したうえ、既に徴税後であればその部分の税額相当額を納税者に返還するという措置をとることが最も事理に即した是正の方法というべく(前記昭和三七年法律第四四号による改正後の所得税法一〇条の六、二七条の二参照)、課税庁としては、貸倒れの事実が判明した以上、かかる是正措置をとるべきことが法律上期待され、かつ、要請されているものといわなければならない。 しかしながら、旧所得税法には、課税庁が右のごとき是正措置をとらない場合に納税者にその是正措置を請求する権利を認めた規定がなかつたこと、また、所得税法が前記のように課税所得と税額の決定を課税庁の認定判断にかからしめた理由が専ら徴税の技術性や複雑性にあることにかんがみるときは、貸倒れの発生とその数額が格別の認定判断をまつまでもなく客観的に明白で、課税庁に前記の認定判断権を留保する合理的必要性が認められないような場合にまで、課税庁自身による前記の是正措置が講ぜられないかぎり納税者が先の課税処分に基づく租税の収納を甘受しなければならないとすることは、著しく不当であつて、正義公平の原則にもとるものというべきである。それゆえ、このような場合には、課税庁による是正措置がなくても、課税庁又は国は、納税者に対し、その貸倒れにかかる金額の限度においてもはや当該課税処分の効力を主張することができないものとなり、したがつて、右課税処分に基づいて租税を徴収しえないことはもちろん、既に徴収したものは、法律上の原因を欠く利得としてこれを納税者に返還すべきものと解するのが相当である。 これを本件についてみるに、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)によれば、被上告人は、大沢金備外二名を連帯債務者とする非事業上の金銭消費貸借につき、昭和二八年中に発生した利息損害金として合計四六万八一一八円の債権を有していたところ、所轄税務署長は、これを被上告人の同年分の雑所得と認定して、昭和三一年一一月二〇日原判示更正処分をし、次いで被上告人に対する滞納処分によつてその税額を徴収したが、その後右利息損害金債権が貸倒れにより回収不能となつたので、昭和三六年七月一九日被上告人は債務者らとの裁判上の和解により右債権全部を放棄した、というものであつて、右和解に至るまでの経緯について原判決の確定するところをも綜合勘案すれば、貸倒れの存在及びその数額は客観的に明白で、係争年度における課税所得及び税額の決定につき課税庁に前記の認定判断権を留保する合理的必要のない場合に当たるものと認めることができる。 予習――私人間の貸付による利子は雑所得となる。 事実 貸付金利子の回収が困難になった(貸倒)ので利息損害金債権放棄の和解をしたことにより、所得が減ったことになるか。結論として納税者勝訴。 (直接の争点は、一旦徴収された税が事後的に不当利得になるか。行政法学・民法学の見地から公定力・不当利得の問題に関連し、重要) 判旨 権利確定主義――「収入すべき金額による」 是正措置について……「課税庁による是正措置がな」い場合――「既に徴収したものは法律上の原因を欠く利得としてこれを納税者に返還すべき」 権利確定主義に期待されている機能 利息が未収でも履行期到来時に課税対象となるのは「収入実現の可能性が高度であると認められるから」→利息制限法違反部分については「可能性が高度」とはいえない。 「その課税にあたって常に現実収入のときまで課税できないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を期しがたいので、徴税政策上の技術的見地から、収入すべき権利の確定したときをとらえて課税することとした」→実際に収入が実現しなければ事後的調整が要請されるとし、不当利得容認。現在は所得税法64条・152条で後発的事情による更正の請求をすることができる。(現在は更正の請求については税通23条2項も参照) |
§234.02 ビニール畳表実用新案事件・広島地判昭和51年3月16日行集27巻3号314頁 労務経費を減価償却費計算における取得費に含めようとして否認された事例。 N&Q 2. (1)減価償却の制度趣旨。(2)制度趣旨と結論との関係。 N&Q 4.の特別償却に関し、505頁の減価償却の説明を参照。 |
§324.03NTTドコモ事件・最判平成20年9月16日民集62巻8号2089頁百選5版 エントランス回線利用権の数え方について、「1回線に係る権利一つをもって、一つの減価償却資産とみる」(→法税令133条10万円未満ならば少額減価償却資産として、資産計上を要さない、すなわち即時に損金算入可となる)。 2版§324.03 共和化学工業株式会社事件・最判昭和51年7月13日・月報22巻7号1954頁 百選4版100頁関俊彦 事実・判旨 A社の潰れかけた塗料製造業を新会社たるX社に営業譲渡した事案。営業権(のれん)の計上額・営業権譲受けのための借入金の利子費用・営業権の償却費が高すぎるとして否認された事例。 |
ケースブック1版§213.01末吉町均等割300円事件・最判昭和32年4月30日民集11巻4号666頁 均等割とは、地方公共団体が住民に頭割りで課す税のこと。(人頭税的な課税の一種) 事実 夫Hが田畑を有し日雇い人に指図をして農作業をさせており、妻(原告X)は日雇い人のお茶や食事の世話をする程度であったという事実関係(町による上告理由を見ると、本当に妻が些細なことしかしていなかったのか疑いも残るが、裁判所の認定事実としては、妻は農業に関わる大したことをしていない、というものである)において、町がXに町民税均等割(但し所得を有しなかった者には課税できないとされていた)を課そうとした。 判旨 認定事実によれば、Xは農業に従事して所得を得ていたとはいえない。 これは納税者側が所得分割を主張した事案ではない。従って、そもそも【事業の主宰者】なる基準の適否が争われた事案の典型例とは言いがたい。 NOTE 2. (1) 掲記の所基通12-3参照。 広島高松江支判昭和34年3月20日行集10巻3号427頁……夫が農地を所有しているが、耕作は妻が行なっており、夫は郵便局勤務で、耕作には時折関与する程度であった、という事実関係。農業所得は、主宰者たる妻に帰属する、と判断された。 [浅妻]しかし、努めて一人の「事業主」を探求すべきなのであろうか? 夫婦ともに農業に従事しているという事実が認められるならば、直截に共同事業として扱う方が合理的なのではなかろうか? |
§221.01協和興業事件・東京高判昭和39年12月9日行集15巻12号2307頁百選35松原有里4版58頁増田英敏 事実・争点 所謂株主相互金融会社の支払う利子が所得税法上の利子所得に当たるか(そして会社が源泉徴収義務を負うか)の争い。 判旨 消費貸借契約と消費寄託契約との区別を述べた上で、本件で問題となっている金銭の集め方は消費寄託契約によるものであり、従って利子所得に該当する、と結論付けた。 N&Q 2. 本当に消費貸借契約と消費寄託契約との差異が利子所得該当性判定の決め手か? 大洋セメント興業事件・東京高判昭和41年4月28日判タ194号147頁 「消費寄託と消費貸借との法律的概念のみをてがかりとして預金の実態を把握することは困難」 「預金の経済的実質」は(1)「法人が不特定多数の者から法人所定の定型的約款によって金銭を受け入れこれを自己の運用資金の主要部分とするとともに」(2)「不特定多数の者が何れも金銭の保管の安全性その払い戻しの確実性を挙げて法人への信用に委ねて金銭を預け入れ、通常これに対する一定割合の金銭(利子)の支払を受けるところ」にある。 東京高裁昭和39年判決(私法上の性質決定を重視)と昭和41年判決(預金の経済的実質を重視)とどちらの筋で答案構成すべきか?…形式的に見ればどちらも高裁レベルの判決なので、どちらに依拠しても構わないだろうが、最低限、消費貸借と消費寄託との違いには言及すべきであろう。 参照:佐藤英明「利子所得における『預金利子』の意義と範囲」神戸法学雑誌41巻1号61〜88頁1991年……リスク負担が鍵となると論ずる。 |
§211.03未実現利得 株式会社藤松事件・大阪高判昭和56年7月16日行集32巻7号1054頁…「利益積立金額を資本に組み入れることは、会社が、いったん利益積立金額を株主に分配したうえ、あらためて同額の資本の払い込みを受けることと同一の効果をもたらす」 |
§222.06ゴルフ会員権贈与事件(右山事件)・最判平成17年2月1日判時1893号17頁訟月52巻3号1034頁 一審(東京地判H12.12.21請求棄却。東京高判H13.6.27も棄却) 「所得税法が贈与による資産の所有権移転の場合における譲渡所得課税を繰り延べ、その後、当該資産が受贈者の支配を離れて他に移転する機会をとらえて、贈与者の取得の時以来清算されることなく蓄積されてきた資産の増加益を課税の対象としているのであるから、右増加益の算出上、譲渡による収入金額から控除すべき『資産の取得に要した金額』は、贈与者の取得の時において当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額及び当該資産を取得するための付随費用でなければならない。[改行]すなわち、所得税法60条により、贈与の前後を通じて贈与者が引き続き当該資産を所有していたものとみなされる以上、譲渡所得の算出に当たっては、贈与の事実はなかったものと考えるべきであり、そうである以上受贈者が自己への所有権移転のために支払った費用も一切無視するほかないのである。」「本件手数料は、贈与者であるAによる本件会員権の取得時において、本件会員権の客観的価格を構成するものではなく、Aが本件会員権を取得するための付随費用でもないから、本件会員権との関係で、所得税法38条1項にいう『資産の取得に要した費用』ということはできない。」 33条3項の「『資産の譲渡に要した費用』(譲渡費用)とは、当該所得の基因となった資産の譲渡に要した費用のことであるから、当該資産の譲渡に要した費用であるというべきである。……所得税法が、譲渡時の資産の増加益を把握してこれを対象として課税するとの考え方をとっていることから、右『資産の譲渡に要した費用』とは、登記・登録費用、仲介手数料、運搬費等、当該資産の譲渡のために直接要した費用のみならず、譲渡価格を増加するための費用を含む」。「本件手数料は、Xが、…本件ゴルフクラブの理事会に対して、自己が正会員となることの承認を得るために必要であった費用ということになり、本件会員権を取得するための費用であって、その譲渡に要する費用ということはできないから、本件手数料が所得税法33条3項にいう『資産の譲渡に要した費用』に当たるということもできない。」 最判H17.2.1判時1893-17 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1)上告人の父は,昭和63年11月18日,A株式会社に対し,代金1200万円を支払って,同社の経営するゴルフクラブの会員権(以下「本件会員権」という。)を取得し,同ゴルフクラブの正会員となった。 (2)上告人は,平成5年7月1日,その父から本件会員権の贈与を受け,同社に対し,名義書換手数料82万4000円(以下「本件手数料」という。)を支払って、上記ゴルフクラブの正会員となった。 (3)上告人は,平成9年4月3日,株式会社Bに対し,本件会員権を代金100万円で譲渡した。 (4)上告人は,平成10年3月3日,被上告人に対し,同9年分の所得税について総所得金額を3296万9202円とする申告をしたが,本件会員権の上記(3)の譲渡に係る所得金額(以下「本件譲渡所得金額」という。)の計算において,上記(1)の代金1200万円及び本件手数料82万4000円の合計1282万4000円を資産の取得費として,上記(3)の代金100万円を総収入金額として,それぞれ計上し,その差額の1182万4000円を総合課税の対象となる所得税法(以下「法」という。)33条3項2号所定のいわゆる長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額としていた。 (5)被上告人は,平成10年11月25日,本件譲渡所得金額の計算において本件手数料82万4000円を資産の取得費として認めることはできず,上記損失の金額は1100万円になるとして,上告人に対し,同9年分の所得税について総所得金額を3379万3202円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件更正のうち総所得金額3296万9202円を超える部分及び本件賦課決定の取消しを求める事案である。 3 原審は,次のとおり判示して,上告人の請求を棄却すべきものとした。 (1)法60条1項は,贈与等により資産を取得した者が当該資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算において「その者が引き続きこれを所有していたものとみなす」という強い表現を使用しており,その規定の趣旨からしても,受贈者が所有する資産についての譲渡所得課税においては,贈与の前後を通じて受贈者が引き続き当該資産を所有していたとみなされるのであるから,譲渡所得金額の算定に当たり,中間の贈与の事実はなかったものと扱うほかなく,受贈者が自己への所有権移転のために支払った費用があったとしても,無視せざるを得ない。 本件譲渡所得金額の計算においては,上告人が父から本件会員権の贈与を受けた事実も,その際に上告人が本件手数料を支払った事実もなかったとみなすことになるから,本件手数料は法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に当たらない。 (2)本件手数料は,法33条3項にいう「資産の譲渡に要した費用」に当たらない。 4 しかしながら,原審の上記3(1)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1)譲渡所得の金額について,法は,総収入金額から資産の取得費及び譲渡に要した費用を控除するものとし(33条3項),上記の資産の取得費は,別段の定めがあるものを除き,その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額としている(38条1項)。この譲渡所得に対する課税は,資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として,その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものである(最高裁昭和41年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁,最高裁昭和47年(行ツ)第4号同50年5月27日第三小法廷判決・民集29巻5号641頁参照)。そして,上記「資産の取得に要した金額」には,当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか,当該資産を取得するための付随費用の額も含まれると解される(最高裁昭和61年(行ツ)第115号平成4年7月14日第三小法廷判決・民集46巻5号492頁参照)。他方,法60条1項は,居住者が同項1号所定の贈与,相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)により取得した資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算について,その者が引き続き当該資産を所有していたものとみなす旨を定めている。上記の譲渡所得課税の趣旨からすれば,贈与,相続又は遺贈であっても,当該資産についてその時における価額に相当する金額により譲渡があったものとみなして譲渡所得課税がされるべきところ(法59条1項参照),法60条1項1号所定の贈与等にあっては,その時点では資産の増加益が具体的に顕在化しないため,その時点における譲渡所得課税について納税者の納得を得難いことから,これを留保し,その後受贈者等が資産を譲渡することによってその増加益が具体的に顕在化した時点において,これを清算して課税することとしたものである。同項の規定により,受贈者の譲渡所得の金額の計算においては,贈与者が当該資産を取得するのに要した費用が引き継がれ,課税を繰り延べられた贈与者の資産の保有期間に係る増加益も含めて受贈者に課税されるとともに,贈与者の資産の取得の時期も引き継がれる結果,資産の保有期間(法33条3項1号,2号参照)については,贈与者と受贈者の保有期間が通算されることとなる。 このように,法60条1項の規定の本旨は,増加益に対する課税の繰延べにあるから,この規定は,受贈者の譲渡所得の金額の計算において,受贈者の資産の保有期間に係る増加益に贈与者の資産の保有期間に係る増加益を合わせたものを超えて所得として把握することを予定していないというべきである。そして,受贈者が贈与者から資産を取得するための付随費用の額は,受贈者の資産の保有期間に係る増加益の計算において,「資産の取得に要した金額」(法38条1項)として収入金額から控除されるべき性質のものである。そうすると,上記付随費用の額は,法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において「資産の取得に要した金額」に当たると解すべきである。 (2)前記事実関係によれば,本件手数料は,上告人が本件会員権を取得するための付随費用に当たるものであり,上告人の本件会員権の保有期間に係る増加益の計算において「資産の取得に要した金額」として収入金額から控除されるべき性質のものということができる。したがって,本件譲渡所得金額は,本件手数料が「資産の取得に要した金額」に当たるものとして,これを計算すべきである。 そうすると,上告人の平成9年分の所得税については,総合課税の対象となる長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額が1182万4000円となり,総所得金額が3296万9202円となるから,本件更正のうちこの総所得金額を超える部分及び本件賦課決定は違法である。 5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上告人の請求には理由があるから,第1審判決を取消して,同請求を認容することとする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 N&Q 2. (1)通常、譲渡人の譲渡収入が譲受人の取得価額と等しい(付随費用を考えれば=ではなく≒であるが)ので、譲渡所得課税において二重課税や課税漏れは大体防げる。 (2)譲渡収入は譲渡資産の時価ではなく、取得資産の時価である。これは36条が「その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)」と規定しているからである。しかし、贈与や低額譲渡など特殊な場合に、判例のいうところの清算課税説が顔を出して、収入=譲渡資産の時価とされることが例外的にある。 (3)(5)長期譲渡所得は半額課税となる(22条2項2号)。譲渡所得の計算における特別控除は、33条5項により、先ず短期から、残っていれば次に長期から控除される(ケースブックの「残額がある場合には短期譲渡所得から」の「短期」は「長期」であろう)。 例えば、短期譲渡所得が40万円、長期譲渡所得が30万円であるとする。5項の規定により、短期譲渡所得の40万円が消され、残額の10万円が長期譲渡所得から引かれ、残るのは長期譲渡所得20万円だけである。半額課税なので、結局総合所得課税の対象となるのは10万円だけである。 仮に5項がなく、そして課税当局が特別控除の充当先を勝手に選べるとするならば、先に長期譲渡所得の30万円を消し、残額の20万円を短期譲渡所得から控除して、短期譲渡所得20万円が残る、とした方が、税額が増える。短期譲渡所得は半額にならないので20万円がそのまま総合所得課税の対象となるからである。尤も、仮に5項がなかったならば、申告納税制度という建前からして、特別控除の充当先は納税者が自分にとって有利なように決めることとなろう(規定がないので納税者が勝手に順番を選ぶことができる例はある)。 |
§224.03 嶋モータース事件・名古屋高裁金沢支判昭和49年9月6日行集25巻8=9号1096頁 事実・争点 日産と特約店契約を結ぶため、Xの個人事業(嶋モータース)から、会社形態のE社に変更することを企図。借入金も利用しE社設立。この借入金利子はXの事業所得の計算上の損失と見ることができるか? 判旨 「X個人事業と訴外E社とを会計上あるいは税法上同一視することもできぬ」 本件の借入金利子は配当所得の計算上の損失となる。また、所得税法69条1項は、配当収入より借入金利子が上回る場合の他の分類の所得との損益通算を予定してない。 余談 もし日産の特約店になるのに株式会社でなくてもよければ、上のような悲劇は起きなかっただろう。 |
§231.02賃貸用土地贈与事件・大阪高判平成10年1月30日税資230号337頁 事実・争点 父Aから子Xに土地を贈与。Xは贈与の前後を通じて不動産賃貸業に従事。不動産取得税・登録免許税を、不動産所得計算上の必要経費に算入しようとしたが、Y税務署長は認めなかった。 判旨 控訴棄却・請求棄却 「ある支出が必要経費として控除されうるためには、それが客観的にみて事業活動と直接の関連をもち、事業の遂行上直接必要な費用でなければならない」 「贈与によって資産を取得する行為そのものは、所得を得るための収益活動とみることはできない」。不動産賃貸業のためであっても贈与という「性格に変化はな」い。 土地移転の「主たる目的はAからXに対する相続財産の前渡である」。 「Xが本件土地に関して負担した登録免許税、不動産取得税は、所税45条1項1号所定の家事上の経費に該当し、同法施行例96条1、2号所定の業務の遂行上必要であった経費には該当しない」 Cf.ケースブック1版§231.01 経営コンサルタント事件・東京地判昭和45年5月25日行集21巻5号827頁 事実・争点 Xの自動車の月賦手数料と、A社(Xが代表取締役)に対する貸倒損失(A社に対する経営コンサルタント業に関連して発生した損失であるとXは主張)が必要経費として認められるか。 判旨「自動車の取得価額に含め、減価償却の方法によって当該金額を各年分の費用に配分するのが相当」 「事業所得の金額計算上控除が認められる貸倒損失は、…当該事業所得をうるために通常必要とされる貸付金の貸倒に限られる。」「X主張の貸付金等は、…Xの経営コンサルタント又は中小企業診断員としての業務とは無関係である。」 類例:大阪地判平成29年3月15日訟月64巻2号260頁請求棄却、大阪高判平成29年9月28日訟月64巻2号244頁控訴棄却、最三小決平成30年4月17日平成30(行ツ)20号上告棄却・上告不受理。所得税法37条1項「必要経費」に関し「直接」関連性を要しないとした東京高判平成24年9月19日判タ1387号190頁(弁護士の交際費の一部の必要経費算入を認めた)の流れと異なり、贈与税の業務との関連性の有無に焦点を当てず、贈与税の性質論から必要経費非該当の結論を導く。 N&Q 2. 必要経費の控除を認めないと、課税が原資に食い込み、事業の拡大再生産を阻害することとなるという説明がなされる。 必要経費控除を認めない税制が仮にあるとすると、所得税とは性質が異なる税ということとなる。立法裁量の広さに照らし、違憲とされるか微妙である(憲法29条財産権保障の問題となろうか)が、経済活動に大きな歪みをもたらすであろう。 N&Q3. 必要経費と家事費・家事関連費(所税45条)との区別…講義ノート4.1.2.4.参照。 |
§234.01 鉄骨材取得価額事件・最判昭和30年7月26日民集9巻9号1151頁 売上原価の時価調整を行なわないことにより、インフレによる名目的所得にも(特例なき限り)課税が及んでしまうが、(立法論としてはともかく)解釈論としては仕方ない。 本件は事業所得についての事案であるが、本件の課税がけしからないとすれば、そもそも譲渡所得課税もけしからない、という立論につながる(そしてそれは原理的には包括的所得概念批判にも繋がりうる。包括的所得概念を堅持しつつインフレ利得につき救済を施すべし、との立論は不可能ではないが、各自考えてみよ)。また、§222.03・、二重利得法参照。 本件を見ると、インフレによる名目的所得への課税は可哀相に映る。しかし、【売値−買値】の差額には様々な性質のものが含まれうる。どのような性質のものが含まれるか、考えてみよ。また、それぞれの性質ごとに租税法上異なる扱いをすべきか、そして異なる扱いをすべきとするときにその執行方法はどのように担保するか、考えてみよ。 N&Q 1. (1)(2)年間総仕入額と年間総売上額を記録する方法の妥当性の有無と限界。 N&Q 2. 先入先出法と後入先出法は所詮擬制(フィクション)にすぎない。どちらが現実に即しているかは明らかにしようがない。 表2のようなインフレ期において、納税者にとっては先入先出法と後入先出法のどちらが有利か?また、デフレ期においては? |
§242.02 「災難」事件・最判昭和36年10月13日民集15巻9号2332頁 事実・争点 土地譲渡にあたりなした根抵当権抹消のための300万円の支出が、譲渡収入金額から除かれるか、譲渡経費か、または雑損控除の対象となるか。 判旨 「雑損とは、納税義務者の意思に基づかない、いわば災難による損失を指す」 「Xの求償権が所論のとおり取立不能であっても…雑損として控除できない」 N&Q 1. 納税者の責めに帰さない損失について税務上配慮するという趣旨にしては網が狭い。 N&Q2.盗難といえるかどうか。通達はどういっているか。 詐欺が72条の対象に含まれているか。 「災害」とは本人の責めに帰すものではないというものを指すか。 N&Q3. 所得=消費+純資産増加 しかし現行法はこの定義式を含んでいないので必ずしもこの定義に沿った課税結果が導かれるとは限らない。 納税者自身の責めに帰さない或いは可哀相な損害以外の損害は所得計算(純資産増加の計算)に含めない。結果として、(消費による滅失を考慮しないという部分は正当化できるが)控除否定が強すぎる嫌いもある。 N&Q4. 「生活に通常必要でない資産」(例えば別荘)等に係る損失は、雑損控除の対象から外されており(所得税法72条1項)、譲渡所得金額計算上においてのみ控除される(62条1項)。その資産の損失が他の譲渡所得を上回っても、(譲渡所得の損失は69条1項により損益通算の対象となっているが)69条2項により他の所得分類と通算できない。 「生活に通常必要な動産」(令25条)についての譲渡損益はないものとみなされる(9条1項9号、2項1号)。 現に居住している家屋が災害にあった場合は雑損控除の対象となる。 N&Q5. 医療費控除(73条)…人的資本概念からも説明できよう。 |
4版§161.02 東京産業信用金庫事件・最判昭和48年11月16日民集27巻10号1333頁 事実・争点 NからXに土地建物を譲渡担保として提供。譲渡担保目的の不動産の取得を不動産取得税の課税対象から除く規定が無かった当時、不動産取得税が課せられるか? 一審・二審 類推解釈により課せられない。 最高裁 破棄自判、請求棄却 「不動産取得税は、いわゆる流通税に属し、不動産の移転の事実自体に着目して課せられるものであって、不動産の取得者がその不動産を使用・収益・処分することにより得られるであろう利益に着目して課せられるものではない」。 「『不動産の取得』とは、不動産の取得者が実質的に完全な内容の所有権を取得するか否かには関係なく、所有権移転の形式による不動産の取得のすべての場合を含む」。 信託について特例があるが「租税法の規定はみだりに拡張適用すべきものではない」。 N&Q最高裁が常に形式重視とは言い切れない。問題の税(ここでは流通税)が何に着目しているか。 [浅妻]常に法形式を尊重する(譲渡担保は経済的にのみならず法的実質としても担保であるといえようが、そうした法的実質を軽視する)と言ってしまうと、租税回避の横行に全く歯止めがかからなくなる恐れもある。最高裁はそこまで常に形式重視であるとは考えにくい。 流通税が形式に着目する傾向が強いのに対し、所得税などでは経済的成果も視野に入れる傾向が(あくまで流通税などと比べて、というにすぎないが)強くなるのではないか(後述の所謂経済的実質説を支持するというものではない)。 cf.譲渡所得の発生と譲渡担保について§222.02のN&Q 6.参照。 |
§321.03 大竹貿易株式会社事件・最判平成5年11月25日民集47巻9号5278頁 百選62 1 上告人は、ビデオデッキ、カラーテレビ等の輸出取引を業とする株式会社であるが、上告人と海外の顧客との間の輸出取引は、上告人において輸出商品を船積みし、運送人から船荷証券の発行を受けた上、商品代金取立てのための為替手形を振り出して、これに船荷証券その他の船積書類を添付し、いわゆる荷為替手形として、これを上告人の取引銀行で買い取ってもらうというものであった。なお、国際商業会議所において採択された貿易条件の解釈に関する国際規則(インコタームス)に示された主要貿易条件に関する統一的解釈によれば、右のように船荷証券が発行されている場合には、上告人が採用しているいずれの貿易条件によっても、売主が船荷証券を中心とする船積書類を整えて買主に提供したときに、商品の所有権は買主に移転し、その効果が船積みの時にさかのぼるものとされている。 2 今日の輸出取引においては、信用状の授受や輸出保険制度の利用により、売主は商品の船積みを完了すれば、取引銀行において為替手形を買い取ってもらうことにより売買代金の回収を図り得る実情にある。このような輸出取引の実情を背景として、輸出取引による収益の計上については、船積時を基準として収益を計上する会計処理(以下、この会計処理基準を「船積日基準」という。)が、実務上は、広く一般的に採用されている。 3 ところが、上告人は、前記の荷為替手形を取引銀行で買い取ってもらう際に船荷証券を取引銀行に交付することによって商品の引渡しをしたものとして、従前から、荷為替手形の買取りの時点において、その輸出取引による収益を計上してきており(以下、この会計処理基準を「為替取組日基準」という。)、昭和五五年三月期及び同五六年三月期においても、輸出取引による収益を右の為替取組日基準によって計上して所得金額を計算し、法人税の申告を行った。 4 これに対し、被上告人は、為替取組日基準により収益を計上する会計処理は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合せず、輸出取引による収益を船積日基準によって計上すべきものとして、上告人の昭和五五年三月期及び同五六年三月期の所得金額及び法人税額の更正を行った。 二 法人税法上、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る収益の額とするものとされ(二二条二項)、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされている(同条四項)。したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと考えられる。もっとも、法人税法二二条四項は、現に法人のした利益計算が法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から、収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解されるから、右の権利の確定時期に関する会計処理を、法律上どの時点で権利の行使が可能となるかという基準を唯一の基準としてしなければならないとするのは相当でなく、取引の経済的実態からみて合理的なものとみられる収益計上の基準の中から、当該法人が特定の基準を選択し、継続してその基準によって収益を計上している場合には、法人税法上も右会計処理を正当なものとして是認すべきである。しかし、その権利の実現が未確定であるにもかかわらずこれを収益に計上したり、既に確定した収入すべき権利を現金の回収を待って収益に計上するなどの会計処理は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものとは認め難いものというべきである。 三1 これを本件のようなたな卸資産の販売による収益についてみると,前記の事実関係によれば、船荷証券が発行されている本件の場合には、船荷証券が買主に提供されることによって、商品の完全な引渡しが完了し、代金請求権の行使が法律上可能になるものというべきである。したがって、法律上どの時点で代金請求権の行使が可能となるかという基準によってみるならば、買主に船荷証券を提供した時点において、商品の引渡しにより収入すべき権利が確定したものとして、その収益を計上するという会計処理が相当なものということになる。しかし、今日の輸出取引においては、既に商品の船積時点で、売買契約に基づく売主の引渡義務の履行は、実質的に完了したものとみられるとともに、前記のとおり、売主は、商品の船積みを完了すれば、その時点以降はいつでも、取引銀行に為替手形を買い取ってもらうことにより、売買代金相当額の回収を図り得るという実情にあるから、右船積時点において、売買契約による代金請求権が確定したものとみることができる。したがって、このような輸出取引の経済的実態からすると、船荷証券が発行されている場合でも、商品の船積時点において、その取引によって収入すべき権利が既に確定したものとして、これを収益に計上するという会計処理も、合理的なものというべきであり、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものということができる。 2 これに対して、上告人が採用している会計処理は、荷為替手形を取引銀行で買い取ってもらう際に船荷証券を取引銀行に交付することによって商品の引渡しをしたものとして、為替取組日基準によって収益を計上するものである。しかし、この船荷証券の交付は、売買契約に基づく引渡義務の履行としてされるものではなく、為替手形を買い取ってもらうための担保として、これを取引銀行に提供するものであるから、右の交付の時点をもって売買契約上の商品の引渡しがあったとすることはできない。そうすると、上告人が採用している為替取組日基準は、右のように商品の船積みによって既に確定したものとみられる売買代金請求権を、為替手形を取引銀行に買い取ってもらうことにより現実に売買代金相当額を回収する時点まで待って、収益に計上するものであって、その収益計上時期を人為的に操作する余地を生じさせる点において、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものとはいえないというべきである。このような処理による企業の利益計算は、法人税法の企図する公平な所得計算の要請という観点からも是認し難いものといわざるを得ない。 [裁判官味村治、同大白勝の反対意見がある] 反対意見──「船荷証券を直接買主に引き渡すことは極めてまれ」。「取引銀行を介」すのが「通例」。「為替取組日基準による会計処理も、前記の一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合する」。この基準を「継続」していれば「任意に操作」して「不当に税負担を免れ」ることもない。 N&Q 1. 権利確定主義 違法な所得・支出 管理支配基準 それぞれの意味についてチェック。 3. 「遅かれ早かれいつかは課税されるのであれば、それはしょせんタイミングの問題にすぎない」にとどまらない理由……課税繰延の利益、損益通算の可能性、税率の変動 |